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第7話 わからせ隊

 場内は緊迫した空気に包まれていた。

 領主の息子の横暴は最高潮に達し、村人たちは恐怖で硬直している。

 世奈の胸の奥に溜まったものが、限界を超えた瞬間、首飾りの宝石が赤く激しく光り始めた。


『わからせ隊の発動条件を満たしました』


 他の人の目に見えない文字が世奈の視界に浮かぶ。

 息を整え、心を決めた瞬間、胸から黒い霧が吹き出した。

 霧は瞬く間に酒場内を、そして外の広場まで埋め尽くす。


「何……!? これは……!」


 私兵や村人、そして息子は視界を奪われ、驚きに声を上げる。

 霧の中、次第に形が現れる。黒色の甲冑に、黒色の盾と剣を携えた騎士団数は領主の息子と私兵のちょうど2倍。騎士たちは静かに立ち、世奈に視線を向け、指示を待つ。

 世奈は声を震わせず、力強く指示を出した。


「村人を守って。そして、領主の息子と取り巻きに罪を思い知らせて。ただし、絶対に殺さないこと」


 黒騎士たちは頷き、俊敏に動き始めた。半数は村人の安全確保と酒場周辺の警備。

 残りの半数が、息子と私兵たちに向かって突進する。私兵たちは剣を抜き、黒騎士たちに斬りかかる。

だが、黒騎士の鎧は硬く、剣は弾かれ、折れるものもあった。


「ぐっ……!?」

と私兵たちは怯む。


黒騎士たちは指示通り剣は抜かず、盾と拳で戦う。

拳と盾による打撃が容赦なく私兵たちに加えられ、

息子は恐怖と痛みで身をよじる。


「がっ……」

「ぐぇ……」


立っていられなくなり、倒れてもまだ殴り続ける。


「僕が誰だかっ……ぎゃ……!?」


 息子の声は叫びにも似て、酒場中に響き渡る。

 黒騎士たちは休むことなく、延々と拳と盾で攻撃を続ける。

 領主の息子も殴られ顔を腫らし、見るも無残な姿になっても、また打たれる。


「もう……やめ……」

「うっ……」


 全員が痙攣し、やがて動けなくなるまで続いた。

 やがて黒騎士たちは任務を終え、静かに霧とともに消えていった。

 酒場内は混乱と静寂が交錯する。倒れた領主の息子と私兵たちを前に、村人たちは言葉を失った。


「どう……どうすれば……」

「こんなことをしてしまった……」


 泣き叫ぶ村人もおり、場は戦慄と混乱に包まれる。

 その時、酒場の入り口に、豪奢なマントを羽織った壮年の男が現れた。

 彼の背後には忠実な騎士たちが控えている。


「……これは……」


 世奈の視線が領主に向く。話をきくと、この地域の領主は、以前から息子の暴挙の噂を耳にしていたが、実態を掴めずにいた。今回、この村に寄ることを耳にして、確認のために来たという。そして今回の光景がその証拠となる。


「育て方を誤ったようだな……このままでは他の領地にも迷惑をかける。今回を機に、教育のために他所で1から学ばせることにする」


領主は村人たちに向かって深く頭を下げる。

そして、世奈に感謝の言葉を述べる。


「このたびは、村を守ってくれて感謝する。君の力には驚いたよ。もしよければ、この件について、話を聞かせてもらえないか? 領主の館に来てもらえると助かる」


世奈は少し微笑む。

首飾りの赤い光は静かに消え、胸の奥に温かい余韻を残す。


──理不尽を止めることができた……


でも、これが全てじゃない。

この世界で、私はもっと強くならなければならない。

村人たちの感謝と驚きの視線の中、世奈は深呼吸をし、領主の館へ向かう決意を固めた。




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