day.35(冬悟視点)
今から得意先との会食の予定が入っている。
純也はバイトらしいが、1人でもきちんと飯を食っているのだろうか。
そもそも、本当に“普通の”バイト先なのだろうか。
何を考えているのか、何故隠そうとしてくるのかがわからない。
アイツが内緒にしたいことなんて、碌でもないことの方が圧倒的に多い。
変なことに巻き込まれていなければ、いいのだが……。
どうしてアイツ1人に、こんなに振り回されなければならないのか。
イライラと心配が募っていくが、それを無理やり心の奥へと押しやる。
気掛かりな事が多すぎて、頭が痛くなってくる。
「…そろそろ向かうか。」
気は重いが、そうも言っていられない。気持ちを切り替え、待ち合わせ場所に向かうため、会社を出た。
今日の会食の場所は、何度か来たことがある、某ホテルのレストランだった。
「いや〜諏訪さん。お会いできて嬉しいです。」
「こちらこそ。本日はお会いいただきありがとうございます。」
ここの店、以前来た時はもっと静かだった気がするが、今日は人も多いせいか、心なしか騒がしい気がする。
それに、どうやら新人がいるようだ。
この店には相応しくない、ガチャガチャと食器の当たる雑音が、時々聞こえてくる。
突然、ガチャン!と大きな音がした。
「失礼いたしました〜!」
………今の声は?
相手に気付かれないよう、目線だけをスッと音のした方に向けた。
すると、見知った人物が、割れた皿を掃除しているではないか。
………この店に似つかわしくない音を出している犯人は、純也だった。
本当に普通の店で働いていたことには安堵したが、お前は何故こんなところで働いているんだ?と今すぐ問い詰めたくなる。
だが、そういう訳にもいかないため、グッと堪える。
………アイツはまだ、あのことに拘っているのだろうか。
この間、納得したんじゃなかったのか?
今にもまた皿を落としそうな、プルプルと小刻みに震えている純也の危うい動きに気を取られ、目の前の話が全く入ってこない。
話に集中しなければ。
だが、目を離すこともできず、気付かれないように視線だけでその動きを追い続ける。
……………今度はワインを零したのか、あの馬鹿は。
内心で、溜息を吐きながら頭を抱えた。
どうして、自分に向いていないだろうこの職場を、今回のバイト先にしたのか。
全くもって謎である。
泣きそうな顔をしているアイツを、今すぐ助けてやりたい。
手を差し伸べてやりたい。
だが、今は、“保護者”として、アイツの成長を見守るべきだと自分に言い聞かせ、駆け寄りそうになる感情に耐え凌ぐ。
年の割には幼く、そして甘えたなアイツには、“夫”としての俺ではなく、“保護者”としての俺が必要なのだ。
周りのことが見えておらず、不安定なアイツには、その手を引いて支えて、導いてやる“大人”が必要だ。
今は、それに徹するしかない。
自分のことで必死な純也は、俺がどんな想いでいるのかなんて、知りもしない。
――だが、今は、その方がアイツにとってはいいのだろう。
バイト先もわかったことだ。
暫くは黙って様子を見に来るとしよう。




