表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/67

day.8

俺と浩二、それに冬悟の3人で並び、同じ授業を受けているなんて、一体どうしてこうなった。


普段なら、寝不足を取り戻すべく、先生の声をBGMに惰眠を貪るというのに、隣に冬悟がいるんじゃ、寝ることなんて許されない。


というか、緊張して、寝れねぇ!


ちらっと冬悟の方を盗み見ると、ぼうっと黒板を眺めていた。

その横顔は、やっぱり俺達よりも、大人びている。


何だか、変な感じ。


絶対に同じ学生になる筈のないヤツと、一緒に講義を聞いているのが不思議で、だけど、新鮮で。

本当に同じ歳になったんじゃないかって、錯覚に陥りそうになる。


もし、今、冬悟が同じ歳の同じ大学生として、俺達が出会っていたなら、どうなっていたんだろう。


……きっと、こんなことには、ならなかっただろうな。


そんな妄想をしながら、頬杖をついて、その横顔をじっと見つめる。

すると、冬悟は俺の視線に気付いてしまったようで、軽くこちらに視線を投げてきた。


「どうした?」


しまった、見過ぎちまった。


まさか、冬悟の横顔を見てました、なんて言える筈もなく、咄嗟に言い訳を考える。


「あ〜、えっと、その、ここ!ここがわかんなくて!冬悟ならわかるかなぁって。」


へへっと誤魔化すように笑うと、呆れられてしまった。


「…まだ講義中だ。後で教えてやるから、ちゃんと授業を聞いてろ。」


「はぁい。」


前に向き直ると、冬悟とは反対側の机がカタカタと小刻みに震えている。

何だ?と思い、今度はちらっとそっちを横目で見ると、浩二が肩を震わせて、必死で笑いを堪えていた。


………。


そんな浩二の足を、見えないように机の下で、げしっと軽く蹴ってやる。

すると、浩二からげしっと蹴り返され、俺達は何度も、水面下で足の蹴り合いをしていた。





漸く、地獄からの解放の合図が、教室に鳴り響いた。


「やっと終わった〜!」


ん〜っと伸びをした俺の横で、ガタッとすぐに冬悟が席を立った。


「もう帰るのか?」


「何度も言わせるな。もうここに、用はない。」


「そっか。今日はサンキューな。また家で。」


冬悟はここにいないのが当たり前の筈なのに、何故だか寂しくなってしまった。


今日の俺、おかしいな。


「え、もう帰るんスか?今からお昼ッスよ?諏訪さん、せっかくなんで、お昼俺らと一緒に食べていきましょうよ!」


まさかの浩二が、2度も冬悟の前に立ちはだかり、出ていこうとするのを阻止する。


コイツ、今日はどうしちまったんだ?

珍しく浩二がしつこくて、内心で戸惑ってしまった。


もしや、浩二も、この座を狙ってんのか!?


「いや、だから、俺はもう帰る。」


さすがにイラッとしたらしい冬悟は、そこを退けといわんばかりに、目を細めて浩二を睨みつけた。


「ね?偶にはいいじゃないッスか。」


一瞬、浩二と冬悟の間に、バチッと火花が散った気がした。

2人の間に、ただならぬ雰囲気を感じて、オロオロとしながらも、止めに入る。


「ちょっ、どうしたんだよ!?浩二、帰らせてやれよ!」


「瀧本く〜ん!」


そんな中、空気を読まない女子達が、わらわらとこちらに向かって、大人数でやって来た。


「な、何?」


こんな人数の女子、いや、人に囲まれたことがない俺は、感じたことのない圧の強さに、狼狽える。


こ、怖ぇ……。


「その人瀧本くんのお知り合い〜?」


その人とは、恐らく冬悟のことだろう。

女子達の視線が、熱くそう語っている。


「えっと、コイツは俺の」


「従兄弟です。いつも純也がお世話になってます。」


夫と言おうとした俺を遮って、突然割って入ってきた、冬悟の“従兄弟”発言に耳を疑った。


「そうなんだ〜!従兄弟さんなんだ〜。そりゃ仲良しだよね〜!どこの大学に通われているんですかぁ〜?」


営業スマイルを張り付けて、聞かれた質問全てに、嘘で答えていく冬悟を目の当たりにし、愕然とした。

それに、いつもみたいに、冷たくして、振り払ったりもしない。


……やっぱり、女の子の方が、いいんじゃねぇかよ。


モヤモヤした気持ちが心に溜まっていき、堪らず、ぐいっと強く冬悟の腕を掴んだ。


「ちょっ、ごめん。冬悟、おばさんから電話きた。から、こっちに来て。」


まだまだ質問攻めをしたい女子達を掻き分け、グイグイと引っ張っていく。

人気のない場所まで連れて行くと、パッと離して冬悟に向き直った。


「ちょっ、お前、嘘吐き過ぎじゃねーか!?それに、何で俺の従兄弟なんて、嘘吐いたんだよ!?」


「…わざわざ他人の“おもちゃ”にされにいく馬鹿が、どこにいるんだ?」


既に無表情に戻っていた冬悟は、冷たく俺を見下ろした。


「ど、どういうことだよ?」


言われた意味がわからず、困惑している俺を見て、やれやれという風に、はあっと溜息を吐かれる。


「…アイツらに真実を話す必要は、どこにもないだろう?それに、学生結婚をする人は、そんなに多くはない。結婚したと噂になれば、周りは面白がって、相手は?だの、結婚生活はどう?だの、根掘り葉掘り聞いてくる。それに馬鹿正直に答えていたら、SNSのネタとして、格好の餌食になるだけだ。根拠のない噂や悪意のある嘘を書き込まれて、お前は今の生活を送れなくなるぞ。」


言われてみれば、確かにその通りかも。

そこで初めて、冬悟が嘘を吐きまくった意味を、理解した。


「じゃあ……俺のために?」


「俺の為でもあるがな。」


ふうっと息を吐き、ゆっくりとこちらに近づいてきた冬悟は、ぽんっと俺の頭に手を置いた。

その大きな手が触れた場所から、じわっと温かくなっていく。


「お前は苦手だろうが、嘘を吐くことも時には必要だ。処世術を身に付けろ。」


コイツの手って、優しかったんだ。

同じように頭を撫でられているのに、さっきとは違い、今はほっとする。


………?


自分の心の筈なのに、感じたことのないこの気持ちに戸惑う。


俺、変なの。


「…あのさ、1つだけ確認してもいい?」


今回の嘘は、俺を守ってくれるためのもの。それはわかったが、どうしてもモヤモヤが晴れないことがある。


「何だ?」


「その…俺が男だから、夫夫だって認めたくなかったわけじゃないよな?」





俺と夫夫なのが嫌なのか?


その質問をした後、暫しの間、2人の間に痛い沈黙が流れた。

ヒューッと乾いた風が、時々吹き抜けていく。


やっぱりそうなんだ……。


俯きかけたその瞬間、俺の頭に置いていた手に、ぐぐっと力が込められる。


「イテテテテテテテッ!!」


ミシミシッと食い込む指が痛過ぎて、人の頭をボールの様に掴むその手を、バシッと振り払う。

ジンジンと痛む頭を摩りながら、冬悟をキッと睨みつけた。


「痛ぇつってんだよ、クソが!何すんだよ!?」


「いい加減、その頭を起こせ。今までの流れで、一体どうやったら、そう解釈できたんだ?」


呆れた眼差しで睨み返され、うっと言葉に詰まる。


「いや、だって!俺が妻なのが、嫌なのかなぁって思って…。」


何言ってんだろ、俺。


変なことを口走ってしまった自覚はある。

段々と恥ずかしくなってしまい、最後の方はもごもごと口籠ってしまった。


だけど、冬悟は容赦しない。


「お前は、俺の話をちゃんと聞いていたのか?それに、俺達のこの関係で、それを気にする必要がどこにある?」


そうだ。

俺達は、契約結婚だ。

本当に結婚しているわけではないのだから、こんなことはどうでもいいことの筈だ。


なのに、何で俺、こんなにモヤモヤしていたんだろう?

何で、コイツに、認めてもらおうとしたんだろう?


……違う、俺は今日、寝不足なんだ!


「うおーっ!もう考えられねー!!」


急に頭を抱えて叫び出した俺に、さすがの冬悟も、ビクッと肩を跳ねさせた。


そんなことをしていると、ひょこっと誰かが、ここに顔を覗かせてきた。


「お〜、いたいた〜。お2人さん、さっさと学食行こーぜ。」


「浩二!無事だったのか!?心配したんだからな~!」


すっかり忘れていたが、浩二をあの場所に、置き去りにしてしまっていた。

どうやら、俺達を探して、追いかけて来てくれたようだ。

そんな浩二の元に、タタッと駆け寄る。


「いや、お前、絶対俺のこと忘れてただろ。あの後、お宅らのフォロー大変だったんだからな。感謝してもらいたいくらいだわ。」


「浩二、サンキュ〜!マジ助かる!」


ギクッとしたのを誤魔化すように、ガバッと浩二に抱きつこうとしたが、途中でおでこを掌で押さえられ、抱きつきキャンセルされた。


まぁ、俺もガチでする気はないけどさ。

そんなに嫌がらなくても、いいんじゃね?


ムキになってジタバタと抵抗すると、浩二はニヤッと口角を上げた。


「ったく、調子いいヤツ。ほら、諏訪さんも、俺にこの借りを返すってことで、一緒に行きましょ。」


「…わかった。」


浩二がまさか、冬悟をやり込めるなんて!

コイツ、意外とやるな!?


ただ、どうしてそんなに冬悟を引き留めたいのかは、俺にはわからないが、どうやら今回は、浩二の粘り勝ちのようだ。


今日は渋々承諾した冬悟と3人で、食堂へと向かうことになった。





多くの学生でザワザワと賑わう食堂で、4人席が1つだけ空いていた。

誰かに取られる前に、そこをダッシュで確保しにいき、無事に腰掛ける。


「なぁ、何食う?」


隣に座る冬悟にもメニューを見せながら、真剣にそれを見つめる。


「…お前ら2人共、今日は俺が出してやるから、好きなものを頼め。」


「マジ!?」


思わずそう反応したが、俺はいつも出してもらっているから、普段と変わらない。


「諏訪さん、あざっス!!」


じゃあ遠慮なくと、俺と浩二は、食べたいメニューを何品か決めていった。


「冬悟は?何がいい?」


ひょこっと冬悟の顔を覗き込むと、俺はいいと言いかけたようだが、すかさず浩二がそれを遮る。


「ここのカレー、美味いッスよ!」


浩二の押しの強さに、冬悟もどうやら根負けしたようだった。


「…では、カレーでいい。」


漸く頼んでくれた冬悟に、ニッと笑いかける。


「わかった。じゃあ、買ってくるな!」


「なぁ、俺のも一緒に買ってきて〜。今ならお前の借りは、これでチャラでいいぜ?」


さっきの、俺にも貸しになってたのかよ!?

今断ったら、次のお願いは、かさ増しされちまう!


「わ、わかったよ!行ってきたらぁ!」


みんなの物を注文しに、ガタッと席を立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ