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12-1 ユニコーンに乗る蛮族、来襲

「それで、この村の戦力はどんな感じなんだ?」


作戦を考えるにも、まずは現状把握が先だ。


イルカの側近が答える。

軍事担当なのだろう。

名はトルッカといい、大剣を扱ういかついおじさんだ。


「この村で戦える者は二十一人です。魔力を使える者は三人。ほかは弓兵が十名、剣兵と槍兵がそれぞれ四名ずつおります」


人口は少ないだろうとは思っていたが、戦える者もそれだけか。


「敵の戦力は?」


そして気になるのは、相手の戦力だ。


「ヨルカの話では、敵は百人ほどの遊牧民で、ユニコーンという一角の生えた馬にまたがって移動しています。実際に戦える者は半数以下でしょうが、ユニコーンという馬型の魔獣も体が大きく、そいつに跳ね飛ばされれば重傷を負います。つまり、馬一頭ごとに戦力と考えるべきです。騎馬戦となれば、歩兵ではなかなか打ち倒すのが難しい相手かと」


ならば、状況はかなり厳しいものになるだろう。


しかし、強力な魔法使いがいれば、戦況はいくらでもひっくり返るのも事実だ。


「その三人の魔法のレベルはどの程度なんだ?」


「恥ずかしながら、見習い程度にございます。三人で協力して、ようやくファイヤーボールを放てるくらいです」


ファイヤーボールとはどんな魔法なのだろう、と考えていると、ルシファーが教えてくれた。


「ファイヤーボールは火属性の初級魔法だよ。初級魔法の中では消費魔力が少なく、威力もそこそこで使い勝手のいい呪文ではあるが、一発で一、二人吹っ飛ばせる程度だな」


三人そろってファイヤーボール一つなら、各自がヨルカのように矢へ魔力をまとわせて戦った方がよさそうだ。


「よりリーチの長い弓で戦うしかないな……。騎馬戦が得意なら、相手の武器もリーチの長い槍か大剣だろうし」


戦場では、何よりリーチの差が戦力の差になる。

槍と剣では、よほどの力量差がなければ槍が勝つ。過去の戦いがそれを物語っている。

さらに騎馬は歩兵よりも有利だ。


剣はきついか……。

しかし、軍事担当のトルッカは大剣が武器のようだしな。


「あの、トルッカさん。前回の襲撃では、剣での戦いはどうだったんですか?」


「サタン殿、トルッカでいい。前回は、騎兵の機動力と突進力になすすべがなかった。ヒット&アウェイの戦術をされたら、お手上げだ」


「今回の戦いも大剣で戦うのか?」


「はい。うちの村にも武器の種類に限りがありますので、そう簡単には変えられません。しかし、私も無策で飛び込むつもりはありません」


トルッカは前回の敗戦の原因を研究していたようだ。


「ほう、どんな戦術を考えているんだ?」


「はい。戦術的には、まずユニコーンの機動力を奪うべきです。剣兵は事前にぬかるみやスパイクを仕込み、簡単に近づけられないようにする。そして襲来時には、馬の脚を中心に攻撃を加えます」


「それはいい案だ」


「そうですね。機動力を奪ってしまえば、恐れるに足りません」


「では、大量に矢を用意するよう伝えろ。魔力を使える者には、矢へ魔力をまとわせる方法をヨルカが教えておけ」


「承知いたしました」


「しかし、数が足りないな」


ゾイルは苦々しくつぶやく。


確かに、十人の弓兵と数人の魔術師、四人の槍兵と剣兵で、五十以上の騎馬隊を打ち破るのは困難だ。

騎馬隊相手なら、最低でも相手の倍、百人は欲しい。


しかし、無いものを嘆いても仕方ない。


「では、防衛設備を整えることにする。二日で何とか完成させよう」


サタンはイルカに作戦を伝え、指示を出した。



そして三日後。


村の目の前で、ユニコーンに乗ったゴルド族が村を眺めていた。


ユニコーンの体高は二メートルをゆうに超え、その体は筋肉で盛り上がっている。

アントスパイダー程度の魔物なら、体当たりで吹き飛ばし、踏みつけ、蹴散らすことができるだろう。


「カシラ、あの村です」


先日、この村に宣戦布告を行った使者が、カシラを連れてきた。


カシラと呼ばれたゴルド族の族長は、歴戦の戦士だった。

その体は鍛え抜かれ、腕の筋肉は盛り上がり、血管が浮き出ている。

その手には二メートル級の大剣を握っていた。


名を斬馬刀。


その馬鹿でかい大剣を振り回せるだけでも、驚異的な筋力の持ち主だと分かる。

カシラの振るう大剣を受け止めた者は、武器ごと真っ二つになった。

騎乗している敵であれば、馬ごとまとめて一刀で絶命させることさえあった。


今回の村の襲撃も、簡単に終わる。

カシラはそうした自信と余裕を持っていた。


カシラの見据える先の村では、家々の排気口から煙が立ち上っている。

村人たちが火を起こし、生活を続けていることは明白だった。


「おう、どうやら住民たちは逃げずに戦うことを決めたらしいな……愚かな」


宣戦布告から一日ずらした。

逃げ遅れた者がいないのは間違いない。

無駄な血を流すことはないと考えたのだが、こうなっては致し方あるまい。


気を切り替えよう。

相手の油断も誘える。


カシラは、この村へ攻め込むべきか思案する。


村へ続く整備された一本道。

その両脇には木の柵が打ち込まれている。

真新しい太い木柵は、ここ最近になって作られたものだろう。

使者の話では、村の入り口へ続く柵などなかったはずだ。


おそらく急ごしらえで設置したのだろう。


よく見ると、森の中には木の先端を尖らせた、馬の侵入を防ぐバリケードも見える。

なるほど、森の中は木々が邪魔で馬では通りにくい。

その上にバリケードまであるとなれば、さらに速度は落ちるだろう。


つまり、一本道に誘い込もうとしている。


おそらく道には、何か仕込まれている。

罠か。落とし穴か。


だが、こんな戦を知らぬ田舎村に、大した仕掛けがあるとも思えない。


「カシラ、もう一度申し上げますが、あたしゃあ、あの村を攻めるのは危険だと占いに出ました。どうか考え直してはいただけませんか?」


牙巫女であるグリナが言う。


ゴルド族の呪術巫女で、巨大な牙の装飾をまとい、背中に死者の髑髏を引きずって歩く女魔人。

首には、過去に殺した敵の耳で作った首飾りをかけている。


「くどい! 我ら一族が生き残るには、こうするしかないのだ!」


カシラはグリナの進言を一蹴した。


占いを信じていないわけではない。

むしろカシラは、そういうものを信じる男だった。

だが、ほかに道がない。


「安心しろ。使者という名の先遣隊を送り、村を襲わせてみたが、大した戦力はいなかった」


言葉とは裏腹に、心には一抹の不安がよぎる。

胸騒ぎがする。


一応、先兵隊と本隊を分けて様子を見るか……。

最悪、本隊で叩き潰せればそれでよい。


踏み固められた土。

不自然に石が取り除かれた路面。

両脇の柵は新しいが、杭の打ち込みは浅い。

急造にしては、“見せるための形”が整いすぎている。


――誘いだ。


カシラは目を細め、地面をにらんだ。


矢か。

落とし穴か。

それとも油を撒いて火を放つつもりか。


森の奥は通れぬよう細工されている。

左右は死地。

ならば前しかない。


「カシラ、森を焼き払いましょうか」


配下の一人が低く問う。


「馬を止める柵程度で、我らの進軍を止められるとでも?」


別の者が槍を鳴らす。


カシラはゆっくりと首を振った。


「焼けば、煙で視界が塞がる。矢の的になるだけだ」


彼は地面に目を落とし、馬を一歩進めた。


蹄が土を踏む。

沈まぬ。

さらに一歩。


土の硬さは均一。

だが、ところどころ微妙に色が違う。


「……浅いな」


掘り返して埋め戻した跡。

人の手が入っている。


「前列、三騎。間隔をあけて進め」


命が軽いわけではない。

だが、進まねばならぬ。


ここで引けば、村は調子づく。

ゴルド族が“恐れた”と噂が立つ。

それだけは、一族の誇りが許さなかった。


三騎が進む。


静寂。

風が柵を鳴らす。


次の瞬間。


カシラの耳が、かすかな“軋み”を拾った。


「跳べッ!!」


怒号と同時に、前方の地面が沈む。

薄く敷かれた板が割れ、下から尖った杭が突き出した。


一騎の馬が悲鳴をあげる。

脚に怪我を負ったが、致命傷ではない。


だが、完全な落とし穴ではなかった。

深さは浅い。


殺すためではない。

足を止めるための罠だ。


カシラの口元が歪む。


「なるほど……小賢しい」


彼は部下に指示を出し、馬を跳躍させた。

崩れた穴を越え、さらに前へ。


一本道はまだ続いている。

罠はこれで終わりではない。


だが、恐れはなくなった。

この程度の罠で、我らゴルド族の進軍は止められない。


「進め」


低く、しかし確信を込めて命じる。


「止まれば狩られる。走れば踏み抜く。ならば――」


槍を天に掲げる。


「踏み砕いて進むのみだ」


直線の一本道は、ユニコーンの速度なら一分で到達できる。

足音を聞きつけ、村人たちが戦闘態勢を整える前に蹂躙できるに違いない。


村の入り口には、一人分の人影が見える。

おそらく見張りだろう。


「わざわざ生き残る機会を与えてやったというのに、奴らはそれを不意にした。そんな奴らに慈悲などいらん」


吐き捨てるように、カシラは部下へ告げた。


「われらの強さは、すでに伝わっているものと思っていましたがね。この村を血祭りにあげ、われらの恐ろしさを伝える生き証人を一人だけ残して、広めてもらうことにしましょう」


カシラのそばにいる副官が、冷徹な笑みを浮かべて提案する。


カシラは軽くうなずいた。


「おい、お前ら。準備はいいか?」


カシラの号令に、部隊が沸き立つ。

久しぶりに血が見られると、目をらんらんと光らせている。


戦いの前の興奮。

それは抗いがたい誘惑なのだ。


「「おおう!!」」


雄たけびが村に響く。


「第一陣、行けぇぇぇぇーーーッ!!!」


ゴルド族のカシラは、野太い声で突撃の号令を発した。

先陣を切った騎馬が、一斉に駆け出す。


この時のカシラの油断が、大惨事を招くことになる。

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