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7-2 野営・料理・魔虫襲来

さらに歩いて数時間。


「サタン様、今日はこの辺で宿泊しましょうか」


「ああ、俺も疲れた。何より腹が減った」


ゾイルは病み上がりのため、俺は普段の運動不足のために、今日はここで休むことにした。

初めての旅だ。最初はこんなもんだろう。


食事の前に寝る場所だな。


「どこで寝るんだ?」


辺りを見渡すも、うっそうな森の中に背丈ほどの岩があるくらいだ。


「それはですね、ここに岩があるので、この岩に木を倒して立てかけます」


そういってゾイルは木を切り始め、あっという間に切り倒してしまった。

魔界の木は種類にかかわらず、硬い木ばかりなのにすごい奴だ。


「それから内側は寝る空間を作るので枝を切り落します。それで仕上げに、布と切り落した枝で天井部分を覆えば……これでよし! 簡易的な宿泊施設の完成です!」


「おお、これはすごい! 簡単にそれなりの物ができるんだな」


野宿といっても、雨風がしのげるだけでもかなり快適だ。

この地域では寒さで凍死することもない。

火が焚ければこれで十分だろう。


「これから食事の支度をします。火をおこすので、サタン様、申し訳ありませんが、魔つぼっくりを焚き付けに使うので拾ってきてくれませんか?」


「おお、任せておけ」


俺は自信満々に請け負った。

先ほど大量に落ちているところを見つけたのだ。


サタンはご飯を食べられると意気揚々と魔つぼっくりを拾いにいく。


「お、あった、あった。ん? なんだこれ?」


いくつかの魔つぼっくりの中に、毛虫のような物体が落ちている。


「なんだこれ?」


拾い上げると同時に、木の上から同じものが落ちてきた。

上を見上げてみると、枝でチョロチョロと動くものが見える。

よくよく見てみると、イビルリスが数匹いることに気が付いた。


背中にとげとげがある狂暴なリスだ。

威嚇で棘を噴射してくるので、近寄って捕まえるのは危険だ。


「なるほど、これはイビルリスが食べた魔つぼっくりの残骸か」


サタンは知る由もないが、拾った残骸は、ちょうどエビフライのような形をしていた。


「おお、おいしそうな丸々太ったリスだな。よし、仕留めていくか」


普通なら、石か罠を使うところだが、今回は試し撃ちもかねて魔力弾で仕留めることにした。


「多分、こうすれば……」


サタンは天に両手をかざし、手のひらではなく指先に魔力を集中させる。

すると、思った通り、指先から魔力弾が生み出されたのだ。


魔力弾も米粒のサイズでも十分に威力があるので、それを複数個生成し、一斉に、そして連続して発射した。

散弾を連射するので、小さくても当てるのはたやすい。


石を投擲することとは違い、モーションが少ないので、リスに警戒されることなく、あっさり数匹仕留めた。

魔力弾、便利である。


魔つぼっくりと仕留めたリスを手に、ゾイルのところに戻る。


「戻った! ついでにうまそうなイビルリスがいたから仕留めてきたぞ」


「おお! これは丸々太っていて旨そうなリスですね。いい食材になりそうです」


「それで今日は何の料理を作ってくれるのだ!?」


俺は楽しみに胸をおどらせ、ゾイルに尋ねる。


「そうですね……リスの肉は木の実を食べているせいか甘みがあって、とってもおいしいんですよ。なので、そのうまみを閉じ込めたフリカッセという煮込み料理を作ろうかと思います。バターと黒玉ねぎ、動物の乳を使って完成です」


さすが料理男子。

今日の献立はフリカッセという、クリームソースを使った煮込み料理のようだ。


ゾイルは早速、イビルリスの処理に取り掛かる。

リスは首のところに切り目を入れると、服を脱がすように皮をはがすことができるとのこと。


皮をはいだリスは、内臓を取り除いたのち、粉をかけ焼いていく。

これだけでも焼いた肉のいい香りが周囲に立ち込めるのだが、ここからさらに魔獣の乳を混ぜ合わせた。


「これはサタン様が魔つぼっくりを拾っている間に、野生の魔エルク(ヘラジカ)から採取した乳です。餌をあげると代わりに乳を採取させてくれるのです」


てきぱきと料理をこなしながら、説明してくれた。

濃厚な香りが食欲を掻き立てる。


あっという間にうまそうな料理が完成した。

いい香りが簡易テントに充満する。

もうよだれが止まらない。


「うまそう!!」


「いい香りですね! 冷めないうちにいただきましょう」


「いただきます」


旨い。

もちもちとした触感に、甘みの感じる肉。

独特の香りもあるが、決して臭いと感じるほどでもない。


クリームと玉ねぎの甘さが、より一層リス肉の甘みを引きだしているのもあって、かなりうまい逸品に仕上がった。

いままでリス肉は生か丸焼きしかしてなかったが、煮込み料理になるとこんなにも味が変わるものなのだと感心した。


「ゾイル!! これもめちゃくちゃうまいではないか!」


「おほめいただき光栄です」


「素材の味も組み合わせ次第ではこれほど変わるのだな」


「ええ、料理の組み合わせ可能性は無限大です」


俺とゾイルはあっという間に完食し、満足した。

また俺の中で魔力が上がった気がした。


翌日。


「サタン様、おはようございます。よく眠れましたか?」


「ああ、小さな吸血魔虫が煩わしかったが、それ以外は快適だった」


「申し訳ございません、魔虫よけの香木を火にくべて寝るべきでしたね」


「ああ、気にしなくていい。魔力を身に纏えば、魔虫も血が吸えない。見えない膜にぶつかって困惑している姿は面白かった」


昨晩、魔力操作の練習がてら、魔力による防御法を編み出した。

魔力弾のような物理攻撃用の魔力の応用だ。


「ほう! サタン様はそんな器用なことができるのですね」


ゾイルは感心して驚いている。


「さて、出発いたしましょうか! サタン様、これから先は中型大型の魔虫たちのテリトリーを通りますので気を付けましょう」


「虫って食べられるのか?」


「う……まあ、ある種の幼虫はうまいとは聞きますね。私は絶対に食べようとは思いませんが……」


ゾイルは顔をしかめている。

虫に対して嫌悪感があるようだ。


「狩人が虫を苦手なのか。森にはいっぱいいるのに」


「わたしは何度も虫のせいで生死をさまよった経験があるので、なかなか苦手意識がなくなりませんので」


ゾイルは苦虫をかみつぶしたような顔で答えた。虫だけに。

ああ、なるほど。

魔虫に対してトラウマがあるようだ。


魔虫の中には強力な毒を持っているものがいる。


「ゾイルも結構、死線を潜り抜けてきているんだな」


「この魔界で生きる者にとっては、死は身近ですからね」


その時、ルシファーが頭の中でサタンに声をかける。


(おい、早速だが魔虫の群れが近くにいるぞ)


サタンは教えられた方へ視線を向けた。

確かに、わずかに生き物の気配を感じ取った。


「ゾイル、静かに! 何かいる」


サタンはゾイルに注意を促した。

ゾイルは持っていた弓矢を構え、警戒した。


草木がざわめく音はどんどん近づいてきている。


「ギイギイ」


扉のきしむような音が聞こえる。

鳴き声だろうか。


「アントスパイダー……」


ゾイルは青白い顔でそう言った。

音だけでそれを判別したことに、サタンは感心した。


アントスパイダーの体全体が見えた。

体高は一メートルくらい。

黒光りするアリの体に、八本の足と複数の目が付いている。


「サタン様、お気をつけください。あれはまだ小型ですが、硬い外骨格を持ち、己の体重の数十倍を持ち上げるほどの強靭な顎と、頑丈な糸を操る魔虫です」


「こん棒……効くと思うか」


「思いきり何度か打ち据えれば、なんとか倒せます……。ただ、動きが速い。そして厄介なのは、奴の吐く糸です。一度絡め取られれば、引きちぎることは不可能。抜け出すには、焼き切るしかありません」


「わかった。気をつけてやってみよう」


サタンは地を蹴った。

その勢いのまま、アントスパイダーへこん棒を叩きつける。


だが、動きを察知したアントスパイダーは、ふいに天を見上げた。


「?」


違和感を覚えながらも、サタンはこん棒を全力で振り下ろす。

鈍い衝撃音とともに、蟻の頭部外殻が砕け散った。


「ギイギイイィッ!!」


同時に、蟻は断末魔めいた甲高い音を響かせた。


「なんだ?」


サタンは蟻の異変を訝しげに見つめた。

なんとか一匹は仕留めた。


だがその直後、側面から新たなアントスパイダーが現れ、猛然と突進してくる。

サタンは手持ちのこん棒で、その顎の一撃を受け止めた。


しかし、強靭な顎にこん棒をがっちりと挟まれ、そのまま奪い取られてしまう。


すると、ルシファーが頭の中で警告を発した。


(仲間を呼んでいる。魔虫たちが集まってきているぞ)


「サタン様、逃げましょう」


「あぁぁ~! 俺の相棒がぁぁ~!」


ゾイルも状況を悟ったのか、サタンの手をつかんで逃走を促した。

サタンは長年連れ添った相棒のこん棒に未練を残しつつ、森の中を駆けていくのだった。

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