day.20
結局、誰かもう1人を探す羽目になってしまった俺は、途方に暮れながら、トボトボと自宅の最寄り駅周辺を歩いていた。
そもそも、女子で、しかも冬悟とも知り合いでっていったら、1人しか思い浮かばない。
ただ、連絡先も知らなければ、もちろん、住所も知らない。
ってか、立場上、どの面下げて会えばいいのかもわからない相手を、誘えるはずがない。
「はあ〜ぁ。何でこんなことに…。」
がっくりと項垂れていた頭をふと上げると、見知った人物が目に飛び込んできた。
ま、まさか!?
「さ、小百合さん!?」
「あら、純也さん。ごきげんよう。お久しぶりですわ。」
偶々だとは思うが、このタイミングで会うなんて。
相変わらず凛としている小百合さんは、自身の車に乗り込もうとしており、どうやら今から帰るところだったようだ。
とりあえず、気乗りはしないが、当たって砕けとくか。
「あ、うん、久しぶり。あのさ、小百合さん。突然なんだけど、ネズミーランドとかって、好き?」
「?本当に突然ですわね。えぇ、好きですわ。」
次の言葉を発して大丈夫なのだろうか。ゴクッと息を呑んでから、本題に入る。
「あのさ、もし、よかったらなんだけど、俺と冬悟と俺の友達と一緒に行かない?」
「フフッ。私をお誘いになられるなんて、いい度胸ですこと。」
ニコッと微笑まれているのに、その台詞のせいで般若の笑みに見えてくる。
恐すぎて、視線をスーッと泳がせる。
「ごめんなさい。でも、あの、そのぉ…。」
「冗談ですわ。何か理由がおありなのでしょう?お聞かせくださる?」
しどろもどろに狼狽えた俺を見て、小百合さんはクスクスと笑った。その様子に、ほっと安堵する。
「うん。それが、かくかくしかじかで。」
マジで、何でこんなことになっているんだろう。元婚約者に、相手を横取りした今妻が相談とか、完全に頭おかしいだろ。
だけど、上手い嘘も思いつかなくて、今までの経緯をありのまま話した。
ただ、話している間中ずっと、変な汗が止まらなかったのは、言うまでもない。
「…なるほど。お話よくわかりましたわ。」
最後まで何も言わず聞いてくれた小百合さんは、俺が話し終えると、そっと頷いた。
「でも、やっぱり、嫌ですよね。俺らと行くなんて。」
「嫌ですわね。」
ズバッと真顔で、かつド正面から断られた俺は、思わず心にダメージをくらい、うっとよろめく。
「ですよね〜。ごめんなさい…。」
やっぱり無理じゃんと心の中で泣いていると、クスクスと笑い声が聞こえてきて、ちらっと小百合さんの方を見る。
「冗談ですわ。ご一緒しても構いませんわよ。」
「えっ!?本当に!!??」
まさか本当に来てくれるなんて、思ってもみなかった。驚いている俺に、但し、と付け加えられる。
「勘違いなさらないでくださいね。これは、この前の非礼のお詫びですから。」
「は、はぁ〜い。」
しっかりと釘を刺されてしまった。
だけど、来てくれるだけでもありがたい。
しかし、大きな問題は残ったままだ。
「あの、誘っておいてなんですが、冬悟が来てくれるかどうかは、まだわからないです。あんまり行きたくないみたいなんで。」
申し訳なさそうにそう言うと、小百合さんは驚いたような顔をした。
「あら?本当にそう思ってらっしゃるの?」
「えっ?」
間抜けな顔をしてしまい、クスッと悪戯に笑われる。
「純也さんもまだまだですわね。」
「?」
「そのうちきっと、おわかりになられますわ。」
そう言った小百合さんは、それ以上を教えてくれることはなく、ただ優しくニコッと微笑んだ。
小百合さんも無事に誘えたし、残すは冬悟だけとなった。浩二も小百合さんも、当然冬悟は来るみたいに思っているが、冬悟は本当に行きたくないのかもしれない。
もしそうなら2人に謝って、3人で行こうなどと考えていると、カチャと玄関の扉が開いた。
昨日の今日のため、遠慮がちに顔をそっと覗かせる。
「おかえり、冬悟。」
「…あぁ。」
返事はしてくれる。だけど、やっぱり気まずい。この感じだと、答えは昨日と同じなんじゃないかと思い、話をなかなか切り出せない。
「純也。」
突然名前を呼ばれ、パッと顔を上げる。すると、何やら紙袋を押し付けられた。
何だろうと中身を見ると、それは以前、俺が冬悟と買い物をしていた時に、食べたいと思って見ていたお高いフルーツタルトだった。
その時も、欲しいのかと聞かれたが、買ってもらってばかりも悪いと思い、断ったものだった。
思わず、冬悟の顔を見る。
「えっ?これ…。」
「…昨日は悪かった。浩二クンと行くのが、お前が楽しめる最善だと思ったんだが、結果、お前を傷つけてしまったようだ。」
伏せられた瞳にかかる長い睫毛が、僅かに揺れる。
冬悟のその表情と、俺のことをちゃんと見ててくれていたこと、そして、それをずっと覚えていてくれたことに、キュンと胸がときめき、じわっと心が温かくなっていく。
「俺もごめん。でも、俺の気持ちをわかってもらえなくて、悲しかった。」
紙袋を机に置いて、そっと手を伸ばし、冬悟の首に腕を回す。
「俺は浩二じゃなくて、冬悟と楽しみを共有してえの。俺らはああいうテーマパークは初めて同士かもしれねぇけど、冬悟と一緒なら、俺は何でも楽しめる自信しかねぇよ?だから、一緒に行こ?お願い。」
ギュッとそのまましがみつくと、優しく抱き締め返してくれた。
「…わかった。」
「やった!嬉しい!!」
へへっと笑い、じっと冬悟を見つめる。そして、そっと顔を近づけ、唇が触れようとする寸前で、ピタッと動きを止めた。
こんな時に限って、すごく大事なことを思い出してしまったのだ。
「あのさ、言い忘れてたんだけど、その、4人で行くことになったから。俺と冬悟と、浩二と、それに小百合さんの…。」
「…おい、どうして1日も経たない内にそんなに人数が増えているんだ?…それはいいとして、どうして小百合さんが来ることになっている?」
さっきの雰囲気は何処へやら、途端に不機嫌そうにピクッと顔を顰められる。そして、しがみついている俺をべりっと剥がした。
さっさとキスしておけばよかったと後悔したが、もう遅い。
「え〜っと、その、かくかくしかじかで…。」
事の経緯を説明すると、はあぁっと長い溜息を吐かれ、頭を抱えられた。
「…わかった。もういい、好きにしろ。」
「勝手に決めてごめん。でも、俺、冬悟と行きたいのは、本当で…!」
やっぱり行かないと言われるんじゃないかと不安になり、必死に引き留めようとする俺の頬に、そっと大きな手が触れる。
「…別に悪いとは言っていない。それに、だから行かないとも言わんから、そんな顔をするな。」
ほっとしてコクッと頷くと、その手はゆっくりと頬を撫でた。
「後はお前達で適当に決めろ。」
それだけを言い残して、冬悟はスタスタと俺から離れていった。
もしかして、冬悟は行くなら俺と2人で行きたかったのか?
少し罪悪感を覚えるが、それよりも一緒に行けるのがただただ嬉しい。
絶対に冬悟を楽しませてみせる。
そう心に誓って、早くその日が来ないかと待ち焦がれ続けた。




