day.47
夜もすっかり更けた頃。
ガチャと玄関の扉が開き、冬悟が帰ってきた。
いつもなら出迎えに行くが、今日は絶対にいってやらねぇ。
「…まだ起きていたのか?」
顔を出さなかったからか、冬悟はもう俺は寝ていると思っていたようだ。
だが、もう既に怒りの沸点が限界だった俺は、無言でスタスタと近づくと、帰ってきたばかりの冬悟の胸倉を、ガッと掴んだ。
「おい、テメェ!何不倫してんだよ!!」
「…何の話だ?」
突然の襲撃に、驚いたように目を見開いた冬悟を、鋭く睨みつける。
「とぼけんなよ!!ちゃんとこの目で見たんだからな!テメェが、他の男と抱き合ってるのを!!」
はあっと溜息を吐いた冬悟は、呆れた視線を寄越してきた。
「…あんな時間まで、あの辺をウロウロしていたのか。勘違いしているようだが、あれはただの友人だ。」
「嘘つけ!!」
冬悟が誰かと抱き合うなんて、“特別な人”以外に考えられない。
ギリッと下唇を噛み締め、冬悟の胸倉を掴む手にはより力が込められる。
「…嘘など吐いていない。それより、いい加減離せ。」
胸倉を掴んでいた手首に、そっと冬悟の手が触れた。
その瞬間、バシッと払い除ける。
俺以外のヤツに触れたその手で、平然と触れてくるのが許せなかった。
「触んな。」
凄むように唸ると、何故か冬悟は傷付いたような表情を見せた。
正直、冬悟のそんな顔は見たことがなくて、内心で困惑してしまう。
だけど、この怒りは収まらない。
「不倫なんて許さねぇから。なぁ、いつからだよ?アンタの様子がおかしかったのも、俺と離婚したかったからなんだろ!?」
「………俺はお前に、信じてすらももらえないのか。」
冬悟が何かボソッと呟いたが、上手く聞き取れなかった。
「何だよ?」
「…離婚したいのは、お前の方なんじゃないのか?」
「は?」
静かに呟かれたその問いかけに、言葉を失った。
冬悟は一体何を言い出すんだ?
どうして、俺が?
突然の俺へのカウンターに、今度は俺が驚く番になった。
頭の理解が全く追いつかず、ぽかんとしてしまう。
俯いた冬悟がもう一度顔を上げると、出会った当初のような冷たい瞳になっており、それを見た瞬間、俺の心が凍りついた。
どうして、そんな目で俺を見るんだ……?
無意識に、カタカタと身体が震えだす。
「………もう、お前には俺が必要ないようだな。心がここにないのは、お前の方だ、純也。」
事実無根の勘違いに、何とか反撃しようと口を開くも、震えた唇では、上手く言葉を発せられない。
「ちが、何?俺は…っ!」
「もういい。」
俺のことを拒絶したその瞳で睨まれ、俺の心は絶望に蝕まれていく。
「ちょっ、何訳わかんねぇこと言ってんだよ!待てって!」
スタスタと横を通り過ぎていく冬悟を、引き止めようと腕を掴んだが、バッと振り払われてしまった。
今まで冬悟に拒否されたことなんてなかったから、驚きのあまり、一瞬で頭が真っ白になった。
振り払われた手だけが、虚しく空に残されている。
「…今日から自分の部屋で寝ろ。」
俺に一瞥をくれることもなく、バタンと乱暴な音を立てて、冬悟の部屋の扉は閉まった。
一体、何が起こったんだ………?
状況が全く飲み込めず、ただただ、その場で呆然と立ち尽くすことしかできなかった。




