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day.42

パーティー当日。

パーティーには、以前はお客さんとして参加したけど、今度はスタッフ側として参加することになった。

しかし、今までにないくらいの地獄の忙しさで、目が回るどころではなく、現場はてんてこ舞いだった。


厨房から一歩外に踏み出せば、優雅な空間が流れているのに、厨房に戻れば、そこは戦場だった。


「そのサラダ、数足りてるか!?」


「この皿違うじゃん!同じ皿を並べろって言っただろ!?」


「そこのグラス割らないように気を付けて!」


バタバタと走り回るが、お客さんがいるところでは優雅にスタスタと歩いていく。


一体どんな集まりなんだろう。

誰かの結婚式だとか、何かの会合っていうわけでもなさそうだ。

だけど、お客さんの年齢層は比較的高めで、リッチ感が漂っている。


カトラリーの数が足りず、バックヤードに備品を取りに行くために廊下を歩いていると、今から会場に向かっている“誰か”とすれ違った。


「あら、貴方…純也さん?」


この声、聞き覚えがある。

品があって、でも、威圧感のあるこの声は………まさか!?


バッと勢いよく振り返ると、そこには見知った人物が、真っ直ぐにこちらを見ていた。


「み、美代子さん!!??」


まさか、こんなところで、再び冬悟のばあさんに会うなんて!!


予想外過ぎる出来事に、激しく動揺して、よろっとよろめく。


「お、お久しぶりです…。」


絶縁状態となった原因の張本人である俺が、何を話したらいいんだ。

気まずっ!!


相変わらず、綺麗な着物を着て、凛と立っている美代子さんは、ジロジロと俺を上から下まで、まるでチェックするかのように、見回した。


「純也さん、貴方、まだバイトなんてしていらっしゃるの?やっぱり、まだお金に困っていらっしゃるのね。」


「そんなことないです。俺がやりたくて、やっているだけです。」


この人に、弱みを見せてはいけない。


そう思って、気丈に振る舞おうとするけど、美代子さんの方は、そんなことはお構いなしで、淡々としていた。


「そう。どうせ、もう自由を満喫されているものね。だって、貴方は冬悟さんの従兄弟なんでしょ?」


な、何故それを!?

美代子さんは、冬悟によく似た冷たい視線を向け、嘲笑うのを隠すかのように扇子で口元を覆った。

ギュッと拳を強く握りしめ、怯む姿を見せまいと、キッと真っ直ぐに睨んだ。


「違います!俺は妻です!」


「その台詞は前にも聞いたわ。だけど、あたくしの耳には、貴方は“従兄弟”だって入っていましてよ。あの時のあたくしの勘は、正しかった。やっぱり、貴方達は、偽装結婚だったのね。」


「だから、違いますってば!今は…ちゃんと夫夫です。」


今は、の部分は、ゴニョゴニョと誤魔化しておいた。


「指輪の一つもしていらっしゃらないのに?」


ドクンと心臓が脈を打つ。

咄嗟に、サッと左手を背後に隠した。


「ゆ、指輪なんて、最近はしない夫婦も多いんです。俺達はただ、しない選択をしただけなんで。」


視線を逸らしてしまわないように、何とか堪える。

だけど本当は、羨ましいなんて思っているのがバレないか、内心でビクビクしていた。


「まぁ、あたくしにとっては、どうでもいいことだわ。だけど」


扇子越しでも、美代子さんが笑ったのが、はっきりとわかった。


「世間的には、貴方達は従兄弟。所詮、その程度だったってことね。」


「っ…!そんなことっ!」


「瀧本!何してる!?早く取ってこい!!」


後ろから聞こえてきた大林さんの声で、はっとした。

そうだった、今、俺はこの人と話している場合ではなかった。


「すみません、俺今忙しいんで、ここで失礼いたします。」


スッと一礼して、そのままバックヤードに向かおうとした。


「そういえば、この間、冬悟さんが珍しくどなたかと仲良さ気にしていたのを見かけたわねぇ。会社の人かしら?何やらただならぬ雰囲気だったわぁ。だけど、従兄弟でしたら、関係のない情報だったわねぇ。」


「えっ……?」


もう一度振り返ると、感情の読み取れない美代子さんの瞳と目が合った。

ピリッと張り詰めた空気が流れる。


フイッと顔を背けた美代子さんは、そのままスタスタと会場に向かって歩いていった。


美代子さんの言葉が、頭の中でずっと引っかかったままだったが、今は業務に集中することにし、振り切るようにバックヤードに向かって走っていった―。





傘を忘れた俺は、帰る途中で雨に降られ、とぼとぼと濡れたまま夜の道を歩いていた。

もうクタクタで、走る元気も残っていない。

あの後も、ずっとドタバタだったが、なんとか大きなミスをすることもなく、パーティーを無事に乗り切ることができた。

ただ、あれ以降、美代子さんと話すことはなかった。

ほっとしたものの、あの時言われた言葉が、ずっと脳内で反響している。


所詮その程度―か。


俺、冬悟から離れない覚悟をしていた筈なのに、本当は全然できていなかったのかも。

覚悟を、履き違えていたのかもしれない。


じゃあ、“覚悟”って何?


考えれば考える程わからなくなっていき、はあぁっと息を吐くも、その音は雨に掻き消されていく。


それに、誰かと仲良さ気だったって、一体どういうことだろう。

別に、仲の良い友人とかなら、全然気にしねぇんだけど、ただならぬ雰囲気ってのが、気になる………。


もしかして、不倫!?


その結論に辿り着いた瞬間、バシャッと靴が水溜りにはまった。


だったら、ただならぬ雰囲気でも納得がいく。


もしかして、俺よりいい人見つけちゃったのかも!!??


ヤバい!!

こうしちゃいられねぇ!

なんとかして、冬悟にバレないように、会社に忍び込んで調査しねぇと!


あ!いいこと思いついたぞ!


雨でびしょびしょに濡れながら、それを実行するために、急いで家に帰った。

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