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day.1

ご覧いただきありがとうございます

本作品は、冷徹御曹司×貧乏大学生の契約結婚からはじまる日常系成長BL小説となります

男同士の結婚も、普通な世界線の話です

よろしければ、ぜひご一読くださいませ

よろしくお願いいたします!

今日初めて会った男に、何故か結婚の申し込みをされている。


「俺が死んだら、遺産の全てをお前に渡すと誓おう。だから、俺と結婚してもらえないか?」


「喜んで!」


そして、目の前に吊るされた、金目の物に目が眩み、即答してしまう俺。


たった今、結婚の約束を交わした俺達は、いわば交際0日婚である。

果たして、無事に結婚生活を送ることができるのだろうか―。



時は遡り、今朝。

俺、瀧本 純也は、現在21歳の大学3年生だ。毎日バイトに勤しみ、お金を稼ぐのが趣味である。


「さて、今日も一日働きますか。」


土日祝日は稼ぎ時である。

日曜日の今日も、もちろん、一日中バイトをする予定だ。


早速、今日のバイト先に向かう。

今日は確か、喫茶店と居酒屋だったな。

両方ともホールだし、余裕っしょ。

なんて、その時は思っていたのだが。


ガチャン!!

喫茶店でのバイト中、コーヒーを運んでいる際に躓いてしまい、なんと、高級そうなスーツを着た若い男性に、コーヒーをぶち撒けてしまったのだ。


「ギャー!!すみません!!ヤケドしてないですか!?」


「…大丈夫だ。」


持ってきたタオルで拭こうとするも、自分でやると拒否られた。


大したことではなさそうにして、適当に水分だけを拭いている、その男のワイシャツやスーツのコーヒーのシミは、簡単に取れる筈もなく。

俯きながら、それらのシミに目を落とす。


「本当にごめんなさい。俺、弁償」


「必要ない。大丈夫だと言っている。」


一切こちらを見ることもなく、まるで、これ以上関わるなとでも言わんばかりに、ピシャリと突き放されるような言い方をされた。

だけど、はいそうですかと引き下がるには、あまりにも汚れてしまっており、申し訳なさすぎる。


「でも…。あっ!」


確か、近くのホテルにランドリーサービスがあったような。


「ちょっと、こっちに来てください!」


グイっとその男の腕を強引に引っ張り、店を出て、そのホテルに向かう。


「おいっ、待て。どこに行く気だ?」


男の制止を無視して、無理やりそこに連れていき、部屋を取って、室内に入った。


「ここは…。」


「さ、シャワーあるから、入って。その間に服をランドリーサービスに持って行くんで。」


俺より長身で、大きな背中をシャワー室に向かってグイグイ押すと、男ははぁっと盛大に溜息を吐いたが、大人しく向かってくれた。


ザアアッと水音が聞こえてきたタイミングで、服を取りに行く。


手に取ったスーツのブランドを、興味本位で確認した瞬間、恐れ慄いた。

ブ、ブリオーヌだと!!??

こんなお高いスーツを着ているなんて、一体コイツは何者なんだ?


ただ、こんなの、俺の給料じゃいつまで経っても弁償できねぇよ……。

見るんじゃなかったと後悔しつつ、スーツとシャツを抱え直すと、ハラリと何かが床に落ちた。


ん?何だ?紙…?

拾うとそれは、名刺だった。

“SUWA Holdings Corp. 代表取締役 諏訪 冬悟”との記載がある。


諏訪ホールディングスカンパニーだって!?

超一流大企業の、しかも社長じゃねーか!

マジかよ。

ってことは、あの男、あの世界のSUWA社んとこの御曹司ってことか!

なんつーこった!?


っていってる場合じゃねぇ!

もうすぐシャワー室から出てきちまう。


俺は名刺を自分のポケットにねじ込み、急いで服をランドリーサービスへと持って行った。


部屋に戻ると同時に、諏訪がシャワー室から出てきた。

その男は、短めの綺麗な黒髪に、一重で切れ長の目をして、端正な顔立ちをしている。

よく見たら、俺好みの顔だ。

そして、バスローブから覗く胸板は厚く、見た目は細身なのに、意外と体格のいい男だった。

何だか大人の色気を感じてしまい、あまりじろじろ見てはいけないような気がして、サッと目線を逸らす。


「今、服をランドリーサービスに回したんで。急ぎでって頼んだけど、ごめんなさい、3時間はかかるそうです。」


「3時間か…ふむ。」


諏訪は数秒考え込み、鞄からスマホを取り出すと、どこかに電話をし始めた。


「…俺だ。今トラブルに巻き込まれていてな。いや、大丈夫だ。午後からの予定を全てキャンセルしておいてくれ。だが、7時からの会合には出席する。頼んだぞ。」


どうやら、俺はこの人の予定を台無しにしてしまったらしい。

諏訪のところにそろっと近づき、バッと頭を下げた。


「本っっ当にごめんなさい!」


「…もういい。それより、お前はシャワーを浴びないのか?」


「へ?何で?」


質問の意図がわからず、思わず顔を上げる。すると、冷たい視線が俺を見据えていた。


「ここはそういうホテルなんじゃないのか?」


そうだ、ここはビジネスホテルではない。

…ラブホだ。


「………お兄さん、俺とそういうこと、したいんだ?」


「お前のせいで、3時間も棒に振ることになったからな。暇潰しにはなるかもしれん。」


今、コイツしれっと失礼なことを言ってのけやがった。

正直、俺に関心があるとは全く思えない。

それに、暇潰しでなんて、抱かれたくはない。


だが、相手は超一流企業の御曹司だ。

繋がって損はないかもだし、上手くいけば、“ゆすれる”かもしれない。


「いいよ、遊んでも。但し、条件がある。」


「…何だ?言ってみろ。」


表情が読み取れず、何を考えているのかさっぱりわからない男相手に、ゴクリと息を呑み、交渉を始める。


「俺は今回の弁償はしない。そして、スーツのクリーニング代とここのホテル代全部、アンタ持ち。どう?」


「わかった。」


即答で返事をされ驚いたが、ニヤッと笑う。


「じゃ、交渉成立ということで。ちょっと待ってろ。」


くるっと踵を返し、シャワー室へ向かった。


シャワーを浴びて出ると、諏訪が部屋の真ん中にある大きなベッドに座っていた。

そこに、バスローブ姿でそっと近づく。

ギシッとベッドが軋んだ。


「待たせたな。いつでもどーぞ。」


無機質な瞳で見られたかと思ったら、グッと押し倒される。

そのまま、俺達はただの獣のように、一切愛の無い交わりをしたー。


きっちり3時間後、漸く俺は解放された。

クソッ、腰が痛くて動けない。

ただ、最中に一度もキスもされなければ、甘い言葉も囁かれなかったのは、今回が初めてだ。

それに、終わった瞬間、俺に目もくれることなく、さっさとシャワー室に消えていきやがった。


行為中も表情を全く変えなかったアイツはきっと、俺に興味はないのだろう。


だが、残念なことに、体の相性はすっげぇよかった。

久しぶりに気持ちよかったのが、余計に癪に障る。


そんなことを考えていると、涼しい顔をしてシャワー室から出てきた諏訪が、ベッドに腰掛けた。


「…お前、名前は?」


「純也。お兄さんは?」


まぁ、既に知っているけど。

一応聞いておく。


「お前が持っている名刺の通りだ。」


何で名刺を持っていることがバレたんだ!?だが、知られている以上、隠す必要はない。


「諏訪さん、ね。ところで、俺の名前なんて聞いてどうするのさ?」


一夜限りの相手の名前なんて、聞いたところですぐに忘れるだけなのに。

すると、相変わらず感情の読めない目が、チラッとこちらを見る。


「…純也、といったな。俺の嫁にならないか?」


「………は?」


一体、今何て言ったんだ―?





突然、目の前の男に、嫁にならないかと勧誘された。


「………………はい?」


だが、何を言われたのか全く理解できなかった俺は、再度聞き直す。

すると、ふうっと溜息を吐かれた。


「2度も言わせるな。俺の嫁にならないか、と聞いている。」


まさか言語が通じないわけではないよな?という視線を投げつけられたが、この時ばかりは、できれば通じたくなかった。


「いやいや、俺達今日会ったばっかだぜ?さすがに嫁とか冗談キツい」


「毎月の小遣いとして50万渡すと言っても?」


提示されたその金額に、ピクッと耳が動いた。

バッと諏訪を見る。


「他に条件は?」


「毎月小遣い50万、もし契約中に俺が死ねば、遺産は全部お前のもの。但し、俺の家で一緒に住んでもらうこと、俺が望む時に抱かせること、どれだけの金額を積まれても、他の奴には抱かれないこと、俺の事に干渉しないこと……以上が条件だ。」


…変な条件が2つ程あるが、1つはまぁいいだろう。

だがもう1つは抗議させてもらう。


「今言った条件の内、1つは飲めないね。アンタの望む時に好きなだけっていうのは、無理。俺にも人権があるんでね。最低でも2週間に1回なら付き合ってやる。」


「ならば、最低でも1週間に1回なら?」


コイツ無表情で性欲薄そうな見た目なのに、強過ぎだろ!

言う通りにしてたら、俺の尻が爆破してたところだ。


「2週間に1回。これ以上は譲らねぇ。」


俺が折れないとみた諏訪は、はあっと溜息を吐いた。


「…いいだろう。」


よし、何とか尻を守ることができたと、ほっと胸を撫で下ろす。


あとは、問題の遺産の額だ。


「ちなみに、遺産っていくらぐらいになんの?」


「10億はくだらんな。」


じゅ、10億だと!!??

きっと俺が生涯必死に働いても、手にすることの無い金額だろう。


「提示された条件以外は、何してもいいんだよな?」


「あぁ。それ以外は自由だ。好きにしろ。」


ギュッと強く拳を握る。


「………わかった。俺、アンタの嫁になる。」


真っ直ぐに諏訪を見つめる。

しかし、表情を全く変えない諏訪は、静かに頷いただけだった。


「では、改めて。俺が死んだら、遺産の全てをお前に渡すと誓おう。だから、俺と結婚してもらえないか?」


「喜んで!」


すると諏訪は、鞄から何やら紙を2枚取り出した。

渡されたその紙は、婚姻届と離婚届だった。

離婚届には、既に署名がされている。


「明日お前の家まで迎えに行く。それまでに書いておけ。それと、嫌になったらいつでも契約破棄してくれて構わない。但し、契約破棄した場合は、お前の報酬は0だ。」


つまり、離婚届を勝手に書いて提出してもいいけど、遺産はおろか、財産分与もないってことか。


いつの間にか部屋に届いていたスーツを着て、スタスタと部屋を出ていこうとした諏訪が、ドアの前でピタッと足を止めた。


「…そうだ、もう1つ、重要な条件を言い忘れていた。俺から離婚を切り出したら、お前は離婚に応じること。但し、その際のお前の報酬も0だ。」


「は、はぁ〜!!??アンタ、その後出しはズリぃだろ!?」


だが、諏訪は俺の抗議には一切耳を傾けず、それだけ言い残すと、バタンと部屋を出ていってしまった。


「完っっ全に早まっちまったよ、俺……。」


その後ろ姿をぽかんと見送った後、ボフッともう一度ベッドに倒れ込んだ。


勢いで承諾してしまったが、あの無神経な男と仲良くなれる気がしない。

明日から突然の結婚生活が始まるが、不安しか存在しなかった。

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