day.56(冬悟視点)
俺に失敗を知られることに、ずっと怯えていた純也が、今、全く怯えなかった。
寧ろ、失敗しても、安心した、甘えた瞳を向けてくれた。
それがどれだけ俺にとって、特別なことだったか、きっとアイツは知らないのだろう―。
仕事をしている純也を眺めていると、向かいから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「純也さん、ずーっと君を見つめていたね。今もチラチラこっちを見ているけど。」
「…そんなわけないだろう。」
だが、実際、さっきから何度も目が合っている。
目が合う度に、嬉しそうに目元を緩めるものだから、俺も目が離せなくなる。
「君達ラブラブが過ぎるよ!それに、さっきだって、純也さんが磁石のように、すーっと君に引き寄せられていったんだからね!」
「…見ていたのなら、途中で止めろ。」
両手の人差し指同士をすーっと近付けて再現している陽介に、呆れた眼差しを向けるも、この男には、まるで効き目がない。
「それにしても、今まで誰にも興味を示さなかった君が、ここまで惚れ込むなんてね。彼は一体、どんな魔法を使ったんだい?」
興味津々な陽介を無視していると、やれやれと肩をすくめた。
「…………そんなにお互い好き同士なんだから、例の件、君は彼と一緒に乗り越えるべきだと思うけどな?」
突然真剣なトーンで話し始めた陽介を、スッと睨みつける。
「…アイツを巻き込むつもりはない。」
「でも、彼も当事者だろう?」
恐らく、陽介の言っていることは、正しいのだろう。
それでも、俺はアイツの今の生活を、壊すわけにはいかない。
「…いや、これは俺の問題だ。俺だけで何とかする。」
「それは違うじゃないかい?それに、1人での解決は、実質無理だろう?僕から見ても、彼はもう子どもじゃない。冬悟、君が潰れてしまう前に、君はもっと彼を頼るべきだ。」
陽介が俺を心配しているのは、わかる。
だが俺は、どうしても首を縦に振ることは、できない。
「…それは俺が決める。この話はもう終わりだ。」
「冬悟……。だけど」
「お待たせいたしました。」
タイミング良く、純也が料理を運んできたため、陽介はその口を閉じざるを得なくなった。
初めて見た時よりも、コトッと静かに皿を置いた純也は、俺達の不穏な空気を感じ取ったのか、小首を傾げた。
「?どうかしたのか??」
「…いや、何でもない。」
「うわぁ〜、美味しそうだね!早速いただこうよ!」
気の所為だったのかな?という表情をした後、純也はまた“店員”に戻っていく。
「ごゆっくりどうぞ。」
営業スマイルを浮かべたかと思ったら、パッと目が合った瞬間、ニッといつも通り笑った。
…この笑顔を守るためなら、何だって耐えてみせる。
俺の決意を見透かしているのか、陽介がずっとこちらを心配そうな眼差しで伺っていることには、気付かない振りをした―。
一方、その頃厨房では。
「………ねぇ、大林?」
「…………………何だ?」
「アタシ達、一体何を見ているのかしら?」
「……………………オレが聞きたい。」
想像していたものとは違い過ぎる展開に、純也を見守っていた2人は、ただただ目を点にすることしかできなかった。




