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day.54

1日が過ぎていくのは一瞬で、あっという間にバイト最終日になった。


バイト先の更衣室で、今日でこの生活も、俺の夏休みも終わっていくのかとしんみりしていたら、背後から誰かに話しかけられた。


「あら、純也!おはよう。どうしたの?哀愁なんか感じちゃって。」


「川崎先輩!おはようございます。いえ、今日で終わっちゃうんだなって思って……。」


そう言うと、目をぱちくりと瞬いた川崎先輩は、アハハッと大きな声を上げて、笑い始めた。


「やだぁ!もう、純也ったら!寂しくなったら、いつでも来たらいいのよぉ!!ずっと会えなくなるわけじゃないんだから!」


明るく笑う川崎先輩につられて、何となく沈んでいた俺の心も、次第に明るくなっていく。


「そっか。そうですよね!」


「そうよぉ!だって、アタシ達、今までだって、バイト先が変わっても、何度も会ってきたでしょ?それに、まだ今日が残ってるじゃない!」


そう言って、軽くウインクをした川崎先輩に、俺も笑顔で頷いた。


「じゃあ、今日もよろしくお願いします!」


「うふふ、その意気よ。そういえば、結局、彼氏は呼ばなかったの?」


一瞬ギクッとしたが、嘘を吐いても仕方がないため、観念して頷く。


「はい……。」


「あらそう……残念ね。ここ最近のアナタの大成長を、見せてあげられないのね……。でも、お仕事とかなら仕方がないものね。……わかったわ、純也、今日はアタシがアナタの成長を、しっかり見ててあげるわ!」


今はもう、冬悟に来てもらうつもりはなかったから、全然残念じゃない。

それに、あんまり見られると緊張するから、本当はいつも通りでいて欲しいけど、川崎先輩の好意を無碍にするわけにもいかず、苦笑いしながら、お願いしますと答えた。


川崎先輩と楽しく喋っていると、コンコンッと強めにドアをノックする音が聞こえてきた。


「おい、そこの2人。いつまでくっちゃべってんだ。そろそろ時間だぞ。」


ドアに寄りかかりながら、こちらを見ていた大林さんに、2人同時に振り向く。


「大林さん!」


「あら、大林。呼びに来てくれたの?たまには気が利くじゃない!」


「なかなか来ねぇから、仕方なくに決まってんだろ。」


大林さんがシラけていることなんて、川崎先輩には全然気にならないようだった。


「そんなこと言っちゃって〜!さぁ、行きましょ、純也!」


そのまま、颯爽と更衣室を出て行った川崎先輩を見送った後、大林さんの元へ駆け寄る。


「今日も1日、よろしくお願いします!」


「おう。」


大林さんは、いつも通り軽く返事をし、くるりと背を向けて、歩き出した。


こうして、最終日のバイトが幕を開けた―。





今日も相変わらず忙しいが、今までに比べると、少し落ち着いている気がする。

順調に仕事をこなしていると、突然、大林さんに呼ばれた。


「瀧本!ちょっとこっちに来てくれ!」


「はい!」


スタスタと早歩きで向かうと、怪訝そうな顔をした大林さんが待ち構えていた。


「どうかしたんですか?」


「瀧本、お前に指名が入った。」


「えっ??」


指名?

しかも、俺に??


どれだけ考えても、俺に接客して欲しいと言ってくれそうなお客さんは、今までにはいなかった。

迷惑をかけて、担当を変えてくれとクレームが来たことは何回かあったけど、またお願いねとは、一度も言われたことなんてない。


一体誰が―?


俺が驚いているのと同じように、大林さんも驚いていたようだ。

珍しく困惑している大林さんは、マネージャーに相談か?いや、でもなどと、1人で何かを呟いた後、ガシガシと頭を掻いて、漸く意を決したように、こちらをしっかりと見た。


「いいか、瀧本。お前を指名してくれた方は、VIPなお客様だ。お前は知らないかもしれないが、かなり有名な人だから、失礼のないようにな。絶対に粗相はするなよ。」


真剣な眼差しで釘を差された俺は、ゴクッと息を呑んだ。

そんなスゴい人が、どうして俺なんかを指名したんだろう。

緊張から、手に汗が滲んでいく。


「俺、不安しかないです……。」


最近は大きなミスはしなくなったとはいえ、絶対に失敗できないのは、やっぱり怖い。

狼狽える俺に、まさかの同意をするように、大林さんは大きく頷いた。


「残念だが、オレもだ。だがまぁ、心配しても、どうしようもないしな。堂々とやってこい。もし、失敗したら、一緒に謝ってやるから。ほら、行って来い。お客様があちらでお待ちだ。」


あの大林さんが、もう投げやりになっている……。

大林さんをも不安にさせるような俺なのに、ちゃんとやりきれるのか……?


より不安が増強してしまったが、これ以上待たせることもできないため、大きく深呼吸をした後、少し目を伏せながら、ゆっくりと角のテーブルへと向かっていった。


近づけば近付く程、他を寄せ付けないオーラを感じ、胸が失敗できない恐怖で押し潰されそうになる。


それでも、行くしかない。


ふうっと息を吐いて、目線を上げる。


「大変お待たせいたしまし……と、冬悟!!??」


視界に飛び込んできた人物に驚愕し、みるみると目が見開かれていく。


俺を指名した人物は、なんと冬悟だったのだ。

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