day.52
お前が思う、俺の理想の妻とは―?
冬悟にそう問われた俺は、自信満々に答える。
「え?そんなの、何でも1人でできて、メンタルめっちゃ強くて、マナーも完璧で、冬悟が妻ですって紹介するのに恥ずかしくない妻に決まってんだろ?」
絶対に、冬悟はそういう人が理想なんだってずっと思ってたから、だよな?というようにちらっと見上げると、呆れた視線が上から浴びせられた。
「…………思った以上に曖昧で、よくわからんのだが。そもそも、俺だって、何でも1人でできるわけではない。…どうやら、お前は俺の理想の妻像を勘違いしているようだな。」
はぁっと盛大に溜息を吐かれ、否定されるとは思っていなかった俺は、目を丸くして首を傾げた。
「違うのかよ?じゃあさ、冬悟の理想の妻像って、一体何だよ??」
すると、冬悟がそっと額同士をくっつけてきた。
珍しいその行動と、至近距離で見つめ合うその瞳が甘いことに、落ち着きがなくなりそわそわし始め、変な緊張からドキドキと胸がうるさくなってくる。
「…そうだな、どうしようもない甘えたで、すぐに勘違いして暴走し、周りに迷惑をかけ、努力は大体空振り、喜怒哀楽が激しくてうるさく、どうしようもない馬鹿。」
吸い込まれそうな綺麗な瞳には、はっきりと俺が映っており、恥ずかしい筈なのに、目を逸らすことができない。
そして、冬悟は真っ直ぐに俺を見たまま、フッと柔らかく笑った。
「…だが、素直で、いつも全力で、真っ直ぐに俺にぶつかってきて、いつも俺に笑いかけて……俺自身を一心に求めてくれる奴……だな。」
「え???それって………。」
思考がフリーズし、半分以上悪口なそれが、誰のことを言っているのか、全く見当がつかない。
だけど、その目がそれが誰なのかを強烈に物語っており、嫌でもわかってしまった。
その瞬間、ぶわわわっと一気に顔が熱くなる。
顔だけじゃなくて、全身までもまるで茹でられたように熱くなっていく。
「えっ??そ、そんな、う、う、嘘だ!!俺のこと、からかってんだろ!?」
狼狽えて、身体を引き離そうとするも、その腕に閉じ込められ、動けない。
心臓が痛いくらいにドキンドキンと激しく脈を打つ。
「嘘ではない。俺の妻は、今もこれからもお前だけだ、純也。だから、俺の理想の妻も、必然的にお前だ。」
冬悟がこういうことで嘘を吐かないって、知っている。
だからこそ、本気でそう思ってくれているんだって、痛い程伝わってくる。
「っ〜〜〜〜〜!!!」
「…だから、陽介にはお前と結婚したと伝えただろう?あんな感じだが、アイツは口が堅い。だから、問題ないしな。」
そうだった。
陽介さんは、冬悟から俺と結婚したって聞いたって言ってた。
冬悟が自身の大切な人に、俺のことを紹介してくれるのは、言葉にできないくらい嬉しい。
今、冬悟に言いたいことがいっぱいあるのに、喉の奥から何も言葉が出てこない。
口をぱくぱくさせていると、冬悟はそんな俺の両頰を、親指と中指で挟み、ふにっと俺の口をタコのようにして遊び、フッと笑った。
「…顔を真っ赤にして、そうやって口を動かしていると、鯉みたいだな。」
「なっ!?うっせぇよ!!」
尖らせている唇を、はむと甘噛みされる。
そのまま、優しく口付けられ、その甘い感触に、溶けてしまいそうになる。
漸く、喉でつかえていた言葉が、自然と口を出た。
「冬悟……そのままの俺でいいって言ってくれて、ありがとう。それに、俺と結婚してるってちゃんと言ってくれて、ありがとう。…たくさん傷付けたのに、それでも側にいてくれて、ありがとう。」
今度は俺から、キスをする。
「今度からは、ちゃんと冬悟に甘える……助けてって、ちゃんと言うから。」
ぎゅっと抱きついて、その首筋にスリッと擦り寄る。
「大好き……冬悟。」
互いの気持ちを確かめ合うように、何度も口付けを交わす。
甘過ぎるこの行為に、ふわふわと気持ちよくなりながらも、ふと、何でこんなことになったんだっけと考えてしまい、そして、あり得ない仮説に辿り着いてしまった。
「あのさ、もしかしてなんだけど、俺が風邪引いた時、冬悟じゃなくて、浩二に頼ったことが嫌だったのか?」
言っておきながらなんだけど、これは俺の自惚れだってわかってる。
きっと、また呆れた目で見られるんだと覚悟していたが、口付けていた冬悟の動きがピタッと止まった。
「………………………。」
「冬悟?」
何も答えない冬悟を不思議に思いながら、じっとその顔を見つめる。
すると、今までしっかりと合っていた目をふいっと逸らされ、そのままそっぽを向かれてしまった。
???
今までにないその行動に、俺の頭には“?”が飛びまくったが、これは、もしや肯定なのではないかとすら思えてきた。
「あの〜、もしかして、図星なのか?」
ぐいぐいと顔を覗き込もうとするも、高さで敵わないため、ずっと避けられる。
それでも、しつこく、なぁなぁ?と言い続けると、たった一言だけ、ぼそっと呟きが聞こえてきた。
「………悪いか?」
その瞬間、俺の心はきゅんとときめく。
それに、よく見ると、髪の隙間から少しだけ覗いている耳が、ほんのりと赤みを帯びている気がする。
冬悟が可愛い!!
ずっと完璧だと思っていた冬悟が、まさか、俺のことで嫉妬して、拗ねるなんて!!
絶対にあり得ないと思っていた事態が起きて、俺の心のきゅんきゅんが止まらない。
ぎゅううっと強く冬悟を抱き締め、その胸にスリスリと擦り寄る。
「ん〜ん!冬悟が俺のことで嫉妬してくれて嬉しい!でも、俺の心は、冬悟だけのものだから。安心しろよな!ってか、そっか〜、冬悟でも拗ねるんだ〜!俺と一緒じゃん!!」
頭上から、はぁっと溜息が聞こえたかと思ったら、勢いよくソファに押し倒された。
「…もう黙れ。」
目を丸くして見上げると同時に、唇を塞がれ、何も言えなくなってしまう。
結局、俺達は、お互いに誤解と嫉妬して、ケンカしちゃったんだ。
だけど、これがきっかけで、本音も言えて、冬悟のことももっと知れたから、結果的にはよかったのかもしれない。
でも、こんなケンカは、できればもうごめんだけどな。
唇がゆっくりと離れていき、ぱちっと目が合った瞬間、互いに笑い合う。
俺を優しく包んでくれるその瞳を、真っ直ぐに見つめ返し、ふわっと微笑む。
「俺が知らない冬悟の一面が知れて、嬉しい。これからは、俺にもっと見せて?お願い……。」
冬悟は少し困ったように、眉間に皺を寄せたが、やがて、俺の鼻の頭にキスをした。
「…もう“保護者”でいるのは、無理だな。」
やたら甘ったるい瞳を向けられたが、その呟きは、俺の耳に届くことはなかった。
「何?」
「…いや、なんでもない。」
俺が何かを言おうとする前に、もう一度口付けられる。
ちょっとだけ気になったけど、冬悟の表情が嬉しそうだから、まぁ、いいか。
その後は、飽きるくらいに何度も唇を重ね、互いの愛を確認し合った―。




