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day.64

これ以上玄関で話をするのはと、漸く家に入ったところで、ふと、気になったことがあり、歩みを止めた。


「そういえばさ、俺、盛大に冬悟の妻だ宣言しちゃったけど、あれ大丈夫だったのか?」


「…大丈夫ではないな。」


間髪入れずに返ってきた答えに、ゔっと罪悪感を感じ、もごもごと口籠る。


「ごめん……勢い余って……。後のことなんて、何も考えてなかった。」


ゔぅ〜と縮こまっていく俺の鼻先を、冬悟がぎゅっと摘んだ。


「ん゙なっ!?」


「今更だな。」


鼻を擦る俺を見て、冬悟はフッと笑った。

だが、その後すぐに、少しだけその表情を曇らせる。


「…だが、暫くはSNSを見ない方がいいかもな。」


「?何でだ?」


すると、冬悟は言いづらそうに、そっと目線を逸らした。


「…先程のことは、恐らく誰かが撮って、面白おかしく拡散している筈だ。だから、お前の大学生活にも……支障が出てしまうかもしれん。」


何だ。

そんなことか。


申し訳なさそうに目を伏せた冬悟に、タッと近づき、ポケットからスマホを取り出す。


「それについては、問題ねぇよ。ほら、見て!」


そういって、ズズイッと俺のスマホを冬悟に押し付けた。

冬悟は困惑したまま、それを受け取る。


「…何だ?」


「いいから、入ってるアプリを見てみろって!LINNE以外のSNS、なくなってる筈だから!」


「………は?」


急いで俺のスマホを確認した冬悟の表情が、みるみる驚愕の表情に変わっていく。


「…まさか、全部……消したのか?」


「そ!今まで使ってたアプリもアカウントも、全部さっき消してやったんだ!これなら、俺には何書かれててもわかんねぇし、それに、万が一、学校で聞かれても、俺は堂々と冬悟の嫁だって言うしな!」


本当は、冬悟が気にするんじゃないかと思って、車の中で消しておいたんだ。


フフンと胸を張ると、呆然としていた冬悟が、少し安心したように、そっと目を細めた。


「…もともと、何をしでかすのかわからん奴だったが、まさか、ここまでするとはな。お前の覚悟には、恐れ入った。」


「だろ?」


へへっと笑う俺の頭を、冬悟はくしゃっと撫でる。


「…だが、あまりやり過ぎなくていい。お前がツラくならない程度にしておけ。」


「はぁい。」


別にSNSなんか見なくても、俺は全然平気なんだけどな。

寧ろ、なんか見てない方が、心が落ち着くし。


「…ならば、話は早そうだな。お前との関係を公表するために………結婚披露パーティーを行う。」


「えっ!?け、結婚披露パーティー!?」


な、何だそれは!?

俺はてっきり、紙1枚かなにかで済ますもんだとばかり思ってた!


「…そうだ。この方法なら、マスコミも入れれるし、大々的に発表できる。公表すれば、きっとこの騒動も、自然に収まるだろう。」


「ホントに……?」


本当にそれだけで、この騒動が収まるのだろうか?

また、冬悟が大変な目にでも遭ったら……。


きゅっと冬悟の服の裾を掴み、不安で瞳を揺らす。

すると、俺を安心させるように、目尻にキスが落ちてきた。


「…そんなに不安そうにしなくて大丈夫だ。必ず収まる。」


冬悟がそう言うと、本当にそうなるような気がしてくるから、不思議だ。

今まで胸に溜まっていた不安が、嘘のように消えていく。


「うん……。」


今度は、ぎゅうと強くその裾を握った。


「それに、お前のおかげで、俺も開き直れたしな。」


冬悟がそう言った途端、俺の身体がふわりと宙に浮いた。


「わっ!」


冬悟が、俺を抱き上げたのだ。

落ちないように、ぎゅっとその首にしがみつく。


「…そして、公表すれば、今度は堂々とお前を守れる。」


「違ぇよ。俺が、冬悟を、守るんだよ!」


至近距離で、不満そうに唇を尖らせると、クスッと笑われた。


「…あぁ、期待している。」


「でも、そういう畏まった場に出るのは、緊張するな。」


何十、何百人の前で、俺が冬悟の隣に立つ。

その姿を想像し、少しだけ足が竦みそうになる。


ぎゅうっともう一度不安そうにしがみつくと、冬悟は俺に軽く頬擦りし、額と鼻先を合わせてきた。

そして、このゼロ距離で、その口元が美しく弧を描いていく。


「…それでも、俺の隣に立ってくれるのだろう?」


ゔっ……。

その言い方は、ズルいだろ。

けど、そんな風に言われたら、立たないわけにはいかねぇよな。


「もちろん!」


ニッと笑って、俺からも鼻先と額を擦り寄せた。


「冬悟が嫌だって言っても、隣に居続けてやるから、覚悟しとけよ!」


「…あぁ。だが、2つだけ、約束して欲しいことがある。」


突然真剣な表情で見つめられ、ドキッと心臓が跳ねる。

その“約束”を、聞くのが少し怖い。


「な、何?」


冬悟が口を開くまでの、ほんの僅かな時間で、緊張から身体が強張ってしまった。

だが、それに気付いたのか、固くなってしまった俺の身体を解すように、冬悟の大きな手が、優しく背中を擦っていく。


「…そう身構えなくても、大丈夫だ。何も難しいことじゃない。何かあった時は、すぐに俺を頼ってくれ。それと……何もなくても、これからは、いろいろとお前のことを聞かせてくれ。…この2つだけだ。」


内容を聞かされた瞬間、身体の力は抜け、口元が緩んでいく。


なんだ、そんなことか。

今と変わんねぇじゃん。


その約束に、ニッと笑って頷く。


「もちろん!必ず守るよ!」


へへっと笑いながら、ぎゅうっと冬悟にしがみつく。


「じゃあ、俺からも、1個いい?」


「…何だ?」


「俺も、冬悟のこと、もっともっと知りたいから、何かあってもなくても、いっぱい教えて?今回みたいに、蚊帳の外はもう嫌だから……お願い。」


俺からのお願いに、穏やかな表情を浮かべた冬悟は、ゆっくりと頷いてくれた。


「…わかった。約束しよう。」


すっと俺が小指を差し出すと、冬悟の小指がするっとそれに絡ませられる。

すると、触れ合った指先から、じんわりと熱が広がっていった。


「約束な!」


俺達の幸せな約束が、今契られた―。


「…さて、早速準備に取りかからなくてはな。」


俺をソファにゆっくりと置いた冬悟は、おもむろにスマホをポケットから取り出した。


「へっ?ちょっ、待てよ!その結婚披露パーティーって、いつやるつもりなんだ!?」


そういえば、開催日を聞いていなかった。

どこかに電話をかけだした冬悟は、こちらに振り返ると、衝撃の一言を放った。


「1ヶ月後だ。」


「いっ、1ヶ月後だとぉ!!??」

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