15 サタンの旅支度
「サタン様、次はどちらへ向かわれますか?」
ヨルカが俺に尋ねる。
「とりあえず、ゾイルの里に向かうよ。俺も武器が欲しいしな」
魔力弾と呪文で、大抵の敵ならどうにかできるようにはなってきた。
けれど、やはり近接用の武器は欲しい。
さすがに至近距離で魔法をぶっ放すわけにもいかないし、魔力が尽きかけた時でも、武器さえあればどうにかなる。
それに、武器を持って戦うほうが単純にかっこいい。
どんな武器にするかは、まだ決めていない。
ただ、変にクセの強いものより、使いやすく素直な武器がいいとは思っている。
「わかりました。すぐに用意しますので、少々お時間をください」
そう言うと、ヨルカはそそくさと自分の部屋へ引っこんでいった。
これまで単独行動、それも隠密のような仕事ばかりだったらしいから、誰かと一緒に旅をするのは今回が初めてなのだろう。
そのせいか、どこか少し張り切っているようにも見えた。
……余計なものまで持ってこなければいいんだけどな。
そんなことを考えつつ、俺も出発の準備を整えることにした。
「ところで、ゾイル。ここからその里まではどれくらいなんだ?」
「だいたい、歩いて三日ほどの場所にあります」
歩いて三日なら、距離にして九十キロほどか。
「そうか。なら、荷物はそんなにいらないな」
それほど遠くないとわかり、身軽な装備で行くことにした。
今や数日程度の移動であれば、食料や水分の補給も必要ない体になっていた。
とはいえ、うまい料理を求める気持ちはまったく別である。
「ところで、サタン様。ここ数日のうちに、どこか体つきが変わられたように見えるのですが?」
ゾイルは足先から頭まで、俺の姿をじっくり眺めた。
「筋肉がついて、ずいぶんたくましくなられたようにお見受けします。それに歩き方も、体幹に芯が通ったようにしっかりしていて……まるで武術の達人のようです」
「い、いや、まさか~。何も変わってないヨ?」
ぎくり、とした。
ゾイルのやつ、なんて観察眼だ。
さすが狩人というべきか。
思わず声が上ずってしまったが、気づかれていないことを祈るしかない。
「そうですか? ……私には、この村に来る前よりも妙にがっしりされたように見えるのですが」
「いやいや、きっと気のせいだって。そうに違いない。あ、もしかしたら戦いで鍛えられたのかもしれないな~」
俺はぎこちない笑みを浮かべながら答える。
「いや、サタン様は先ほどの戦いで、ほとんど動いておられませんでしたよね?」
そうだった。
俺はさっきの戦いで、ほとんど動いていない。
カシラの攻撃も、魔力をまとった体で受けただけだ。
「うっ……! じゃ、じゃああれだ。道の柵を作るの、手伝ってたんだよ!」
「私も手伝っておりましたが、サタン様のお姿は見かけなかったような……。何か、隠していませんか?」
ゾイルは俺の目をのぞき込むように、すっと顔を寄せてきた。
「そりゃあ、少しくらい秘密はあるさ。隠れて筋トレしてたとか」
「……そうですか。まあ、そういうことにしておきましょう」
ゾイルは、それ以上追及してこなかった。
俺にどうしても隠しておきたいことがあるのだと察したのだろう。
やはり、こやつは信頼できる。
できる大人の対応というやつだ。
「では、私も準備してきます。また門の前で」
そう言って、ゾイルは家を出ていった。
「危なかった~……」
誰もいなくなった部屋で、俺はぽつりとつぶやく。
実際、俺自身も自分の肉体の変化には気づいていた。
イルカが毎日うまい料理を作ってくれるせいで、魔力がどんどん成長している。
それに伴って、背中の三対六枚の羽も少しずつ大きくなっていた。
そろそろ服を新調しないと、羽が服を突き破りそうだ。
……イルカに作ってもらうか。
それに、今日食ったユニコーンとゴルド族のカシラの魂は大きかった。
肉体の格が、一気に跳ね上がったのだ。
筋肉がつき、体幹は安定し、どんな体勢からでも即座に反撃へ移れる、しなやかな体を手に入れていた。
「でも、そろそろこの羽も隠しきれなくなるよな~……」
なるべく折りたたんではいる。
だが、それでも三対六枚もあれば、どうしたってシルエットは変わってくる。
頭を抱える俺に、ルシファーが頭の中から声をかけてきた。
(何も隠す必要などあるまい。われの美しい羽ではないか。皆に見せつけてやればよい)
「いや、ワ族やゴルド族の話を聞いただろ? みんなお前を探してるんだよ」
(聞いたとも。皆、われを求め、加護を授かりたいのであろう? ならばそうしてやるのが強き者のさだめよ。皆、大いに敬えばよい)
「いや、なんかこう……面倒ごとに巻き込まれる気しかしないんだよな。それに、まだ俺自身そんなに強くないし」
(われがついておるから大丈夫なのだ)
いや、どれだけ自分に自信があるんだ、こいつ。
今の俺には、上位魔人や上位魔獣と正面からやり合える自信なんてない。
それくらい、上位の連中とは力の隔たりがある。
おそらく下位魔人がそれぞれ高性能な武器を持ち、数千単位で挑んでようやく互角。
たった一人を相手に、一個師団級の兵力が必要になるほどだ。
しかも、それは両者とも魔法を使わない前提での話である。
上位魔人がどんな魔法を使うかによっては、その差はさらに広がるだろう。
ルシファーだって、この前まで消滅寸前だったくせに。
「まあ、でも正体を明かすのは、もっと力をつけてからがいいさ。ここで変に目立って、強い奴に消されたらつまらないだろ?」
俺は諭すようにルシファーへ言った。
(……まあな。せっかくそなたに拾われた命だ。そなたの意思を尊重して動くとしよう)
若干の不安は残るが、とりあえず納得してもらえたらしい。
「とりあえず今は、武器を手に入れて、敵を倒して、うまいものを食って力をつける。それでいこう」
(うむ、そうだな)
「よし。じゃあ、ゾイルの里に向かうとしよう」
俺は荷物を背負い、門へと向かった。
必要ならこのまま
「小説家になろう向けに、さらに読みやすく改行多め版」
にもできます。
もちろんです。
「小説家になろう」向けに、さらに改行を多めにして読みやすくした版です。
「サタン様、次はどちらへ向かわれますか?」
ヨルカが俺に尋ねる。
「とりあえず、ゾイルの里に向かうよ。俺も武器が欲しいしな」
魔力弾と呪文で、大抵の敵ならどうにかできるようにはなってきた。
けれど、やはり近接用の武器は欲しい。
さすがに至近距離で魔法をぶっ放すわけにもいかないし、魔力が尽きかけた時でも、武器さえあればどうにかなる。
それに、武器を持って戦うほうが単純にかっこいい。
どんな武器にするかは、まだ決めていない。
ただ、変にクセの強いものより、使いやすく素直な武器がいいとは思っている。
「わかりました。すぐに用意しますので、少々お時間をください」
そう言うと、ヨルカはそそくさと自分の部屋へ引っこんでいった。
これまで単独行動、それも隠密のような仕事ばかりだったらしいから、誰かと一緒に旅をするのは今回が初めてなのだろう。
そのせいか、どこか少し張り切っているようにも見えた。
……余計なものまで持ってこなければいいんだけどな。
そんなことを考えつつ、俺も出発の準備を整えることにした。
「ところで、ゾイル。ここからその里まではどれくらいなんだ?」
「だいたい、歩いて三日ほどの場所にあります」
歩いて三日なら、距離にして九十キロほどか。
「そうか。なら、荷物はそんなにいらないな」
それほど遠くないとわかり、身軽な装備で行くことにした。
今や数日程度の移動であれば、食料や水分の補給も必要ない体になっていた。
とはいえ、うまい料理を求める気持ちはまったく別である。
「ところで、サタン様。ここ数日のうちに、どこか体つきが変わられたように見えるのですが?」
ゾイルは足先から頭まで、俺の姿をじっくり眺めた。
「筋肉がついて、ずいぶんたくましくなられたようにお見受けします。それに歩き方も、体幹に芯が通ったようにしっかりしていて……まるで武術の達人のようです」
「い、いや、まさか~。何も変わってないヨ?」
ぎくり、とした。
ゾイルのやつ、なんて観察眼だ。
さすが狩人というべきか。
思わず声が上ずってしまったが、気づかれていないことを祈るしかない。
「そうですか? ……私には、この村に来る前よりも妙にがっしりされたように見えるのですが」
「いやいや、きっと気のせいだって。そうに違いない。あ、もしかしたら戦いで鍛えられたのかもしれないな~」
俺はぎこちない笑みを浮かべながら答える。
「いや、サタン様は先ほどの戦いで、ほとんど動いておられませんでしたよね?」
そうだった。
俺はさっきの戦いで、ほとんど動いていない。
カシラの攻撃も、魔力をまとった体で受けただけだ。
「うっ……! じゃ、じゃああれだ。道の柵を作るの、手伝ってたんだよ!」
「私も手伝っておりましたが、サタン様のお姿は見かけなかったような……。何か、隠していませんか?」
ゾイルは俺の目をのぞき込むように、すっと顔を寄せてきた。
「そりゃあ、少しくらい秘密はあるさ。隠れて筋トレしてたとか」
「……そうですか。まあ、そういうことにしておきましょう」
ゾイルは、それ以上追及してこなかった。
俺にどうしても隠しておきたいことがあるのだと察したのだろう。
やはり、こやつは信頼できる。
できる大人の対応というやつだ。
「では、私も準備してきます。また門の前で」
そう言って、ゾイルは家を出ていった。
「危なかった~……」
誰もいなくなった部屋で、俺はぽつりとつぶやく。
実際、俺自身も自分の肉体の変化には気づいていた。
イルカが毎日うまい料理を作ってくれるせいで、魔力がどんどん成長している。
それに伴って、背中の三対六枚の羽も少しずつ大きくなっていた。
そろそろ服を新調しないと、羽が服を突き破りそうだ。
……イルカに作ってもらうか。
それに、今日食ったユニコーンとゴルド族のカシラの魂は大きかった。
肉体の格が、一気に跳ね上がったのだ。
筋肉がつき、体幹は安定し、どんな体勢からでも即座に反撃へ移れる、しなやかな体を手に入れていた。
「でも、そろそろこの羽も隠しきれなくなるよな~……」
なるべく折りたたんではいる。
だが、それでも三対六枚もあれば、どうしたってシルエットは変わってくる。
頭を抱える俺に、ルシファーが頭の中から声をかけてきた。
(何も隠す必要などあるまい。われの美しい羽ではないか。皆に見せつけてやればよい)
「いや、ワ族やゴルド族の話を聞いただろ? みんなお前を探してるんだよ」
(聞いたとも。皆、われを求め、加護を授かりたいのであろう? ならばそうしてやるのが強き者のさだめよ。皆、大いに敬えばよい)
「いや、なんかこう……面倒ごとに巻き込まれる気しかしないんだよな。それに、まだ俺自身そんなに強くないし」
(われがついておるから大丈夫なのだ)
いや、どれだけ自分に自信があるんだ、こいつ。
今の俺には、上位魔人や上位魔獣と正面からやり合える自信なんてない。
それくらい、上位の連中とは力の隔たりがある。
おそらく下位魔人がそれぞれ高性能な武器を持ち、数千単位で挑んでようやく互角。
たった一人を相手に、一個師団級の兵力が必要になるほどだ。
しかも、それは両者とも魔法を使わない前提での話である。
上位魔人がどんな魔法を使うかによっては、その差はさらに広がるだろう。
ルシファーだって、この前まで消滅寸前だったくせに。
「まあ、でも正体を明かすのは、もっと力をつけてからがいいさ。ここで変に目立って、強い奴に消されたらつまらないだろ?」
俺は諭すようにルシファーへ言った。
(……まあな。せっかくそなたに拾われた命だ。そなたの意思を尊重して動くとしよう)
若干の不安は残るが、とりあえず納得してもらえたらしい。
「とりあえず今は、武器を手に入れて、敵を倒して、うまいものを食って力をつける。それでいこう」
(うむ、そうだな)
「よし。じゃあ、ゾイルの里に向かうとしよう」
俺は荷物を背負い、門へと向かった。




