表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/67

day.62

あの後すぐ、今度は美代子さんが運転する車に乗せられ、今に至る。


あれ?

何でこんなことになってんだ??


「あの、美代子さん……?」


遠慮がちに、助手席から話しかける。


「何かしら?」


「あの、こ、これは一体……?」


「あたくしのお力を貸して欲しいと仰ったのは、貴方でしょう?お若いのに、先程の言葉を、もう忘れまして?」


確かに、ばあさんに力を貸してとは言ったけど、思ってたのと違う気が……?


だけども、美代子さんは本気のようで、車だけが、行き先の見えない道をどんどん進んでいく。


「あたくしの見立てでは、貴方は頭をお使いになるのが苦手でしょう?」


えっ?

何だ?

また悪口かよ??


「…だけれど、貴方のその爆発的な行動力だけは、あたくしも評価しているわ。」


何が言いたいんだろう…?


「だから、貴方は実際にご覧になれば、いいだけのことよ。」


美代子さんの言いたいことがわからなくて、頭を悩ませていると、突然、車はゆっくりと停まった。


はっと目の前を見ると、そこには驚愕の光景が広がっていた。


「冬悟!!??」


よく見るとここは、冬悟の会社前のだった。

目の前には、沢山の人集りができていて、その中心に冬悟がいた。


「諏訪さん!ぜひとも我が娘と、一度お会いしてもらえないかな?絶対気に入るよ!」


「諏訪様!今日はクッキーを焼いてきたの!ぜひお食べになって!」


「僕は男だけど、それでも貴方とは毎日お会いしている!これって、もう運命だよね!?」


人々が好き勝手言って近づこうとするのを、冬悟の周辺を囲む数名のボディーガード達が阻止している。


なんじゃこりゃ!?

もう、芸能人レベルの騒ぎになってんじゃねーか!!??


冬悟自身は、無表情の無反応を貫いており、全ての人を、自身の視界から完全にシャットアウトしているように見えた。


久しぶりに見たその鉄壁の無表情に、ズキッと心が痛む。

……せっかく、最近冬悟の表情のレパートリーが増えてきたってのに!


俺の冬悟の感情を奪うな!!


居ても立ってもいられなくなって、急いでシートベルトを外す。


「美代子さん、ここまで送ってくれてありがとう。」


「いいのよ。あの子を追放したあたくしにできることは、ここまでだから。…純也さん、あたくしに言った言葉、忘れないでちょうだいね。そして、冬悟さんを……助けてあげてちょうだい。」


ニッと笑って、車のドアを開ける。


「もちろん!任せとけよな!」


冬悟、今行くから、待ってろよ!


そのまま勢いよく飛び出し、愛する人の元へと走っていった―。





今までの俺なら、こんな人混みに飛び込むなんて考えられなかっただろう。

だけど、今は無我夢中に、冬悟に群がる人集りを、もみくちゃになりながら掻き分けて進んでいく。

そして、その中心にいる人物を、漸く視界に捉えることができた。


「冬悟!」


あともう少し―!


しかし、伸ばした手を、ボディーガードに振り払われてしまう。


「邪魔すんな!どけよ!!」


凄い剣幕で睨みつけると、一瞬そのボディーガードが怯んだ。

その隙をついて、ソイツの脇をすり抜け、ダッと駆け寄った。


「っ…冬悟!!」


ガッと腕を掴んだ俺の方を振り返った冬悟は、凍てつくような冷たい眼差しで睨みつけてきた。

しかし、俺だと認識した途端、みるみると驚いた表情に変わっていく。


「純也…!?お前、何故ここに……?」


「アンタを助けに来た。」


「は?いいから、もう帰」


冬悟の言葉を最後まで聞く前に、すぅーと大きく息を吸い込む。

そして、周りにいる人全員に聞こえるように、馬鹿デカい声で叫んだ。


「テメェら、冬悟に触んじゃねぇ!冬悟は、俺のモンだ!!妻である、この俺のな!!」


さっきまでの喧騒が嘘のように、周囲はしんと静まりかえった。

そして、今度はざわざわとどよめきだす。


「えっ?妻??」


「諏訪さんって、独身じゃないの?」


「でも、あの子って、従兄弟じゃなかったっけ?」


口々に話し出す人々を、再度黙らせるため、もう一度高らかに宣言する。


「だから、俺は従兄弟じゃねぇ!!俺は妻だ!冬悟の妻なんだよ!!」


そう叫んだ後、後ろから首根っこをぐっと掴まれた。


「ゔっ!」


「馬鹿か、お前は!ちょっとこっちへ来い!」


珍しく、焦ったように怒号を飛ばしてきた冬悟に、そのままずるずると引きずられそうになるのに抵抗し、その手をぱっと払う。


「嫌だ!」


このままだと、何もできずに、ただ帰らされちまう…!


「純也、いいからこっちに」


振り向くと、必死な眼差しで俺に手を伸ばす冬悟と目が合った。


あぁ、いつもこの手が、その瞳が、俺を守ってくれてたんだよな。


だから、今度は俺が―。


その瞳に、大丈夫だというように、ニカッと笑いかける。


「心配すんなよ!俺が、冬悟を守ってみせるから!」


だが、前を向いた途端、こちらに向かって押し寄せてくる群衆と、ボディーガードの手が俺に迫ってきた。


クソッ、避けきれねぇ……!


「っ……!」


だけど、次の瞬間には、後ろからぐいっと強く腕を引かれ、温かな腕の中に閉じ込められる。

目の前の手は、空だけを掴んでいった。


「…悪いが、コイツには手を出すな。コイツは俺の大事な……妻だ。」


低く唸るような声で威嚇され、殺気立った視線で睨まれたボディーガードは、ヒッとすぐにその手を引っ込め、迫ってきていた人々も、ピタッと止まった。


もう離すまいというように、強く抱き締められ、俺の背中がじんわりと温かくなっていく。

だが、背から伝わってくる心臓の鼓動が、いつもより速く、ドキドキしていた。


「…もう後戻りはできんぞ。」


そっと耳元でそう囁かれ、冬悟の方に振り向いた。

すると、本当にいいんだな?という視線が、俺に向けられている。

その目をじっと見つめ返し、ニッと口角を持ち上げた。


「もちろん。俺はもう、ずっと前から、覚悟できてるぜ。」


数秒間、冬悟と見つめ合う。

この時間だけは、何故だか、周りの喧騒も、風の音も、何も聞こえなかった。

ただ俺と冬悟の、たった2人だけの世界で、互いの意思を、無言で確かめ合った。


―きっと、俺の気持ちは伝わった筈だ。


そっと目を閉じて、もう一度ゆっくりと目を開けた冬悟は、ざわつく群衆に向けて、はっきりと言い放った。


「コイツは…純也は、さっき言った通り、俺の妻だ。俺の妻は、世界中で唯1人……純也だけだ。」


その瞬間、周囲からは、悲鳴が上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ