表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/61

day.39

一方その頃。

俺はトイレを必死に探していた。

ここに向かう途中、他の従業員の人達も探してくれているのを見かけた。

恐らく、みんなで探してくれているのだろう。

どれだけ多くの人に迷惑をかけてしまったんだ。

あまりにも自分が情けなくて、泣きそうになるが、泣く資格もないと堪える。


どれだけ探しても見つからない。

トイレは一旦諦めて、厨房に戻ろうとした時、他の従業員達の声が聞こえてきた。


「あの新人、いつか何かやらかすかなと思ってたけど、速攻だったな。」


「なー。まさか指輪を失くすとはなぁ。」


「このクソ忙しいのに、俺達まで仕事中断させられて、マジでウゼェわ。」


「ホントそれな。今日はさっさと帰るつもりだったのに、マジでダルいわ。自分1人で探してくれっての。」


見つからないように壁にもたれて、そっと目を伏せる。

………そりゃそうだよな。

俺が逆の立場だったら、きっと同じことを思うはずだし。

そんな風に思われるのは、仕方がないんだ。


だけど、直接言われるよりも堪える。

胸がチクリと痛んだが、ギュッとキツく目を瞑って、気付かないフリをした。


とにかく、今は探さないと。

だけど、今出ていく勇気はなくて、彼らが通り過ぎた後に、こっそり厨房に戻った。


厨房も隅から隅まで探したが、見つからない。

後は、ゴミ箱か………。

そっと手を伸ばし、素手で漁ろうとした時、誰かにパシッと手を掴まれた。


「君、新人だね?例の指輪を探しているのかい?ゴミ箱の中を探すなら、素手ではいけないよ。このゴム手袋を使いなさい。」


「あ、ありがとうございます。」


今までシフトがあまり一緒になったことのない、シェフの人が渡してくれたゴム手袋を嵌め、ゴミ箱の中を探す。


こんなことをしていると、食べ物を探してゴミを漁っていた幼い頃の記憶が蘇ってきて、なんとも言えないやるせなさと惨めさが、胸を締め付けた。


………俺、この歳になっても同じことしてるや。


段々と、探す手の勢いがなくなっていく。


って、いけねぇ!

早く指輪を、指輪を探さなきゃ。


手を止めないように、頭の中を指輪探しでいっぱいにして、夢中でゴミの中を探していると、後ろから川崎先輩の声が聞こえた気がした。


「純也〜〜〜!指輪見つかったわよ!!」


えっ?ホントに?


ゆっくりと振り返ると、こちらに向かって走ってくる川崎先輩と、その手の中にある、キラリと光るモノが見えた。


「純也!指輪!あったわよ!!」


ぜーっぜーっと息を切らしながら、ほら、と手の中にあるモノを、しっかりと見せてくれた。

そこには確かに、シルバーの指輪があった。

胸に安堵の気持ちがじわじわと広がっていく。

言葉を詰まらせながら、川崎先輩に感謝の気持ちを伝えた。


「よ、よかった!!川崎先輩、ありがとう、っ、ありがとうございます!!」


よかった、見つかって、本当によかった。


漸く、張り詰めていた糸がプツンと切れそうになる。

だけど、自分で見つけることができなかった不甲斐なさも、同時に胸に押し寄せてきて、感情はグチャグチャだった。

その糸が切れてしまわないように、気付かれないようにしてギリッと下唇を噛み締める。


「もう大丈夫よ。だけど、今度から気を付けなさいね。さ、マッハでケーキを作るわよ!」


そう言うと、川崎先輩はケーキ作りに取りかかった。

そんな川崎先輩の背中にもう一度深く一礼をしていると、背後からぽんっと背中を叩かれた。


「瀧本、見つかってよかったな。」


「大林さん!本当にすみませんでした!!一緒に探してくださって、ありがとうございます!!」


大林さんにも深々と頭を下げる。


「だが、次はないからな。ほら、さっさと手を洗ってこい。遅れた業務を取り戻すぞ。」


「はい!」


この後、他の従業員にも謝罪と感謝を伝え、滞ってしまっていた業務を必死で片付けていった。


ただ、不思議だったのが、そのお客さんからのクレームがなかったこと、そして、皆、“次から気を付けろ”とは言うが、それ以上責めることはなかった。

前田マネージャーには、注意を怠ったことについては叱られたが、それでも、責められることはなかった。


だけど、それが逆に心苦しかった。

消えてしまいたいと思うくらいにー。





なんとか無事に1日を乗り切った従業員達が、帰る時間になった。

川崎先輩を帰る前に捕まえて、ずっと気になっていたことを、漸く聞いた。


「あのっ、川崎先輩。あの指輪、結局どこで見つかったんですか?」


「あぁ、あれね。依頼主のお客様の女性側の椅子の下よ。」


「えっ!?」


ってことは、もしかして俺は、そもそもポケットに入れそびれていたってことか!?


「そんな……。」


自分の碌でもなさに、愕然とした。

あの時、焦っていたからって、そんなミスを……。

ギュッと爪が食い込むぐらい、強く拳を握りしめる。


「ホントに、終わったと思ったんだから。それに、見つけるのも大変だったんだからね。」


そう言うと、川崎先輩は見つけた時のことを詳細に話してくれた。

そんなに大変なことになっていたなんて。

そんな時に俺は、ただただゴミを漁っていただけだった。


自分の情けなさが、本当に嫌になる。


だけど、そんな場所からどうやって回収できたんだろう?

従業員である川崎先輩達が近づいたら、バレてしまうかもしれないのに。

どうしても、気になる。


「でも、どうやってお客様にバレないでその場所から回収したんですか?」


「それはね、とあるイケメン紳士様が助けてくださったのよ〜!」


「イケメン紳士?」


きゃー!といきなりテンションが上がった川崎先輩に、ビクッとした。


「そうなの!さり気なくテーブルの横を通って、何か落としたフリをして拾ってくださったのよ!その仕草がめちゃくちゃスマートで、もう〜惚れちゃったわ!!」


ホント素敵だったわぁと惚れぼれしているその横顔は、まるで恋する乙女だ。

それか、推しに出会った感じ。


「そうだったんですか。」


あまりのテンションの高さに、申し訳ないと思いながらも、口の端をヒクつかせた。

だけど、川崎先輩は脳内にトリップしていって、もう俺の姿は見えていないっぽい。


「名乗ってくださらなかったから、名前はわからないんだけど、時々見かける方だわ。」


そんな恋する乙女の脇腹を、後ろからやって来た大林さんが、ドスッと肘で突いた。


「ぅ゙っ!何すんのよ大林!!」


「キモい顔してんじゃねぇよ。瀧本が引いてるだろが。確か、諏訪様だったと思うぞ。」


「えっ!?す、諏訪!!??」


ま、まさか………な。

ただの同姓の可能性もあるし。


「あぁ、確かそうだ。んで、その後、そのお客様と何か話されて、シャンパンを1本空けてくださったんだ。そのおかげで、何とか時間が稼げて、クレームにならなかったんだ。」


………これは絶対に冬悟だ。

何故だかわからないけれど、俺の直感がそう告げている。


そうだと確信した俺は、川崎先輩と大林さんにもう一度深々と頭を下げた。


「今日は本当にすみませんでした!そして、ありがとうございました!!」


お先に失礼します!と言いながら、ダッと家に向かって走り出した。


冬悟に会いたい―。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ