4 はじめての魔力弾、最悪の命中
(よし、まずはそなたの装備を見せてくれ)
ルシファーは、サタンの持つ最高の装備を見せるように言ってきた。
わずかに動揺するサタン。
「それが……ですね……今着ている服とこの棒だけでして……」
気まずさのあまり、敬語になるサタン。
ぼろ布を何とか着られるように加工した衣類。
手に持つのは、直径十五センチほどの太さの棒だ。
持ち手の部分だけ、握りやすい太さに加工されている。
(本気か? 逆にこれだけでよく生き残れたな)
ルシファーは違う意味で感心しているようだったが、サタンは少し恥ずかしい気持ちになった。
「この木の棒は魔界に生える、ものすごく硬い木を削りだした一品だ! 俺が頑張って何日もかけて削りだしたものなんだ」
魔界に生える魔鋼木という、金属のように硬い木を削りだしたものだ。
サタンは知らぬが、その硬度は人間界にある青銅の硬さに匹敵する木であった。
しかし、ルシファーは納得しない。
(……そなたは魔界をなめているのか?)
いかに硬い木だろうが、こん棒が武器で、この魔界に住まう化け物達に通用するとは思えない。
こん棒は持つ者の斥力に威力が比例するので、持つ者の力が弱ければ、あまり有用な武器ではないとのことだ。
「そうはいわれても、武器や防具を作る魔人にも知り合いはいないしな」
サタンは言い訳するように、ルシファーに告げる。
ルシファーは気持ちを切り替える。
無いものを嘆いても仕方がない。
(むう、ないものは仕方ない。では、気を取り直して、魔力を使って何か術を使ってくれ。術を使わない、ただの魔力弾でもいいぞ)
「いや~~~~、それもどうやっていいか……」
サタンは頭をポリポリとかきながら、困ったように答えた。
(なに!! それもできぬというのか!)
ルシファーは、サタンの頼りなさにあきれてしまった。
「ついでに肉体的にもそんなに強くないぜ!!」
完全に開き直ったのか、いい笑顔でサタンは宣言した。
(……)
ルシファーは思う。
なぜこんな奴に受肉してしまったのかと。
受肉したのは、たまたまだったと言われればそのとおりなのだが、受肉の瞬間、なぜか
“この者と共にならば、われの目標も果たせる”
と、確かに感じたのだ。
自分の思い違いだったのではないかと、不安を覚え始めたルシファーだったが、受肉した以上、特殊な方法でなければサタンから離れることはできない。
なにより、今この身から離れれば、弱りきった自分は魔界の瘴気によって消滅してしまう。
せめてこの仮の肉体を抜け出すまで、この者には生き残る力を身につけてもらわねばならない。
また、力を取り戻す手段をこの魔界で探さなければならない。
ここでじっと目立たず過ごすのも一策ではあるが、魔界では神力がほとんど回復しないことを、この二週間で実感していた。
完全に力を取り戻すまで、何年かかるか分かったものではない。
やはり、この魔界を旅し、手がかりを探す必要があるだろう。
となれば……この者に強くなってもらうしかなるまい。
当面の目標は、この者の魔力強化と神力の回復。
肉体を取り戻す方法の模索、それと救いを求めている者は救うことだ。
(では、修練だな。われがそなたの魔力を使って、魔力弾を打ち出してみよう)
「おお、そんなことができるのか」
(神力と使い方はだいたい同じようだからな。神力を使うときとの真逆のイメージで練り上げれば……)
ルシファーはサタンの体を動かし、手のひらに力を集めるようにイメージする。
サタンは、何か熱い物が体の表面を通って手に集まるのを感じた。
すると、だんだん手のひらから禍々しい黒い球が出現した。
「おお、なんだこれ!?」
(これがそなたの体の中の魔力から作り出した魔力弾だ。今の感覚を忘れるなよ)
「しかし、思ったより小さいな」
ピンポン球くらいの魔力弾を眺めながらつぶやく。
サタンは少し残念そうである。
(それはそなたの魔力が少ないせいだ)
ルシファーはあきれたように言い、次の指示を出す。
(では、それをあちらの方向へ打ち出してみるのだ)
「どうやって?」
(手のひらと魔力弾の間に、もう一つ小さな魔力弾を作り、それを爆ぜさせるのだ。方向性を持たせるためのものだから、目に見えないほどの大きさでも構わない)
サタンは教えられた通り、豆粒ほどの大きさの魔力弾を作り、それを爆ぜさせた。
すると最初に作り出した魔力弾は、ものすごい勢いで手のひらの向いた方向へ飛んでいった。
遠くの方で、何かに当たった音がした。
それと同時に、サタンは手のひらに痛みを感じた。
「痛っっってぇ!」
(魔力弾を飛ばすための小爆発にもコツがいる。……今のは大きすぎだな。慣れればもっと滑らかに放てる。速度も出るし、痛みも感じなくなる)
「でもこれで俺も魔力弾、使えるようになったんだな! 俺ってもしかして天才なのかも」
(自分で言うか……そなたの魔力では、小鳥の卵ほどの大きさが限界だったがな。――われは疲れた。しばらく休む。その間に練習しておくのだぞ)
ルシファーは、慣れぬ魔力を扱ったことで消耗したらしく、それ以来話しかけてこなかった。
*
「なんだよ。指導してやるとか偉そうに言ってたくせに、もうへばってんのか。まあ、これでうるさく言うやつもいなくなったことだし、散歩でもしゃれ込もう」
俺はせいせいした気分で、魔境の探索をすることに気持ちを向けた。
“バキバキッ”
すると、先ほど魔力弾を放った方角から、木がなぎ倒される音が聞こえてくる。
何やら巨大な魔獣の気配を感じる。
それも、かなり怒っている感じの。
「これは、まさか俺の撃った魔力弾があの魔獣に当たったみたいな?」
魔獣の気配はどんどん近づいてくる。
木々の間から、大きな影が見えた。
「……でかい」
音が近づくごとに、全身から血の気が引くのを感じる。
隠れるところを探してみるが、あたりには細い木々しかなく、隠れる遮蔽物がなかった。
とうとう魔獣が目の前に現れてしまった。
軽く二メートルを超える体高。
分厚い皮膚と、かたい剛毛と、眉間に生える一本の角。
そして、口元から伸びる巨大なナイフのように研ぎ澄まされた湾曲した大牙。
一角の生えた大きなイノシシの魔獣が、鼻息荒く、怒気をはらんだ瞳で俺をとらえていた。
「これは……人生最大のピンチだ」
俺は静かにつぶやいた。




