第5話 街での取引
秋の陽が高く昇るある日、世奈は酒場で相談を受けていた。
そこへ、村の代表である初老の男性が駆け寄ってきた。
「世奈ちゃん、ちょっとお願いがあるんだ。街に収穫物を下ろす用事があってな、ここのところトラブルが多くて困っているんだ。世奈ちゃんに同席してもらえないか?」
世奈は首をかしげる。
──収穫物の取引まで私が関わっていいのかな……でも、村のためだしなぁ。
「いいよ、同行する。半日くらいかかるんでしょ?」
「そうだ、助かるよ」
こうして世奈は、村の代表と共に馬車に収穫物を積み込む。
馬車には野菜や穀物、少しの果物がぎっしりと詰め込まれていた。
世奈は窓の外を眺めながら、前世のOL時代を思い出す。
──クレーム対応で培った経験が、こうして異世界でも役立つとはねぇ……
馬車は小道を進み、午後には街の入口に到着した。
街には賑やかな市場が広がり、商人たちが活発に物を売り買いしている。
世奈は代表と共に、商品の取引を行う商人の元へ向かった。
「今回もよろしく頼む」
と代表。
しかし、商人は一つ一つの商品を手に取り、けちをつけ始めた。
「これ、ちょっと傷んでいるんじゃないか? この野菜も鮮度が怪しいな……」
世奈は眉をひそめる。
──ああ、またこういう奴か。前世でも似たような奴、腐るほどいたな。
「ちょっと待ってください」
と世奈が前に出る。
「傷んでいない物まで買いたたこうとするのはどういうつもりですか?」
商人はそしらぬ顔で、言い放つ。
「適正価格ってのがあってなぁ。文句があるなら他所で交渉したらどうだ?」
「そんな言い方しているけどさ、そうやって村々から悪評が出て困るのは商人さん自身じゃないの?結果誰もおろしてくれなくなったら、今の仕事だって大変になるじゃない。」
「なんだぁ?小娘が!何もわからないやつが偉そうに語ってるんじゃないよ!私に買い取ってほしいって思っている人間は山ほどいるんだ。この村ごと取引中止にして潰してやってもいいんだぞ!」
世奈は目を細め、首飾りの宝石を見つめる。黄色く光るゲージ。
心の中で静かに呟く。
「本当、疲れる。あんたみたいなやつ」
瞬間、スキル「強制共感」が発動。
商人の視界に、自分の商品の在庫がなくなり、何も市場に流せなくなって廃業した店が見える。
「えっ……な、何だこれ……!」
商人は驚き、思わず腰を抜かす。
幻覚の中で、なんとか村々に交渉して、品物を下ろしてもらおうとするも、村人から襲われ、袋叩きにされて、村の外に追い出される。
もちろん現実では無事だが、心理的には十分すぎる衝撃だ。
「ぐっ……」
幻覚が消えると、商人は青ざめた顔で世奈に頭を下げた。
「……失礼しました。今回の商品はそのまま受け取ります。値段も正当な額で支払います」
代表は安心し、世奈に向かって微笑む。
「世奈ちゃん、さすがだ……おかげで村の収穫物は、今年一番の売値になったぞ」
内緒という事でお礼に売上の一部をくれる村の代表者。
世奈も小さくお礼を言う。
──やっぱり理不尽は許せない。だからこそ、なんとかしたい。
帰路、馬車の中で世奈は無事に終わり、安堵の表情を浮かべる。
代表は横で満足そうに頷く。
「世奈ちゃんがいてくれると、街へのおろしも安心だな」
世奈は窓の外に流れる景色を見ながら、心の中で微笑む。
──私の力で人を助かっている人たちがいる、今はまぁ十分かなぁ。
馬車は村へと戻り、収穫物と交換した通貨を分配する。
村人たちは世奈の手腕をさらに頼りにし、評判はますます広がっていった。




