day.51
もう俺とは一緒にいられない……?
それってつまり、俺のことはもう―。
掴んでいた冬悟の服の裾が、するりと手から離れていく。
だらっと力無く腕は落とされ、息が上手くできなくなって、そのまま膝から崩れ落ちていった。
だが、床に座り込む前に、冬悟の腕が俺の身体を支える。
「…純也、落ち着け。そして、俺の話をちゃんと聞け。お前が、俺に迷惑をかけないために甘えないというのなら、もう無理だと言っただけだ。最初から、お前と一緒にいたくないとは、言っていない。」
「?それってどういう……?」
既に頭がパニックで、言われた意味が理解できない。
困惑していたら、突然ふわっと身体が宙に浮いた。
冬悟が俺を抱え上げたのだ。
そのまま、ゆっくりとソファに座らされる。
「…そもそもお前は、どうして俺に頼らないようにすることが、俺のためだと思っているんだ?」
隣に座った冬悟は、そっと俺の顔を覗き込んだ。
片手で涙を拭い、嗚咽を堪えながら、何とか口を開く。
「だって……ヒック……俺は甘えただから、このままだと、ずっと冬悟に甘えっぱなしで、寄りかかり過ぎちゃう。それだと、冬悟もしんどくなっちゃうんじゃないかって思うし……。それに、冬悟は何でも1人でできるのに、俺は1人だと何もできない…。このままだと…ッ俺はいつまでたっても、冬悟にとって恥ずかしくない妻になれないっ……!」
「…お前は本当に、どうしようもない馬鹿だな。」
はぁっと溜息が聞こえ、これはもう見放されてしまったんだと思い、深く俯く。
「…確かに、一緒に暮らすなら、時には我慢も必要だろう。だが、その我慢が、互いに何のメリットもないのなら、それは意味のない我慢だ。……俺は、お前に頼られたい。もっと甘えられたい。お前は?純也は、本当はどうしたいんだ?本当に、1人で何でもできるようになりたいのか?」
「俺が…どうしたい……のか?」
冬悟は俺に頼られたい?
甘えられたい??
冬悟がありのままの俺を、受け止めてはくれたとしても、求めてくれるなんて、あり得るのだろうか。
でも、もしも本当に、そう思ってくれているのだとしたら、俺は―。
勇気を振り絞って、バッと顔を上げる。
そして、俺の本当の気持ちを、冬悟の目を真っ直ぐに見つめながら、はっきりと伝えた。
「俺は……もっと…もっと冬悟に甘えたいっ…!!心がしんどかった時も、風邪引いた時も、本当は誰よりも冬悟に、側にいて欲しかったからっ……!!」
頬に流れる涙を、冬悟の綺麗な指が、優しく拭ってくれる。
俺を見る冬悟の目元は、いつものように、優しく細められていった。
「…だったら、お前は甘えるのを我慢するのは、止めろ。辛い時こそ、ちゃんと俺を頼れ。」
だけど本当に、そんなワガママいっていいのだろうか?
まだ少し不安な俺は、なかなか素直に頷けない。
「でも……それじゃあ、俺は冬悟に依存しちゃう……。」
やっぱり考え直して、それだとムリって言われるかもしれない。
だけど、冬悟はハッキリと、俺の不安を否定してくれた。
「前にも言ったと思うが、お前のことなら、俺が受け止める。それに、お前に頼られない方が………俺は辛い。」
どうして冬悟はこんなにも、俺を受け入れてくれるんだろう。
俺の全てを、受け止めてくれるんだろう。
俺の最愛になった人が、夫で、こんなにも俺を求めて、愛してくれるなんて。
その奇跡に心は打ち震え、今度は温かい涙が溢れてくる。
もう我慢しなくていいんだ。
心のリミッターが外れた途端、勢いよく冬悟の胸に飛び込んだ。
「ずっと甘えていいって言ってくれてたのに、我慢して傷付けちゃって、本当にごめんっ…!」
ぎゅうっとしがみつく俺を、冬悟はしっかりと強く抱き締めてくれた。
久しぶりにその力強い腕の感触と、温かい体温と匂いに包まれて、幸せで心が満たされていく。
「…もう謝らなくていい。それはそうと、お前はよく“ちゃんとした妻”と口にしているが、そのお前のいう俺の理想の妻像とやらは、一体何なんだ?」




