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day.9(浩二視点)

食券売り場へ向かっていった純也の背中を見送ったあと、諏訪さんをまじまじと観察する。


へぇ〜、確かに、面食いな純也の好きそうな顔だわ。


じろじろ見過ぎたのか、諏訪さんは、俺を軽く睨みつけた後、ゆっくりと口を開いた。


「…で?俺に一体、何の用だ?」


なんだ、この人、意外と俺のこと見てたんだな。

御曹司のお坊ちゃまなんて、他人に興味ないと思ってたわ。


へらっと笑って、目の前の男にわざと軽口を叩いてみる。


「さっすが、諏訪さん。俺が話したいことあるってわかってて、あんなに帰りたがったんスか?悪い大人ッスね〜。」


どうやらこの人は、俺にも、余所行きの顔をする必要はないと判断したようだ。

無感情の中に、僅かに混じっていた不機嫌さを前面に押し出して、目を細めた。


「…とっとと用件を述べろ。聞いてやるのは、今だけだ。」


その低い声に、ピリッと肌を刺すような、威圧感を感じた。


なるほど。

これが純也の言ってた、圧ね。

俺は平気だけど、アイツはビビりだからなぁ。


取りあえず、話を聞いてもらえることには、成功したみたいだな。


はいはいと大袈裟に肩をすくめ、この人の気が変わらない内に、とっとと用件を話し始める。


「もちろん、アイツのことなんスけどね。言いたいことは山のようにあるんスけど、アイツ、諏訪さんと結婚してから、ちゃんと食べるようになったんスよ。」


反応を探るように、じっと諏訪さんの様子を伺うも、何も変化は感じられない。


この人、わかりづれぇ〜。

純也がいた時は、もう少しだけ、わかりやすかったんだけどな。


やりにくいなと思いつつ、話を続ける。


「それまでは、サンプルで貰ったエネルギーゼリーとか、1日満足バーみたいなのばっか食ってて。それが貰えない日は、当たり前のように昼飯は抜き。それに、月の半分は、1日1食で充分とか言って、朝と昼は食わなかった。」


「………。」


何か思い当たることでも、あったのだろうか。

この話をした瞬間、一瞬だけ、ピクッとその眉を動かした。

それを、俺は見逃さない。


「ご存知だとは思いますが、アイツ銭ゲバでしょ?でも、バイト代のほとんどを実家に仕送りしてるから、そうならざるを得なかったんだと思います。実際、時々ホームレスにもなってましたし。」


「…何故その話を俺にする?」


何でって、アイツのこと、もっと知って、大事にしてもらいたいから、なんですけど?

一応、親友なんで。


……多分、普通の人なら、何かしらを察して、“何故?”とか聞いてこねぇだろ。


この人もこの人で、何か問題を抱えているみたいだなぁ。


アイツとは、性格も育ちも何もかも違うんだろうけど、本質は似たもの同士なのかもな。


でも、それを説明するのは面倒臭くて、取りあえず、笑ってはぐらかしとく。


「いや、別に?ただの世間話ですよ。ただ、その点に関しては、俺、貴方に感謝してるんです。アイツ最近、健康だし、楽しそうなんで。」


その目が、は?みたいな疑問を訴えてきたけど、そこはスルーさせてもらう。


この得体の知れない人に、俺が親友として言ってやれることは、次で最後。


あとは、お前次第だぜ、純也。


ふぅっと短く息を吐いて、目の前に座っている無感情の瞳を、真っ直ぐ捉えた。


「何の目的でアイツと結婚したのかは知りませんが、アイツのこと、泣かせたら承知しませんから。」


すると、その瞳が、ほんの少しだけ揺れ、諏訪さんは、言いにくそうに、だけど誠実に、その答えをくれた。


「それは……約束できんな。」


約束するって言われたら、どうしようかと思った。


意外とちゃんと答えてくれたことに、笑いそうになったのと同時に、安心した。


まだ完全に信用したわけじゃないけど、案外、この人に任せてみても、大丈夫かもしれないな―。


そう思えたから、今のアイツに関する懸念事項を、相談してみようと思った。


「本当は約束してもらいたいんスけどね。それはそうと、アイツ自身は気付いてないみたいなんスけど、最近、アイツ誰かにつけられてるみたいなんスよね。一緒に帰る時、妙な視線を感じるんで。」


少しばかり黙ったかと思ったら、突然、諏訪さんの視線が鋭くなった。


「それはいつ頃からだ?帰る時だけか?確実に純也を狙っているのか?」


ちょ、ちょっ!

えぇ〜っ!?

急な質問攻撃に、さすがに驚いてしまった。


この人、こんなに喋れんのかよ。


一呼吸置いてから、記憶を呼び覚ましてみる。


「いつ頃だったっけかな…?はっきりとは覚えてないんスけど、ここ1〜2週間ぐらいからスかね。大体帰る時ッスよ。アイツと帰る時しか感じないんで、恐らく間違いないッスわ。アイツに、何か視線感じねぇ?って言っても、馬鹿なんで気のせいだろの一点張りで。」


「そうか…。」


そう伝えると、諏訪さんは何かを考え込むようにして、手で口元を押さえ、視線を落とした。


その時、純也がカレーを手に持って席に戻ってきた。


「お待たせ〜!いやぁ、さすが人気のカレーだよな!めっちゃ混んでたわ。はい、冬悟これな!」


「あぁ。」


「んで、浩二はこれな!」


「サンキュー。じゃあ、冷めない内にいただきますか。」


それからは、純也の大学での生活のあれこれを、たっぷりと諏訪さんに吹き込みまくり、頭を抱えた諏訪さんと、キレまくる純也に挟まれて、賑やかな時間を過ごした。

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