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day.6

次の日、大学にて。

この時間は、2人とも講義がなかったので、またしても、空いている教室で浩二に昨日の事件を聞いてもらっていた。


「ほら見たことか。しっかり巻き込まれてんじゃん。絶対そーなると思ったわ。」


呆れた顔をした浩二は、机に頬杖をつきながら、シラけた眼差しを寄越してきた。


「何とでも言えよ。とにかく!俺の日常を守るために、一緒にラブラブ大作戦の内容を考えてくれよ〜!」


実は恋愛経験がゼロな俺は、どうしたらラブラブに見えるのかわからない。

っていうか、ラブラブの定義がわからない。

だから、恋愛経験豊富な浩二に泣きついた。


「嫌だ。俺関係ねーし。それに、せっかく許嫁がいたことがわかったんだからさ、このまま離婚したらいいんじゃね?」


「嫌だ。10億もらえるまでは、引き下がるつもりはねぇし、それに、今の快適な暮らしを手放したくねぇ!!」


ズズイッと浩二に迫り、日常の快適さを力説する。


「だって、衣・食・住、全てが快適過ぎるんだよ!アイツとは夜しか顔を合わせねぇから、それさえ我慢すれば、飯は好きなだけ食い放題だし、外食も連れてってくれるし、熱いシャワーとお風呂に浸かれ、ふかふかのベッドが俺を包み込んでくれる!スマホも充電し放題だし、もう自分で服の穴も縫わなくていいし、バイトも行かなくていい!!」


だが、つーんとそっぽを向いた浩二に、指を2本立てて、その目の前に近づける。


「2日分の昼飯奢りでどうだ!」


「ラブラブ大作戦ねぇ、どんなのがいいかなぁ。」


どうやら乗ってくれた浩二は、ふむふむと考え出した。

相変わらず、現金なヤツ。


「とりあえず、許嫁って子が家に押しかけてきたら、純也の手料理を振る舞って、あたかも毎日食べさせているように見せかけるってのは?」


「?それのどこがラブラブなんだよ??」


小首を傾げる俺に、チッチッチッと浩二は人差し指を振った。


「そんなの、単にイチャイチャしてるのなんて、付け焼き刃だって思われるだろ?それより、がっちり胃袋掴んでるぜアピールした方が、より親密さを感じるじゃん?」


「そういうもんなのか。」


恋愛マスターがそういうなら、きっとそうなのだろうと納得する。


「まぁ、俺は元々自炊してたから、料理は全然できるけど、アイツ食うかなぁ?」


「あ〜、そういや、前に1回作った時、他人の手料理なんて食えないとか言われて、大喧嘩したとか言ってたな。」


そういや、そんなことあったわ。

あの後、二度と作ってやるかぁ!って、クッションを投げつけてやった、腹立たしい記憶が蘇ってきた。


俺がイラッとしたのを察したのか、浩二が苦笑いを浮かべる。


「あの人も、困った人だよなぁ。」


「ホント、俺は小百合さんに、アイツ、マジでモラハラだから、やめた方がいいよって言ってやりたい…。」


考えれば考える程、憂鬱な気分になってきて、はあぁっと机に突っ伏した俺を、浩二がまぁまぁと慰めてくれた。


「でもさ、俺的には、普段のままでいいんでない?って思うけど?」


突然の浩二のトンデモ発言に、突っ伏していた体を、ガバッと持ち上げた。


「それはねぇだろ!普段の姿なんて見せたら、それこそ、言い争いしかしてねぇよ。」


ゔーっと唸る俺の肩を、アハハッと笑いながら、浩二はぽんっと叩いた。


「それでいいんじゃね?ケンカする程、仲がいいっていうじゃん?それに、あの鉄仮面の諏訪さんが、誰かとギャーギャーしてること自体、多分見たことないと思うぞ。」


「いっそのこと、本性を見てもらって、諦めて貰おうってことだな。」


だけど、あの隙のない男が、本性なんて見せるだろうか?


ブツブツと思考を巡らせていると、浩二がニヤニヤした顔で、こちらを見ていることに気が付いた。


「何だよ?」


「本性ねぇ。確かに暴君だけど、優しいとこもあるから、純也も手放したくないんだろ?」


ピクッと耳が聞き捨てならない台詞に反応し、相変わらずニヤニヤしている浩二を睨みつける。


「俺は10億のために、この地位を守りたいだけだ!10億貰えねぇなら、今頃とっくに譲ってるっつーの!」


はいはいと言いつつ、俺の言い分を軽く流した浩二の足を、げしっと蹴った。


「純也さ、自分の気持ちをあんまり認めねぇと、諏訪さん、ガチで小百合さんに取られちゃうぜ?」


やめろよと俺の足を軽く叩きながら、意外にも真剣なトーンで言われて、肩がビクッと跳ね上がる。


「別に……俺はアイツのこと、好きじゃねぇし!アイツとの関係は、お金だけだ!」


そう口に出した途端、胸が何かに刺されたように、チクリと痛んだ。

何だ……?


「俺が好きなのは、お金だけなんだよ!」


あれ?

何でこんなにモヤモヤするんだ?


ざわざわする胸が気持ち悪くて、ぐっと押さえて俯くと、急に額に鈍い痛みが走った。


「痛って〜!何でデコピン!?」


「ま、もっと気楽にいこうぜ。もし、離婚されて10億円逃しても、ちゃんと慰めてやるからさ。」


ニヤッと笑って放たれた、本日2度目の浩二のトンデモ発言に、コイツ他人事だと思って楽しんでやがるなと思いつつも、気持ちが少しだけ楽になった。





結局、ラブラブ大作戦の内容は全く決まらないまま、マンションのエントランスに着いてしまった。


いつ突撃されるのかという不安を募らせたまま、エレベーターで家の前に向かうと、本来誰もいない筈なのに、人影がゆらっと揺らめいた気がする。


「ど、泥棒!?」


バッと走って逃げようとすると、待ってください!と、聞いたことのある女性の声が、辺りに響き渡った。


「純也さん、待ってください!私です!小百合です!」


その言葉にハッとして、振り返る。

家の扉の前には、その手に大きな荷物を持った小百合さんが、こちらに向かって立っていた。


「さ、小百合さん!?どうしてここに!?」


ちょっと待った。

ここって確か、1Fはオートロックじゃなかったっけ?

誰かについて入って来ちゃったのだろうか?


「いきなり押しかけて、申し訳ございません。ですが、私、決めたんです。私、今日から1週間、こちらでお世話になりますわ。」


「はぁ〜〜〜っ!!??」






突然の、小百合さんからの、1週間滞在発言。

彼女がドアの前にいた違和感なんて、その台詞の強烈なパンチで、どこかに吹き飛んでしまった。


な、何言ってるんだ、この人は!?


思考が停止して、数秒固まってしまったが、このまま追い返すのもなんだか悪い気がして、とりあえず中に入ってもらうことにした。


「と、とりあえず、ここでは近所迷惑?になるかもだから、入って。」


「ありがとうございます。失礼いたします。」


小百合さんはきっちりした人らしく、脱いだ靴を綺麗に揃えて中に入った。


諏…じゃない、冬悟には、小百合さんが家に押しかけてきたことを、LINNEでメッセージを入れておく。


頼むから、今日は見てくれよ…!


そう願いつつ、何されるかわからない恐怖から、カタカタと震える手でお茶を淹れて出した。


「小百合さん、一体どうしたんですか?」


取りあえず、用件を聞いておこう。

だけど、許嫁と向かい合って座っているのは、クソ気まずい。

それに、1週間も滞在したいって、冗談でも笑えない。


俺とは反対に、落ち着いている小百合さんは、お茶を静かに啜った後、真っ直ぐにこちらを向いたかと思ったら、スッと頭を下げた。


「昨日は手荒な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした。」


顔を上げた小百合さんは、そのまま言葉を紡いでいく。


「それと、昨日は貴方を見極めたいなどと失礼を申し上げてしまいましたが、撤回させてください。純也さんが冬悟さんに相応しいと相応しくなかろうと、私は諦めるつもりはありません。」


冬悟を想う、小百合さんの強い気持ちにドスッと刺され、俺の心がズキズキと痛み出す。

そして、あまりにも真っ直ぐに、そして切なく揺れるその瞳に、俺は言葉を失った。


俺達の不純な関係が、純粋な彼女の気持ちを踏み躙っている。

その事実を目の当たりにして、ひどく申し訳ない気持ちになり、俺は俯くことしかできない。


「私には、貴方方が愛し合っておられるようには、どうしても見えないのです。なので恐らく、お互いに何かご事情がおありなのでしょう。ですが、だからこそ、納得できないのです!……お願いです、純也さん。彼と別れていただけませんか!?お願いします……っ!」


そう言ってガタッと椅子から立ち上がり、バッと深く頭を下げられてしまった。

彼女の切羽詰まった声が、今でも耳の中に残っている。


俺達の関係が、バレてる!?

もう、ラブラブ作戦も意味ねーじゃん!

どうしよう!?


精神的に追い詰められてしまい、どうしていいかわからなくなった俺は、次第にパニックになっていく。


「あのっ!頭を上げてください!!」


そう声をかけても、その姿勢から微動だにしない小百合さんを、俺は理解することができなかった。


どうして、アイツのことで、ここまでできるんだろう?


「………小百合さんはさ、冬悟のどこが好きなの?」


気が付けば、心の疑問を口にしてしまっていた。


許嫁なんて、家や親が決めたもので、本人が決めたものでないものが殆どだと思う。

それなのに、どうしてそんなに好きになったのか、単純に聞いてみたかった。


どうしてそんなに必死になれるのか、聞いてみたかった。


「貴方はご存知ないかもしれませんが、冬悟さんは、本来とてもお優しい方です。あの方の優しさに、私は何度救われたことか。その優しさが、私はとても好きなのです。」


恥ずかしそうに両手で顔を隠した小百合さんに、胸がギュッと締め付けられる。


どうやら小百合さんは、冬悟と昔からの知り合いのようだ。

だけど、今のアイツは、優しさの片鱗を感じる気はするけど、普通の人程の優しさを持ち合わせているとは、悪いけど思えない。


「そっか…。」


「ですので、この1週間、お側にいさせてもらうことで、なんとか冬悟さんに、私の方が役に立つことを、知っていただこうと。」


これだけ冬悟のことを想っている小百合さんに、この座を譲るべきなのか、気持ちが大きく揺らいでしまう。


「俺……」


その瞬間、バンッと慌ただしくドアが開いた音が、玄関から聞こえてきた。

振り返ると、そこには急いで帰ってきたのか、肩で息をしている冬悟の姿があった。


「と、冬悟!?」


「小百合さん、家にまで押しかけてくるなんて、一体どういうつもりですか?」


俺の呼びかけを無視した冬悟は、ズンズンとこちらに近づき、無表情で冷たく小百合さんを睨みつけている。

その鋭い視線に、ビクッと小百合さんの肩が震えたのがわかった。


「と、冬悟さん、わ、私、今日から1週間こちらでお世話になりたいのです!」


「承諾しません。それを飲んだら、お帰りください。」


「そんなっ!!」


勇気を振り絞って、か細く震えた声で小百合さんが懇願しても、冬悟は取り付く島もないくらいにピシャリと突き放す。

小さくなってしまった小百合さんが、さすがに可哀想になってきた。


「あ、あのさ!今日1日だけ泊まらしてあげたら?もう外も暗いし。明日帰ってもらったらいいんじゃね?」


「お前は口出しするな。」


その鋭い視線が、今度は俺に向けられる。

あまりの威圧感に、俺も怯みそうになった。


だけど、負けたくない。


「い、いいじゃん。1週間が1日になるんだからさ!それに、こんな暗い時間に女性を外に放り出すなんて、危ないだろ?」


「お前はどっちの味方なんだ?それに、まだ19時だ。家の者に車で迎えに来てもらえば、いいだけの話だ。」


「そ、そうだけど…。じゃあ、晩飯だけでも食って帰ってもらったら?俺、作るし。」


「前にも言ったと思うが、他人の手料理は食わん。それに、お前の料理は不味そうだ。」


「はぁ!?」


さすがに頭にきて、バンッと机を叩いた。

こっちを睨んでいるその凍てついた瞳を、キッと睨み返す。


「食ったこともねぇくせに、失礼なんじゃねぇの!?じゃあ、俺と小百合さんの分だけ勝手に作るから、アンタは外で食べてこいよ!」


ビシッとドアを指差すも、俺の怒りを、溜息1つで流しやがった。


「そもそも、お前の手料理では、小百合さんにも迷惑なんじゃないのか?」


「んだとテメェ!んなこと言うんだったら、無理やり口に突っ込んででも、絶対食わせてやるからな!」


俺達が言い争っていると、隣からクスッと笑い声が聞こえてきた。

その瞬間、2人ともハッと我に返り、ピタッと黙って、声が聞こえた方に振り返る。

すると、先程とは違い、微笑みを携えた小百合さんは、凛と背筋を伸ばした。


「随分と仲がよろしいのですわね。冬悟さん、今日は突然お邪魔してしまって、申し訳ございません。本日だけ、本日だけで構いませんので、こちらに泊めていただけませんでしょうか?」


スッと頭を下げた小百合さんを、冬悟は渋い顔で見下ろしていたが、やがて、はあっと溜息を吐いた。


「…わかりました。今日だけです。明日の朝には帰ってください。純也、お前のベッドを貸してやれ。」


「へっ?俺は?」


「お前はこっちで寝ろ。」


「わ、かった。」


もしかして、俺、コイツと一緒に寝んのか!?


動揺している俺を余所に、冬悟は淡々と小百合さんと何かを話している。


遠目から見ていると、この2人の方が、確かにお似合いかもな。


何故だか、そのまま2人の様子を見ていたくなくて、視線を逸らそうとした時、不意に冬悟の視線がこちらに向けられ、ぱちっと目が合った。


「何をしている?お前は2人分の飯の用意と、部屋を片付けてこい。」


「へーへ。」


人を顎で使ってくるこんな男は、小百合さんみたいな素敵な人には勿体ないと思う。

小百合さんのためにも、この座はやっぱり、俺が死守した方がいいような気がしてきた。


爆速で部屋を片付け、3人分の晩飯を作り、無理やり冬悟にも食べさせた。

最初はもの凄く嫌がっていたが、いいから食えよ!と物凄い剣幕で迫ると、渋々黙って食べていた。

小百合さんとは、寝る前までお喋りをし、案外仲よくなれた気がした。





あとは寝るだけとなり、自分の枕を抱えたまま、緊張しながら冬悟の寝室のドアをカチャっと開ける。

すると、既に中にいた冬悟が、こちらに視線だけを寄越した。


「そんなところで突っ立ってないで、さっさと入ってこい。」


「お、おう。」


カチコチになりながら、だだっ広いベッドに近づいていく。


「そっち半分使え。」


「し、失礼しま〜す。」


こんなにも広いベッドなのに、俺と冬悟は、端と端で横になり、真ん中がぽっかりと空いていた。


真っ暗な部屋の中、被っている布団やシーツから、コイツの匂いだけを感じ取ってしまい、落ち着かなくてそわそわしてしまう。


「な、なぁ、久しぶりにヤる?」


「は?馬鹿なのか?さっさと寝ろ。」


誰かと一緒に寝る時は、いつもそれだけだった。 

だから、何もしないでただ寝るだけなのは、変な感じだ。


それに、冬悟はずっと俺に背を向けたままで、一度もこちらを振り返ることはない。

でも、今はその態勢が、ありがたかった。


「あのさ、ラブラブ作戦、決行しなくてよかったな。」


寝ればいいだけなのに、眠れないから、やたらと話しかけてしまう。


「…彼女がここに来た時点で、俺達が偽りなのは、既にバレているのだろうからな。」


だから、俺にも容赦なく、あんな態度を取ったのか。

昨日との態度の変わり具合に、若干引いてたけど、そういうことな。


「小百合さんとは幼馴染なのか?」


「…くだらん話はもうお終いだ。寝ろ。」


「いいじゃん!アンタのこと、ちょっと聞かせろよ。」


そう言った途端、今まで背中を向け続けていた冬悟が、軽くこちらに振り返り、スッとその目を冷たく細めた。


「お前、俺との契約内容を、もう忘れたのか?“俺の事に干渉しないこと”。思い出したなら、そのうるさい口を閉じろ。」


何も言い返せなくて、ぐっと押し黙るしかない。

離婚されたら、俺の10億が水の泡になってしまう。


やっぱり、コイツは優しくなんてない。


もう一度、俺に背を向けた冬悟に、俺も背を向けた。


俺のよりふかふかで温かいベッドの筈なのに、どうしてだか、寒い気がする。

誰かと一緒に寝ている筈なのに、1人の時よりもずっと、静かで、長い夜になった。





朝、ベッドのど真ん中で目覚めた時には、もう既に、隣に冬悟の姿はなかった。

昨夜はなかなか寝付けなかったが、いつの間にか眠っていたようだ。


欠伸をしながらベッドから降りて、カチャと寝室を出ると、動く人影が目に入り、ビクッとしてしまった。


そうだった。

小百合さんが泊まっていたんだった。

だけど、びっくりした〜。

冬悟が出るのと一緒に、帰ったと思ってた。


ふうっと気持ちを落ち着かせてから、顔を覗かせる。


「さ、小百合さん、おはよう。」


「おはようございます、純也さん。」


昨日はちょっとだけ親しくなれたけど、2人きりだと、やっぱりちょっとだけ緊張してしまう。


小百合さんは、俺の朝ご飯を準備してくれたようで、いい匂いが漂ってきた。


「冬悟さんに無理を言って、純也さんが起きるまで、待たせていただいたんです。」


「えっ?お、俺を!?」


小百合さんは、スタスタと俺の真正面に立ち、にこっと微笑みを浮かべた。

軽く開いたその口に、ゴクッと息を呑む。


「純也さん、私、今回は貴方に完敗いたしましたわ。」


寝惚けた頭のせいか、言われたことが理解できず、ぱちくりと目を丸くした。


「へ?何が?」


だけど、小百合さんは気にしないで、先を続ける。


「あれ程誰かに気を遣っていない冬悟さんを、私は初めて見ました。」


「へ、へぇ?」


それって、一体どうなんだ?

いいことなのか、悪いことなのかわからず、う〜んと悩む。

ってか、俺にも気を遣えよ!


この心の声が顔に出てしまっていたのか、小百合さんはクスクスと笑い出した。


「気を遣わなくていいということは、それだけ、貴方には自然体でいられるのでしょう。悔しいですが、私には、そうさせてあげることはできませんもの。」


そう言った小百合さんの表情は、どこか寂しそうだった。

だけど、すぐに凛々しい表情に戻り、その強い眼差しが、俺を貫く。


「だから、私は貴方達の結婚を認めます。これからも冬悟さんを、どうぞよろしくお願いいたします。」


スッと頭を下げられ、予想外の展開に、うえっ!?と思わず変な声が出てしまった。


「は、はぁ……。任せ…て?」


なんとも歯切れの悪い返答に、またしてもクスクスと笑われてしまう。


「もし、お任せできないと判断いたしましたら、その時は、お覚悟くださいませ。」


その言葉に、ヒィッ!と震え上がった。


「純也さん、本当の彼を、見つけてあげてくださいね。」


微笑む小百合さんの顔を、窓から入ってきた朝日が、穏やかに照らす。


本当の彼?

今も充分、本当の彼だろ?


脳内に“?”を飛び散らかしているものの、あまりにも真っ直ぐ過ぎるその眼差しに、頷くほか選択肢はなかった。


だけど、どうやら俺は、意図せずこの座を守り切ることができたようだ。

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