day.34
次の日。
まだ午前中なのに、クラクラするくらい強い日射しの中、バイト先に向かう。
今日は研修を受ける予定だ。
俺はウェイターとして働くこととなり、あの大林さんが、俺の指導係として面倒を見てくれることになった。
このホテルの理念等、最初に基礎知識を叩き込まれた。
挨拶の仕方とかは、前に周さんに教えてもらったことがあるため、なんとかなりそうだ。
これから、実際に大林さんを相手に実演することになった。
「じゃあ、オレを客だと思って、接客してみな。」
「はい!」
大林さんは入口の扉に向かい、スタスタとこちらに向かって歩いてくる。
「いらっしゃいませ〜!」
「ストップ。」
速攻で止められてしまった。
どうやら、最初からミスったらしい。
「瀧本、ここはホテルだ。お前の接客は、居酒屋スタイルだ。もっと落ち着いてやってみろ。」
「わかりました。」
もう一度、やり直す。
それでもダメで、何度もやり直しをさせられる。
「いらっしゃいませ〜。」
「ストップ!」
少しイライラした感じで、ズンズンと大股で近づいてきた。
「その語尾伸ばすのやめろ!さっきオレがやってみせたのを真似してこれか?これぐらいのこと、ちょっと意識すればできるだろうが!さては、お前やる気ねぇな?」
「そんなことないです!」
決して、やる気がないわけではない。
ずっと居酒屋バイトをしていたから、癖になったんだと思う。
それを突然直せと言われても、難しい。
チッと舌打ちして、ガシガシと頭を掻いた後、軽く睨まれた。
「もういい。次だ次!」
次は、ホールの研修だった。
食品サンプルが乗った真っ白なお皿とワイングラスを、お盆で運んでいく。
「お待たせいたしました!」
ガチャンと大きな音を鳴らしながら、ドンッと机に置いていく。
その光景を、目が点になって見ていたかと思ったら、ものすごく頭を抱えられてしまった。
「…………これもオレが手本を見せてやるから、しっかり真似てみろ。あと、口調がいちいち居酒屋スタイルになんの、いい加減やめてくれ。」
手本を見せてくれた大林さんの所作は、そのガタイの良さからは想像できないくらい、とても繊細なものだった。
お皿はほんの僅かにカチャと鳴くぐらいで、静かに机に並べられていく。
「こんな感じでやってみろ。」
それから何度も挑戦するが、どうしてもガチャガチャと音が鳴ってしまう。
あまりの壊滅的センスに、大林さんもお手上げのようだった。
「おはようございます〜。あら、純也!研修はどう?上手くいってる?」
今からシフトなのか、川崎先輩が颯爽と出勤してきた。
俺を見つけて、ひらひらと手を振ってくれた。
「おい、川崎!お前が連れてきたこのもやし、全っ然使いもんにならねぇじゃねぇか!!」
川崎先輩を見つけた大林さんは、ビシッと俺を指差して、文句をまくし立てた。
「挨拶から1つ1つの所作まで、何1つできやしねぇ!こんなポンコツ、初めてだ!!」
俺、そんなにできてなかったんだ!
ガーンとショックを受けるが、確かに、どれもちゃんとできた感触はない。
俺、ここでやっていくの、ムリかもしれない………。
しゅんと落ち込んでしまいそうになるが、ここで折れたらダメだと、自分に言い聞かせる。
「あら?そんな、1日や2日で身に付くわけ無いじゃない。これだから、短気は嫌ねぇ。」
「お前っ…!自分が世話係じゃねーから、んなことが言えんだよ!こんな物覚えの悪ぃ奴、どうやって教えればいいんだよ!あ゙あ゙っ!?」
「根気強く教えてあげなさいよ!それが先輩の仕事でしょ!?」
この2人は犬猿の仲なのだろうか。
顔を合わせては、ケンカをしている気がする。
バチバチしている2人ところに、タイミング良く、この店の責任者である、マネージャーの前田さんがやってきた。
「大林くん、瀧本くんはどうだい?おや、川崎くん、おはよう。」
のほほんとしたその雰囲気のおかげで、一気に場が和んでいく。
「マネージャー、瀧本にはまだ引き続き研修が必要だと思います。」
大林さんはそう進言してくれたが、前田さんは少し困った顔をした。
「そうかい……。う〜ん、本当はそうしてあげたいんだけど………実は1人病欠が出てしまって。悪いけど、今日から出てもらうことになったから。僕もフォローするから、よろしくね。」
「なっ……!?」
う、嘘だろ!?




