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day.32

俺がバイトをしたいと言い出したところ、冬悟は少し渋い表情を見せた。


「…お前は今、バイトをする必要はないと思うのだが、どうしてやりたいんだ?」


まさか、何でバイトをしたいのかなんて、聞かれるとは思わなかった。

確かに、今、俺にはお金は必要ない。


「だって……冬悟も仕事だし、遊ぶ友達だって、浩二くらいしかいねぇし…。ヒマだから?」


今まで暇だと感じる余裕なんてなかった俺は、正直、このあり余る時間をどう過ごせばいいのか、わからない。

バイトなら、時間も潰せてお金も手に入る。一石二鳥だ。


だけど、冬悟は頭を抱え、はぁっと溜息を吐いた。


「…純也、お前は他にやりたいことはないのか?」


「他にやりたいこと……?う〜ん……………別にないけど。」


バイト以外に思い浮かぶ選択肢なんて、何ひとつなかった。

どうして、冬悟はこんなことを聞いてくるんだろう。

ちらっと冬悟の方を伺うと、やはり渋い表情をしたままだった。

俺、どこかで、答えを間違えた…?

なんとなく不安になって、咄嗟に視線を伏せる。


「…質問を変えよう。お前、将来はどうなりたいんだ?」


将…来……?

そんなの、考えたこともなかった。

確かに、このまま順調にいけば、あと1年半くらいすれば、俺も卒業して社会人になる。

でも、社会人なんて、嫌でも勝手になるもんだし、みんな、どこかには就職できるんじゃねぇの?


「わかんない。」


俺には、そう答えることしかできなかった。


「…そうか。………夏休みの間なら、バイトをしても構わん。だがな、純也。お前はもう少し、将来のことも考えろ。あと、お盆期間だけは、予定を空けておけ。」


冬悟はそれ以上、何も言ってはこなかったが、その表情を、怖くて見ることができなかった。



次の日。

昨日冬悟に言われたことがずっと気になって、何をすることもなく、街中をふらふらしていた。


将来…か。

そもそも、これがしたいとかいうものは無い。そして、夢もない。

昨日やりたいことが答えられなかった俺に、冬悟は呆れたかもしれない。

……失望したかもしれない。


どうしよう。


このままだと、何も無い俺なんか嫌いになって、離婚されちゃうかもしれない。


思考が負のスパイラルにはまってしまい、段々と心が不安に押し潰されそうになっていく。

そんな時、突然、後ろから声をかけられた。


「純也?アナタ、純也よね?」


どこかで聞いたことがあるような、ないような……。

そんな声の主を探すよう、振り返った。

するとそこには、少し長めのピンクベージュの髪に、綺麗めな格好をして、身に付けている小ぶりのシルバーアクセサリーをキラッと輝かせている男性がこちらを見ていた。


「川崎先輩!?」


川崎先輩は、俺の2歳年上で、バイト生活時代に、同じバイト先に何度かなったことがあり、その際によく面倒を見てくれた人だ。

この人は、いつも自信に満ち溢れていて、キラキラと輝いていた覚えがある。


手を振りながら、こちらに小走りで駆け寄ってきた。


「やっぱり純也じゃな〜い!久しぶりね!元気だった?って、相変わらず辛気臭い顔してるわね。ねぇ、アナタ今暇?」


「お久しぶりッス。今はヒマですけど…?」


「だったら、ちょっとお茶しましょ!すぐそこにいいカフェがあるのよ〜!」


そう言って、川崎先輩は有無を言わさぬ勢いで俺を引っ張っていき、あれよあれよとカフェに連れて行かれた。

そして、川崎先輩の話を聞かされるのかと思いきや、俺の悩みを聞いてもらうことになってしまった。

冬悟のことは、夫ではなく、彼氏という体で、昨日のことを聞いてもらった。


「なるほどねぇ。」


話を聞き終えた川崎先輩は、手に持っていた紅茶のカップを、ゆっくりカチャと置いた。


「すみません、こんな話聞いてもらっちゃって……。」


「何言ってんのよ。アタシが話すように言ったんだし。それよりも、純也。アナタ、やりたいことがないなんて嘘じゃない?」


「えっ……?」


嘘を吐いた覚えは全くなくって、思わず目を丸くした。

そんな俺に、川崎先輩はクスッと笑う。


「だって、アナタ、その身分違いの彼氏の横に正々堂々と立ちたいんでしょう?それも立派にやりたいことじゃない。」


あれ?それも冬悟の言う“やりたいこと”になるのか?

………何か違う気がする。


「でも、そんなの夢とは言えないじゃないですか……。」


腑に落ちない顔をしていると、川崎先輩はフフッと笑った。


「純也、アナタ、“夢”とか“やりたいこと”とかを、大きく考え過ぎなのよ。宇宙飛行士になりたいとか、先生になりたいとか、そんな大きなことじゃなくっていいの。彼氏を支えれるようになりたいっていうのも、やりたいことでいいじゃない。そこから、何か見えてくるものがあるかもしれないわよ。」


そんな風に考えたこともなかった。

だけど、そう考えると、少し目の前が明るくなった気がした。


「あとは、それを実現するために、純也が必要なスキルを取得していかないとね。そこでなんだけど、いいバイト先、紹介してあ・げ・る♡」


どうやら、久しぶりのバイト先が見つかったようだ。

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