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day.26

周さんと別れた後、はあ〜っと溜息を吐き、どんよりしたまま家に帰った。

例のマナーについては、明日から4日間、周さんに大学が終わった後、教えてもらうことになった。

本当は冬悟に教えてもらうのが一番早いのだろうけど、この件はアイツに内緒のため、今回は頼ることはできない。

それに、今は頼りたくない。


家に帰った後、冬悟とはそのまま冷戦状態になった。

というより、冬悟は例の件について何か言おうとしたが、俺が拒絶した。

すると、それ以上は何も言っては来なかったが、その後もできる限り普通に接してくれようとしてくれるのを、俺がまだそこまで大人になりきれなくて、どうしても突っぱねてしまう。

だから、必要最低限の会話だけをする状態になってしまった。


大学に行って帰る間際、浩二に昨日のことを愚痴ると、絶句された。


「お前ら、…嘘だろ?一昨日めちゃくちゃラブラブだったじゃねぇか!何でたったの1日でそんなことになるんだよ!?」


「そんなの、俺が聞きてぇよ。」


ムスッとしている俺を見て、浩二はマジかよという風に頭を抱えた。


「確かにさ、諏訪さんの言い方はマズかったとは思うけど、それでここまで勘違いできるお前はある意味すげぇよ。」


「どういうことだよ?」


勘違いなんかしてねぇし、というように睨みつけると、やれやれと呆れたように頭を軽く振られた。


「俺から言うのも野暮だから言わねぇけど、そもそもだぜ?あの諏訪さんが、目的を達成した今、何の愛着も感じてない人間を側に置いておくと思うか?」


「それは…。」


冷静に考えてみると、それはないって断言できる。

アイツは要らないものはすぐに捨てるタイプだ。

だけど。


「ないかも…だけどさ、仮にもし俺に愛着があったとしても、この関係が恥ずかしいかどうかは別問題だろ?」


「純也、マジでそう思ってる?」


浩二に問われて改めて考えてみると、冬悟はきっと恥ずかしいなんて思っていない。

なぜなら、アイツが恥ずかしいそうにしている姿を見たことがない。

そもそも、アイツに羞恥心とかあるのだろうか?

だとしたら、別の理由で、言いたくないのだろう。

だけど、それが何かが、全くわからない。


「まぁ、とりあえず、がんばってマナー講習受けて、初パーティーがんばってこいよ。俺も、そこで諏訪さんの気持ちが多分わかると思うぜ。んで、お前が悪いなって思ったら、ちゃんと謝りなよ。」


「…おう。」


ぽんっと軽く肩を叩いた浩二は、ニッと笑った。

何で俺が悪いって思うことになっているんだ?

そう思いながら浩二を見た際に、時計がちらっと視界の端に入った。

その瞬間、慌ててガタッと椅子から立ち上がる。


「あっ、やべっ!俺もう出るわ!周さんとの約束の時間に遅れちまう!じゃ、浩二またな!」


机に置いていた自分の鞄をバッと掴んで、バタバタと走り去っていった。


「端から見たら大好き同士なのに、何でお互いだけがわからないんだろうなぁ。」


その後ろ姿を見送った浩二は、思わず苦笑いを浮かべた。





マナー講座の初日は、俺の家で行われた。

今、俺は背中や腰を中心に、プルプルしている。


「奥サマ、今とてもいい感じでス!真っ直ぐですヨ!」


真っ直ぐ立つだけなのに、どうしてこんなにしんどいのか。

冬悟も周さんも、姿勢が良い。

よくこの姿勢を保てているよなと心の底から感心する。

元々少し猫背気味な俺には、この姿勢を維持するだけでもかなりツラい。


「次はそのまま歩いてみましょウ!少し顎を引いて、しっかり背筋を伸ばしてくださイ!」


うっ、歩きにくい。

ギクシャクしながら歩くと、周さんからすぐにダメ出しが飛んでくる。


「奥サマ!手と足が一緒に出てしまっておりまス。それと、もう少し優雅に、堂々と歩いてみてくださイ!」


そんな一度に言われても、できねぇよぉ〜。

泣きそうになりながら、何回もリテイクさせられる。


「今とってもいい感じですヨ!その感覚を覚えましょウ!」


何度も何度も歩かされ、次は挨拶の仕方や笑顔を作り方など、超基本的であろうことを教わった。

基本の筈なのに、全部やり終えると、全身の筋肉という筋肉がちーんと終わってしまった。

もう一歩たりとも動けない。

ソファでぐったりしている俺を、周さんは気遣って褒めてくれた。


「奥サマ、大丈夫ですカ?よく頑張られましタ!もう、最後なんてばっちりでしたヨ!これで基本は何とかなるでしょウ。」


「あ、ありがとうございます…。」


まさか初日でこんな状態になるなんて、想像もしていなかった。

元々育ちがそんなに良くない俺にとっては、マナーを覚えるだけでも一苦労だ。


この時は、あと3日もやっていけるだろうかと心配になったが、物覚えの悪い俺に、周さんは嫌味の一言もいわず、根気強く付き合ってくれた。


それに、これをがんばって習得できたら、冬悟にちゃんと妻だって認めてもらえるかもしれない。

ちゃんと胸を張って隣に立てるかもしれない。

その想いを原動力に、泣きそうになりながらも、地獄の特訓に耐え続けた。


立食パーティーでの食べ方や、話し方、会話の仕方などを教えてもらい、とうとう決行の日を迎えることとなった―。

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