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11 襲撃の理由 ワ族の願い

「この村が魔物や魔人に襲われ始めたのは、ここ最近なのです。空から光の玉が落ちて来た日が境だと思います」


族長イルカがそう口にした。


それを聞いた瞬間、俺はどきりとした。


「光の玉?」


ゾイルが族長に問い返す。


「知らないの? 魔界中、この噂で持ちきりになっているけど……。半月くらい前に、魔界に不思議な光が落ちてきたの。正体はわからない。天界の至高の宝が落ちてきたという説。新たな魔界の王が誕生したのだという説。強力な天使が天界から偵察に来たのだという説。いろいろな噂が飛び交っているわ」


今度は孫娘のヨルカが答えた。


情報収集などを担当しているのだろう。


そのわりには、少し早計なところもあるようだ。


「その光とこの村がどう関係しているんだ?」


ゾイルは再び問いかける。


「関係はない……と思います。しかし、魔物たちや魔人の各勢力は、その光を血眼になって探しているようなのです」


族長は、これといって心当たりはない、といった様子だった。


「まあ、どの説であっても、自分たちのものにしたいと思うのは自然か。宝や魔王は言うに及ばず、もし天使だとしたら、人質に取ったり、上位魔人に売り渡すこともできるだろう」


ゾイルは顎に手を当て、そう考察した。


狩人としてさまざまな村を出入りしてきたゾイルは、かつて一度だけ、捕らえられた小さな天使を見かけたことがあるという。


その意見に、ヨルカは疑問を抱いたようだった。


「上位魔人は、天使をどうするのだ?」


ヨルカがゾイルに問う。


「さあな。ただ、上位魔人の数人が天使に懸賞金をかけているらしい。俺が見たその時の天使は、上位魔人への捧げものだと言われていたからな」


「その光が何にせよ、ゴルド族はここを拠点に、その光を探し出すつもりなんだ」


ヨルカは悩ましげに頭を押さえた。


サタンは、この会話に入れずにいた。


なんたって、自分の中に元凶であるルシファーがいるのだ。


つまり、自分の中のルシファーの存在のせいで、この村は魔物や魔人の攻撃を受けていることになる。


やばい。やばい。


これがバレたら、ただでは済まない。


尋常じゃないほど怒られる。


言えない。


ルシファーの存在は、絶対に秘密にしておこう――そう思った。


出会ったころに、ゾイルへルシファーの存在を打ち明けなくてよかった、と心の底から思う。


(ルシファー、天界の天使は魔界に簡単に来られるのか?)


(いや。本来、天使が魔界に来るにはかなり面倒な手順を踏み、幾日もかけて何重にも保護しなければならん。さもなくば堕天使となる。一度堕天したものは二度と天界には帰れんしな)


(じゃあ、ゾイルの言っていた天使は?)


(下級の天使なら、魔界の監視の仕事がある。その際に誤って地表へ落ちてしまったのだろう。……そういう事故は、まあ、わりとある)


(わりとあるのかよ)


サタンは心の中で思わず突っ込みかけたが、今はそこではない。


(堕天後は……どうなる?)


(天使ではない“何か”になる。姿かたちも変わってな。ピクシーになったやつもいるくらいだ)


(それで、天使の活用法に何か心当たりは?)


(現時点で予測できるのは、強化のための素材にするか、神力を持った武器を製造するためだろうな)


(なるほどな)


「それで、私たちに何かお願いがあるのだろう?」


サタンは話を先へ進めるように口を開いた。


「これは私たちのわがままなお願いなのですが、どうか聞き入れていただけると幸いです。私たちは二日後、ユニコーンにまたがり遊牧するゴルド族に、この村を襲うと宣言されています。開戦までに戦うか、この村を捨てて別の土地へ移り住むかを決めなければなりません」


なるほど。


それはかなり深刻だ。


「族長はどうしようと思っているんだ?」


(ここにまだ残っているということは……)


答えは、だいたい予測がついていた。


「私たちはこの土地に住み、この土地に根づいてきました。今さらよその土地へ移り住むことはできません。よその土地には、他の部族の縄張りもございますので」


結局、移り住んだところで他民族との交戦は避けられない、という判断か……。


ワ族の生き残りとして、何としても一族を存続させなければならない。


そのための選択として、サタンとゾイルに助力を頼むことが、現状では最善と結論づけたのだろう。


「戦いを選ぶということか……」


「はい。しかしながら、われら一族は戦闘経験に乏しく、戦士と呼べる者もわずかです。ですので、どうかあなた方に戦いへ加わっていただけないかと。どうか、われらの願いを聞き入れてはくださいませんか」


イルカは懇願するように、それでいて強い意志を宿した目でサタンを見つめる。


「俺たちに、お前たちと心中しろと言っているように聞こえるぞ?」


「そう聞こえても仕方ありません。ですが、サタン様はとても強大な存在のように思えてなりません。あのゴルド族の者どもより、はるかに。あなた様が加わってくだされば、私たちは打ち勝つことができると……」


イルカには、俺はどのように映っているのだろう。


会ったばかりの俺を信頼しているかのような振る舞いだった。


いや、正確に言うなら、俺の良心と実力に賭けているのかもしれない。


それとも、ルシファーの存在を見抜いているのだろうか。


(おい、サタンよ。そなた、この者の願いを断らぬよな? この者はわれを必要としているのだ。必ず引き受けるのだぞ!!)


自分に尊敬のまなざしを向けてくるイルカを気に入ったのか、ルシファーはすっかりやる気になっていた。


傲慢な性格ではあるが、慕ってくる者を邪険には扱わないのだ。


しかたない。


うまい料理を食わせてもらい、ここまで話を聞いておいて、断るという選択肢はもとよりない。


ただ……。


俺は口を開いた。


「見返りは何だ? この一族の命を救う引き換えは?」


「われら一族の忠誠を、あなたに捧げます」


イルカはためらいもなく、そう宣言した。


一応、形式的に見返りを求めてみただけで、本心では見返りなど求めていない。


なんたって、ルシファーのせいでこの村の平穏が脅かされていたのだから、助けるのは当然だった。


それに、こんなにうまい料理を作る者たちは、ぜひ今後も仲間にしたいと思っていたのだ。


ただ、俺たちが命がけで戦うことは間違いないし、形としての見返りは、お互いのために必要だとも思った。


見返りなしに命がけで戦ってもらうのは、俺が族長の立場なら心苦しい。


その場合、間違いなく前線には出さないだろう。


だが、それではこの一族が滅んでしまうか、大きな被害が出る。


それなら、俺とルシファーが前面に出て、敵を殲滅する方がいい。


そこまで考えて、見返りの件を口にしてみたのだが――忠誠を誓うとは、思った以上に大きな返答だった。


ちょっと重い。


サタンとしては、専属料理人を一人つけてくれるくらいが、ちょうどよかったのだが……。


しかし、サタンの中のルシファーはかなり満足げだ。


(おい、聞いたか? われに返答させるのだ)


どうしても自分の口から言いたいらしい。


威張るの、大好きそうだもんな。こいつ。


しぶしぶ、声を出す許可を与えた。


「よかろう。そなたらと共に戦おうではないか!! 安心するがよい! われがいれば、この村は救われたも同然だ!!」


「なんと……! どうぞよろしくお願いいたします!!」


族長のイルカと孫娘のヨルカ、そして護衛の者たちが一斉にサタンへ頭を下げた。


ルシファーは満足げに、鷹揚にうなずく。


その様子を見て、ルシファーではないが、この者たちの期待に応えるために、俺はできる限りのことをしようと心に誓った。


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