day.48
久しぶりに自分のベッドを使ったが、隣に冬悟がいないのが寂しくて、それに落ち着かなくて、全然眠れなかった。
何で、こんなことになっちゃったんだ?
心がここにないって、何だよ?
俺の心は、ずっと冬悟のものだったのに、どうして……?
昨日言われたことを何度考えても、冬悟がそう勘違いした原因が、全くわからない。
冬悟みたいに、誰かとイチャついた覚えもないし、勘違いさせるようなことをした覚えもない。
ずっと起きていたけれど、朝から顔を合わせるのも気まずくて、冬悟が出て行く時間まで、ベッドの上で大人しくしていた。
出掛けたのを確認してから、部屋を出て、リビングに向かう。
そこで、ある変化に気が付いた。
この時間に起きると、いつもテーブルの上に1人分の朝食が用意されてあった。
だけど、今日はそれがない。
何も乗っていないテーブルに寂しさを覚え、食べる気がなくなってしまった俺は、久しぶりに朝食を抜いた。
気分は沈み、何もしたくないのに、今日はバイトがある。
嫌々支度をして、重たい足を引きずりながら、家を出た。
寝不足なこともあり、頭が上手く回らなかったが、何とかバイトをやり切り、足取り重く、とぼとぼと歩いていると、ガラガラと大きなキャリーケースを持っている人と偶然すれ違った。
それが視界に入った途端、ふと、冬悟がいなくなった日のことを思い出してしまう。
もしかして、今朝見てない間に、荷物をまとめて出ていってしまったのではないか。
そう思った瞬間、サアッと血の気が引いていく。
また俺から離れていくのかよ……そんなの嫌だ!!
俺だって怒っていた筈なのに、それ以上に冬悟を失いたくなくて、無我夢中で走り出す。
冬悟を引き止めたくて、会社の近くまで来た際に、見たことのあるグレーのスーツが目の端に飛び込んできた。
もしかして、あの人―。
考えるよりも先に身体が勝手に動き、その男に声をかける。
「あのっ!」
「はい?」
振り返ったその相手は、例の冬悟の不倫相手だった。
ビンゴだ。
近くで見ると、俺よりも身長が高く、意外と体躯もしっかりとしており、本当に整った顔をしている、爽やかイケメンだ。
初めて対峙する相手に、ドキドキと動機が早くなる。
「あの、突然話しかけてすみません。えっと、諏訪 冬悟の知り合いですよね?」
その男は、不思議そうにまじまじと俺を見ていたが、やがて、顔をぱああっと明るくさせていった。
「あぁ!君は冬悟の妻の純也さんだね!写真で見せてもらった通り、可愛らしい方だ!」
あれ?
何で俺の顔と名前………?
何故知っているのか、不思議に思いながらもコクッと頷く。
「そ、そうです。」
「はじめまして!僕は、陽介・マルティーニといいます。冬悟の大学時代からの友人です。どうぞよろしく!」
挨拶として差し出された手を握る。
ちらっと表情を伺うが、ニコニコと微笑むその笑顔からは、全く敵意を感じない。
それどころか、俺に好意的なように感じた。
「あの、マルティーニ…さんは、冬悟のお友達、なんですよね?」
しかし、まだ疑っている俺は、相手の一挙一動を見逃さまいと、じっと探るように見つめる。
しかし、彼はただ笑顔で、大きく頷いた。
「陽介で構わないよ。堅苦しいのは苦手なんだ。あぁ、そうだとも。いやぁ、あの男がこんな可愛らしい人と一緒になるなんて、思いもしなかったよ!昔から、嫌味かと思うくらいモテまくっていたけど、彼には許嫁がいたからね。てっきりその人とかと思っていたら、違ってびっくりだよ!」
HAHAHA!と爽やかに笑っている彼に、ぽかんとしてしまう。
だけど、この人は、どうして俺とのことを知っているんだ?
「あ、あの!どうして、俺のことを?」
「ん?あぁ、君のことは、冬悟に教えてもらったんだよ。この間、久しぶりに会って、一緒に飲みに行ったんだけど、その時に結婚の報告を受けてね。写真を見せろとせがんだら、渋々見せてくれたよ!」
驚きのあまり、目と口をぽかんと開けたまま、固まる。
冬悟の口から、誰かに、俺と結婚したって告げることがあるなんて!!
それ自体が、信じられなくて、嘘なんじゃないかと疑ってしまう。
………だけど、もしそれが本当なら、この人は、マジで友人なのかも。
ということは、もしかして、また俺の勘違い……!?
そのことに気付いた途端、またやってしまったと内心で落ち込む。
俺、冬悟のことに関しては、学習能力ないのかも………。
どうしても、不安が勝ってしまい、視野が狭くなってしまう。
ホント、俺ってダメなヤツだな……。
悶々とそんなことを考えていると、陽介さんの口から、驚きの提案が飛び出した。
「もしかして、君も冬悟に用事があるのかな?そうだ!これから冬悟の会社に行くところだったんだ。よかったら一緒にどうだい?」
「えっ!?」
まさかの、不倫相手(?)と一緒に、冬悟の会社に突撃することになってしまった。




