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第2話 村の酒場

 馬車に揺られながら、世奈は窓の外をぼんやり眺めていた。

森を抜け、村が見えてくる。夕暮れの橙色の光が小さな建物を柔らかく染めていた。


──さて、まず何をしよう。


 首飾りの宝石は青く揺れ、微かに温かさを伝えてくれる。前世での絶望と怒りは消えず、むしろ「理不尽を正す力を得た」喜びが胸を満たしていた。

 しかし、この世界では通貨の流通や生活様式が分からない。まずは情報を集める必要がある。


「……村人が集まる場所はどこだろう」


 御者に軽く尋ねると、村人たちは酒場や広場に集まることが多いらしい。世奈は馬車を降り、足早に酒場へ向かった。

 酒場の前に差し掛かると、中から大きな笑い声と怒声が混ざった音が聞こえた。

 扉を開けると、そこには酔っ払いが店員に絡んでいる光景があった。


「おい、酒が足りねぇぞ!」

「お、お客様……」


 店員は困惑した表情で、必死に対応している。

 世奈は思わず目を細める。


「んー、本当に異世界なのかなぁ、ここ。前の世界と変わらない光景だわ」


 でも一つだけ違うのは


──自分はもう、耐えるだけの存在じゃない。


「まぁ、せっかくだから、助けてあげよう」


 ずかずかと歩き、酔っ払いと店員の間に立つ。


「その辺にしませんかぁー?酔い過ぎですよ!この子困ってます。なんでも程々が一番ですよ」


と、声を張る。内心で、世奈は思う。


──うーん、前世ではできなかったことをやっちゃってる私、すごいなぁ。


 酔っ払いは、一瞬世奈を睨みつけた。

 そして、手元にあった水を勢いよく世奈に引っかける。


「きゃっ!」


 世奈は驚き、思わず一歩後ずさる。店員が心配そうに駆け寄る。

 胸の中で黒いざわつきが広がる。


──このおっさん、まさか水までかけてくるなんて。信じられない。酔っていれば許されると思ってんの?


 その瞬間、世奈の視界に文字が浮かんだ。


──だよね、限度こえてんだよ、あんた


 首飾りの宝石が黄色く光り、スキル「強制共感」が発動する。


 瞬間、酔っ払いの頭の中に映し出されたのは、店員たちが大きな酒樽の中に彼を入れ、溺れさせようとしている光景。

 もちろん幻覚だ。誰も実際に手を出しておらず、窒息もしない。だが、酔っ払いには生々しい恐怖として刻まれる。

「ごぼぼっ!やめてくれ……息……苦しいっ!」

 酔っ払いは必死に手足をばたつかせ、声を上げる。世奈は冷静に、ただ見つめるだけ。


 数分後、幻覚は消え、赤ら顔で怯えた酔っ払いがそこに立っていた。

「え?あの……」


 世奈は落ち着いた声で言う。


「酔って気持ちよくなりたいのは分かるけど、そこまで飲むなら自宅にしなよ。若い子に迷惑かけて生きてる姿ダサいよ。それにあなたが謝らないといけないのは、こっちの店員さんだよ」


 世奈は店員を軽く引き寄せ、酔っ払いの前に立たせる。


「あの……店員さん、すみませんでした……」


 店員は笑顔で答える。


「次は、ほどほどにしてくださいね」


──すごいなぁ、あんなに嫌がってたのに、プロ根性あるなぁ。


 酔っ払いは居心地が悪くなったのか、食事代と迷惑料を置き、帰っていった。

 世奈は迷惑料を店員に渡そうとしたが、店員は首を振る。


「助けてもらったので、受け取ってください。それとお礼に何かご馳走しますねぇ」


 カウンターに案内される。そこには酒場の店主がいた。


「さっきはありがとな、お嬢さん」


 店主が軽食と飲み物を置いてくれる。世奈は興味深く聞いた。


「なんで抵抗しないの?」


 店主は苦い顔で答える。


「お嬢さんは他所から来た人みたいだね。この地域では『お客様第一』というルールがあってなぁ、金を払う客には、強く言えないんだ」


 なるほど、この世界でも、つけあがる客が多いらしい。


 もし、そういう相手を対象に仕事ができれば……やりがいがありそうだと、世奈は考えた。


「マスター、さっきみたいなやつが来た時になんとかしてくれる人がいたら、嬉しい?」

「そりゃ助かるさ。客同士の揉め事ならルールは適用されないしな。」


 世奈は提案する。

「今行く宛てなくてさ、しばらくこの辺で仕事探そうと思ってるんだ。なんかあったら言ってよ。かけつけるからさ」


 マスターは微笑み、うなずく。

「じゃあ、うちの2階が宿になっているからしばらく寝泊りしていくといい。その代わり何かあったら呼ぶけど、いいか?」

「え?いいの!?呼ばれる呼ばれるーっ!」


 世奈は嬉しそうに笑い、快諾した。

 これで異世界での生活の足掛かりもでき、村での仕事もスタートできる。

 世奈の胸は希望と決意で満たされていた。


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