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day.60

決行するのは、冬悟甘やかし作戦!

普段は俺が冬悟に甘やかされているから、今日は、俺なりに冬悟を目一杯甘やかしてみることにする。


ちゃんと晩飯を用意して、冬悟が帰ってくるのを待つ。

すると、カチャっと静かに玄関のドアが開く音が聞こえてきた。


「冬悟、おかえり!」


いつも通り、パタパタと走って出迎え、ぎゅっと抱きつく。


「…ただいま。」


そして、いつも通り、優しく抱き締めてくれる冬悟が、いつものように、俺にキスしてくれるよりも早く、冬悟の鼻頭に口付ける。

すると、冬悟の瞳孔が、驚いたように見開かれた。


「へへっ。飯できてるから、一緒に食おーぜ!あ、鞄持ってってやるよ!」


よっ、と冬悟の手から鞄を奪い、いつも置いてあるところに持っていく。


「スーツも脱ぐの手伝うな!」


タタッと戻ってきて、ぽかんとしている冬悟のスーツにそっと手をかけると、脱ぐんじゃなくて、逆にギュッと着込まれてしまった。


「いや、いい。…飯の用意を頼む。」


スーツを脱がすのは拒否られたが、めげない。

一緒に晩飯を食い終わり、いつもは冬悟がしてくれている皿洗いも、いいから座ってろよ!と言って、俺がした。


神妙な面持ちをしながらも、ソファで寛いでいる冬悟の隣にすとっと座ると、それに気が付いた冬悟は、おいでと甘い視線をくれる。

飛びつきたいのは山々だが、今日は違うんだ。

スッと手を伸ばし、ぐるんと俺に背中を向けるようにして、冬悟を横に向けた。


「純也?」


何故背中を向けさせられているのかわからない冬悟は、戸惑っているようだ。

そんな冬悟の肩を、よっと揉んでいく。


「あ〜、お客さん、だいぶ肩凝ってますね〜。」


「??………まぁ……な?」


突然始まった肩揉みサービスに、冬悟はただただ困惑していた。

だけど、特に説明もしないまま、背面のマッサージを続ける。


「他に凝ってるとこ、ないですか〜?」


「…おい。」


こちらに振り返ろうとする冬悟を、振り向かせないように制する。


「いいから、ちゃんと前向いてろよ!」


「…わかったから、肩はもういい。ちょっと寝転がらせろ。」


すると、なにやら諦めたのか、背中を上にしたまま、ソファにごろんと横になった。


「…腰。」


「腰ッスね〜!お任せくださ〜い!」


そうやって巫山戯ながらも、体だけでも楽になってもらいたくて、真剣にマッサージしていく。


時々、その広い背中にくっつきたくなるのを、必死で堪えた。


結局、なんだかんだで、冬悟が気持ちよさそうにしてくれていたことに満足した俺は、その後のお風呂でも、洗ってやるよ!と提案したのだが、これは頑なに断られた。


その後も、身体拭いてやるよ!だの、水飲むだろ?だのと、あの手この手で甘やかそうとするも、全て断られてしまった。


………ぜ、全然甘やかすことができねぇ!!


上手くいったのって、マッサージだけじゃん!

それ以外は、撃沈じゃねーか!!


ずーんっと沈んでいる俺の背後から、静かにスッと腕が伸びてきたかと思ったら、ふわっと抱き締められる。


「…純也、今日は一体どうしたんだ?」


そして、ゔーっとヘコんだ俺の機嫌を取るように、チュッと頬にキスをくれる。


このままでは、冬悟の温もりを背中に感じた俺の方が、甘えたくなってしまう。


だが、その後、そっと覗き込んできた冬悟の、その優しくも困惑した眼差しを直視していられなくて、視線を落としてしまった。


俺、何やってんだろ……。

甘やかす筈が、困らしちまってる。


「…純也。」


何も言わない俺に、もう一度、答えを促すように、優しく名前を呼ばれる。

観念した俺は、抱き締めてくれているその腕に、きゅっと手を添えた。


「俺………今日は冬悟を甘やかしたかったんだ。」


「………………は?」


「だからっ!俺は、冬悟を甘やかしたかったんだってば!!」


そう叫んでみるも、後ろにいる冬悟が固まっているのが、顔を見ずとも手に取るようにわかる。


「…お前が?俺を?甘やかすだと??」


漸く絞り出された声は、戸惑っているのか、少し上擦っていた。


「そうだけど…。」


「……それで、ジャケットとマッサージはお前が考えたんだろうが、それ以外は、普段俺がお前にしてやっていることを、真似てみたんだな。」


冬悟は1人で勝手に納得していたけど、俺はこの結果に納得できない。

添えていた手に力を込め、ぎゅっとその腕にしがみついた。


「なぁ、やっぱり……冬悟は俺に甘えてくれねぇの?」


しおしおとヘコたれながら、冬悟の方を力なく見上げると、冬悟は困ったように、少し顔をしかめた。


「甘えるというのは………その、慣れていないものでな。」


「なぁんだ!だったら、全然大丈夫!俺が慣らしてみせるから!冬悟は、俺を真似して甘えてみて!」


ぱっと笑って、期待満々の眼差しで見つめる。

すると、暫く黙っていた冬悟は、観念したように、ふうっと息を吐いた。


「…お前の真似……か。それなら―。」






ベッドの上で、いつも通り、2人で抱き合って寝る態勢に入る。

だけど、いつもと違うのは、冬悟の方が、俺の腕の中にいることだ。


「えへへっ。」


これならいいと、さっき冬悟から言われ、早速試してみた。

いつもは俺が冬悟の腕の中にいるのだけれど、こっちも意外と悪くない。


だって、抱き締めてあげられるから―。


ゆっくりと冬悟の頭を、愛おしく撫でていく。

冬悟も気持ちよさそうに、目を閉じてくれている。


「たまには、こういうのも悪くねぇだろ?」


「…俺は、お前に甘えられる方が、落ち着くのだがな。」


目を閉じたまま、そう答える冬悟に、くすっと笑ってしまった。


「そのうち慣れるって。」


少しの間、こうしていると、冬悟がすりっと俺の額に自身の額を擦り寄せてきた。

そのまま、鼻先同士がちょんと触れ合う。


冬悟が甘えてくれた!


嬉しさを噛み締めていると、間近にある冬悟の口元が、そっと緩んだ気がした。


「…お前が側にいると、安心する。」


「えっ?」


聞き返した瞬間、耳元で規則正しい寝息が聞こえてきた。


覗き込んだその寝顔は、とても穏やかな表情をしている。

その寝顔に、そっと触れた。


「俺も。俺も冬悟が側にいてくれると、すっげえ安心するんだぜ。俺達、一緒だな。」


俺が冬悟を安心させてあげられていることが、こんなにも嬉しいことだなんて、初めて知った。

俺のことを、ちゃんと必要としてくれているみたいで、じんわりと心が満たされていく。


その綺麗な黒髪を梳くように、頭をなでなでした後、額におやすみのキスを落とした。


だけど、肝心の悩み事については、何も話してくれなかったな。

小百合さんも変だっていってたし、もしかして、あの人なら、何か知っているかも―?

だけど、できれば会いたくはないんだけどなぁ……。


あ、そうだ!いるじゃん、もう1人知ってそうな人が!


そんなことを考えながらも、腕の中にいる冬悟の体温が心地よくて、すぐに俺も夢の中へと誘われていった。

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