軍人の話
飛び交う銃撃音。上がる火柱。
男達の怒号。時折起こる爆風。
「すっごいねぇ、兄さん」
「……そうだな」
ここはそれらから少し離れた森の中。
木々の合間から見えるそれらを、『片割れ』は興味深そうに眺めている。
「人間て不思議だよねー。こんなに本気で相手を殺ろうと思えるんだから」
「…………」
「あ……、ゴメン兄さん。傷、大丈夫?」
「……何とか、な」
手足から流れる紅い血。
痛みは引いている。その内流血も止まるだろう。
俺達はそういう存在だ。
人の命をあっさり奪って行く凶器も、俺達には効かない。
……銀を除いては。
「あぁ、ここに居たんですか」
木々と茂みをかき分け、1人の男が姿を現わす。
銀の長い前髪で片目は隠れている。が、人の良さそうな顔……らしい。
女の武官が時折、彼に視線を向けているのを度々見かけたからそうなのだろう。
俺は人間の諸事に口を出すほど、コイツらに興味がある訳ではない。
「ちょっと休憩中だよ~」
「…………」
「おや、怪我をしていますね。……大分治りが早いようですが」
俺の傷を見るなり、そいつは言った。
「傷の治りが早い、凶器も余程の事が無い限り効かない。……それ聞いて僕らを戦場に追い立てたのはどこの誰?」
「あははは……、すみません……。ですが、戦線離脱の自由は認めましたよ? 現に今こうして貴方方は休んでいるじゃないですか」
「……『狩る』魂は、限られているからな」
「そうそう。僕らは人間みたいに、簡単に命を奪えないからね」
そう、『悪しき魂』だけを『狩る』俺達にとって戦場で戦う、と言う事は簡単な事ではない。
いくら死ぬ事は無いとは言え、戦場で使えるかと問われれば答えは『否』だ。
「まぁ、そうですね。貴方方の戦果はあまり良い物とは言えませんしね……。少し気になったのですが、貴方方の言う『悪しき魂』とはどういった物なのですか?」
「戦果は、って……、僕らを監視してたのかな……?」
「……さぁな」
『片割れ』と小声でそんな会話を交わし、男の疑問に答えてやる事にした。
「俺達にも良くは分からない。……が、『悪』と感じた魂は『狩らな』ければならない」
「つまりは……貴方方にも分からない、と?」
「そう言う事。人であれ動物であれ……『悪』だなって思った魂は『狩らな』きゃいけない」
「……例えそれが、『契約』を交わした主でも、な」
男の片目を見ながら俺は言った。
男の目に映った俺の瞳は、紅く染まっていた。
けれど、男は動じない。どころか大いに笑って見せた。
「ははははははっ、僕を脅しても何も出ませんよ。それに、貴方方は人間の事を何も分かっていない!」
……当たり前だ。
『片割れ』がどうなのかは知らんが、俺は人間に興味などない。
男は今まで見せた事のない、暗い笑みで言う。
「こうして戦争なんて物を始めた時点で、人間はどちらの勢力に立とうと『悪』なんですよ」