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ノースヨーク学校

獣人族の俺が異種族の彼女に落ちるまで

作者: piyo

後半にいちゃいちゃします。苦手な方はバックでお願いします。


この日の俺は完全にやらかしてしまっていた。



上級生から売られた喧嘩を買って、まさかこれほど魔力を消費する事態に陥るなんて思ってもみなかった。


「チッ…!」


魔力消費を少しでも抑えようと獣化する。そうでなくとも人型を保つことができ無くなっていたので、獣化するのは時間の問題だったのだが。


魔力が身体から抜けぐったりとしていたそのとき、よりによって今一番見つかりたくない人物に出会(でくわ)してしまった。



「え、雪豹?」



クラスメートのジュラ・ザカリアスが、驚いた様子で悪魔族特有の血のように真っ赤な瞳をこちらに向けていた。





俺の名前はヨル・ランビル。異種族が混雑するノースヨーク学校の二年生だ。


この学校は多様性を売りにしており、獣人族、悪魔族、小人族、妖精族、そして人間族の生徒が共に学び、互いに切磋琢磨している。


個人差はあるものの、各種族それぞれ長けた特徴をもっており、例えば妖精族や悪魔族は他の種族よりも魔法が得意だ。小人族は手先が器用な者が多い。獣人族は身体能力に長け、特に雄は好戦的なものが多く、人間族は他の種族に比べ特化した所は無いものの、オールラウンダーな種族とされていた。


俺は豹の獣人族で、その特性の通り、戦うことが大好きだ。同じクラスの虎の獣人グエン・イエルも俺と同様に戦いが好きで、暇さえあれば授業外の時間は二人で共闘し、喧嘩や戦闘に明け暮れていた。


だが、最近になって、その俺の一番の親友であり、喧嘩仲間であるグエンに彼女ができてしまった。しかも、入学当初から想いを寄せていた、クラス、いや下手したら学校でもトップクラスに強いルル・クーガーとである。


前々からグエンが彼女に好意を持っていたのは知っていた。けれども、不器用なアイツは話しかけることも出来ず、遠くから見つめるという何とも乙女なことをずっとしていた。それが突然、この間の文化祭の後で告白し、めでたく付き合うことになったらしい。


グエンの片思いはクラスの皆が知ってたので、二人が付き合うと聞いたときは、それはもう盛り上がった。

俺も親友の想いが実って喜んだのだが、一つ大きな誤算があった。


それが毎日の喧嘩だ。


俺が所属しているクラスは士官候補コースなので、双方の同意ありの戦闘に関しては学校内で容認されていた。もちろん殺し合いなんてものは御法度なので、一定の線を越えたところで教師陣による制裁が発動し強制終了となる。言い換えると、相手を殺してしまう三歩手前くらいまでなら、心置きなく戦えるのだ。


俺とグエンは休憩時間の度に誰かしら戦いをふっかけたり、逆にふっかけられたりし、戦闘という名の遊びを楽しんでいた。


それなのに、グエンがクーガーと付き合い出してからというもの、共闘する頻度がめっきり減ってしまった。奴は彼女といちゃつくために(誤解が無いように言っておくが、あそこのカップルのいちゃつくは「拳で」である)、三回に一回の頻度でしか俺と一緒に戦ってくれなくなってしまったのだ。


俺はソロでも十分強いと自信を持っているが、多対一ののときは手こずるし、疲れるし、勝率も落ちる。だからと言って付き合い立てのグエンたちカップルの邪魔はしたくない。戦いを断るなんてことも、自分にとって有り得ない選択肢だった。


そしてこの日も、授業終わりに獣人族三人と悪魔族一人の上級生から喧嘩を吹っ掛けられたのだが、例の如くグエンが彼女と出掛けてしまったため、一人で相手をすることになってしまった。


はっきり言って、獣人族と悪魔族のタッグというのは最悪だ。獣人からの物理攻撃と悪魔からの攻撃魔法、さらに補助魔法の応酬が来るのが目に見えている。出来れば避けたい組み合わせナンバー1である。


案の定、悪魔族の奴が仲間の獣人族たち三人に身体強化の魔法を施し、且つ、俺にスピードダウンの魔法を仕掛けてきやがった。

スピードダウンの状態異常は複数戦に於いては命取りである。俺は獣人族には珍しく魔法が使えるので、攻防を繰り返しつつ状態異常の解除を試みた。

が、使えることと得意なことは別。こっちが慣れない魔法に持たついてる間にも、向こうの攻撃は待ったナシ。やっと解除できたときには魔力をごっそりと持って行かれ、身体強化に回せる余裕が無くなってしまっていた。



結果として、抵抗空しくボッコボコにやられてしまった。それはもう、教師陣の制裁が発動するくらい、見事な形で惨敗した。





戦いが終わり上級生たちが去った後、ボロボロの身体に治癒を施そうとするが、魔力不足で何も起きない。


いつもなら小人族の友人の元へ行き、治して貰うところだが、今の時間、帰路についていることだろう。そして満身創痍のこの身体は、ここから一歩も動くことが出来そうにない。


(…ヤバいな、死ぬな。これ。)


目の前が白くチカチカする。魔力切れのサインだ。


普通の獣人であれば、その肉体は頑丈で回復力も早い。けれども、俺はハーフで生まれ、半分しか獣人の血が流れてないので肉体の回復は穏やかだ。

それに加え、通常獣人というのは人型がデフォルトなのだが、俺の場合は逆で、獣化状態がデフォルトの姿で、魔力を使わないと人型を維持できないという、厄介な体質を持っていた。


仕方なく人型を解いて幼獣の雪豹へと獣化する。血に塗れた白い毛並みの前足が、おかしな方向に曲がっていた。


(誰でもいい、誰か、気づいてくれ。)


フー、フー、と荒い息をしつつ、グルルと唸り声が漏れ出る。意識を失いそうだ、と思った矢先、羽ばたきの音を耳が捉えた。


「え、雪豹?」という女の声がする。

声のした方へと眼だけ動かすと、クラスメートのジュラ・ザカリアスが黒い羽根をバサバサと羽ばたかせこちらを見下ろしていた。彼女は驚いた様子でこちらを向いており、悪魔族特有の、血のような真っ赤な瞳と俺の視線とが重なった。


(…誰でもいいと思っていたが、出来れば彼女以外が良かった。)


悪魔族であるザカリアスは、その種族の特性の例に漏れず好奇心旺盛で悪戯好きである。


クラスの誰かが彼女の悪戯の餌食になっているところをよく見かける。かく言う俺も数回やられたことがある。机の中から暗黒コウモリが毒牙をチラつかせながら飛び出てきたときは、心臓が止まるかと思うくらい驚いたものだ。


今の俺は手負いで獣化した状態。こんなの、彼女の格好の餌食(いいおもちゃ)になるに決まっている。


「豹に見えるけど…幼獣だから、ヤマネコサイズなのかな?ちっさ。」


ザカリアスは地面に足を下ろし、一人呟きながらこちらにゆっくりと近付いてくる。


「うわー…近くで見ると傷口エグいね。痛そう〜…キレイな白い毛並みが真っ赤じゃん。」


悲痛な声とともに、俺の身体まで手を伸ばしてきた。怪我に触れられると思い、咄嗟に唸り声を大きくし威嚇する。

本音では助けて欲しいのだが、人に警戒してしまうのは、獣としての本能だった。


「ああ、ごめん、触られたら痛いもんね。」

そう言って彼女は手を引っ込め、自身の顎に手を持っていき考える様子を見せる。


「どうしようか…タンカみたいにして運べばいいかな?でも身体を乗せるときに触れることになるか。いっそ棒で転がして保健室まで連れてけばいいのかな?」


恐ろしいことを口にするものだ。

想像することすらやめて欲しい。恐らく骨が複数やられてるから、一転がりするだけで昇天できる気がする。


「なーんてね。やってみたいけど、人としてダメな気がするわ、動物虐待は趣味じゃないし。いざというときのために保健室から傷薬かっぱらっておいて良かった〜まさかこんなところで役立つなんてね。」


予想外にも、普通に傷薬を使って助けてくれるらしい。

かっぱらってきた下りは聞かなかったことにしよう。


「痛いだろうけど、我慢してね。あと、私のことを噛んだりしたら、三倍返しにするから覚えておいて。キヒヒ」


最後の言葉は恐らく本気だ…どれだけ傷に染みようとも、何が何でも噛まないようにしなければ。恐らく別の理由で命を落とすことになるだろう。


彼女は俺の一番痛む前足から順に薬を塗り込んでいく。めちゃくちゃ痛いが、手付きは優しい。

外傷部分の疼くような痛みが引いていき、幾分呼吸も楽になってきた。


「よし、こんなもんでいいか。でもどうやって運ぶ問題が解決してないなー。人を呼びに行きたいけど、その間に他の楽しいことを見つけちゃったら、呼びに行ってることを忘れそうだしな…」


どれだけ注意力散漫なんだ。放置されたくないので、どうか人を呼びに行かないで欲しいと目で訴えかける。その視線を察したのか、彼女がこちらに質問をしてきた。


「ねえ、君って喋れるの?何年何組の子?」


は?


コイツ、獣化した俺をクラスメートだとすら認識していなかったのか。


獣化したときは人語を操るよう魔法を使うのだが、今はそれも出来そうもない。首をゆっくりと横に振る。


「んーそっか。あ、もしかして魔力切れ?私の友達の彼が獣人なんだけど、獣化したときは魔力が無いと喋れ無いって言ってた。」


恐らくその友達はルル・クーガーで、彼氏というのはグエンのことなんだろう。獣人が獣化した際、人語を喋れることができるのは魔力を持った者に限られる。純血の獣人であれば、全く魔力を持たない者も多いので、そういった者は獣化した際、人語は理解できるが、話すことは出来ない。俺やグエンは家系に別の種族が混じっているため、魔力持ちであり獣化の際も人語を喋る事ができた。


ザカリアスの言葉に、うんうんと首を縦に振る。魔力切れだから、今は喋れないのだ。逆を言うと、魔力が回復したら喋れる。


「おけおけ。私魔力は有り余るくらい持ってるんだ、ちょっと分けてあげるね。喋れたほうがお互い楽でしょ。お礼は〜そうだ、今度遊んでくれたら、でいいかな。」


分けてくれるのはありがたいのだが、今度遊ぶ、のところは素直に同意できない。きっとこちらが思い描くような言葉通りの「遊ぶ」では無く、「遊ばれる」未来が見えている。


「ちょっとだけ触れるよー。痛くないだろうから我慢してね。…噛まないでね?」


彼女は俺の身体の横に手をついて、額と額を合わせてくる。

「幼獣の毛だからフワフワに見えたけど、思ったより毛は硬いんだね。額がくすぐったい。」


毛の感触に感想を漏らしているが、自分の考えるポイントはそこではない。



顔が、とんでもなく近い。



家族でさえこんな触れ合いはしたことが無い。目を開けていると目の前いっぱいにザカリアスが見えてしまうので、無理矢理目を閉じる。


「お、きたきた。額が熱くなってきてるのがわかる?今、私の魔力流し込んでるからね。そっちの容量わかんないから、要らなくなったら教えてね。」


額がぽかぽかと温かい。額以外も熱くなっているのは、ザカリアスの顔が近すぎるからに違いない。閉じた目を薄く開き、彼女の顔をチラ見する。その顔立ちは、意外なほど整っていた。

悪戯な赤い目は挑発的で、鼻筋は綺麗に通っており、その先の口は化粧をしてないにも関わらず鮮やかな赤色をしている。

実際、ザカリアスは容姿に限って、クラスのなかでもトップ3に入るくらい可愛いと人気だったはず――悪戯好きが災いして、彼女にしたいというより、鑑賞用としてだけども。


額から入った魔力が徐々に全身を回っていく。ザカリアスの魔力は、なんていうか、本人の印象とは違って落ち着いた、どこか人を酔わせるような妖艶な色香を纏わせていた。


魔力の回復とともに、自動で身体の傷口も塞がっていく。

だが、



(…足りない)



流れ込んでくる魔力は、例えるなら、細い管から雫を垂らしているような量をゆっくりと流し込んできているような感覚だった。非常にもどかしい。もっと沢山の量を、一気に流し込みたい衝動に駆られる。

折れていたであろう前足が魔力の補充とともに回復しており、痛み無く動かせることに気付く。



そして、自身の獣としての欲求が弾けた。



「え」


自由に動かせるようになったのをいいことに、彼女の肩に前足を置いて、顔をべろんと舐める。


「うわ、舌ざらざらじゃん。おお、肉球に押されてる!それに獣臭が全然しないー!幼獣でもこうしてみると割と大きいんだね。」


ザカリアスは俺がとった全ての行為に対し、感想を漏らしてくる。彼女の声は、嫌がるよりも好奇心で満ちていた。拒絶しないことをいいことに、顔や身体を舐めていく。ザラザラだけど我慢して欲しい。


先ほどの額と額を合わせていたときよりも多くの魔力がこちらに移っていくのを感じる。

身体中が満たされていく感覚は中毒になりそうだった。


『もっとくれ』

やっと口から人の言葉が出てくれた。


「あ、喋った。ええ、この声からして、君って(オス)?キレイな雪豹だから、見た目で(メス)って思ってたわ。」


彼女は自分のこもをクラスメートと分からなかったばかりか、性別すら間違えて認識していたようだ。

なぜだか、その事が無性に腹立たしく感じる。



(なんだ、この苛立ち)



自分が雄だって、しっかりわからせてやりたい。そんな強い衝動に駆られ、獣の前足で彼女の胸の辺りを押し、全身を後ろに倒す。

今ここを通りかかった人がいるとしたら、小さな雪豹が女の子に襲いかかっているように見えるだろう。


「?どうしたの?」


ザカリアスは、俺の突然の行動に不思議そうな顔をする。


『口、開けて。』

「?」


素直に開けた唇とその奥を舐める。


「ザラザラだ!」


その感触が面白かったのか、キヒヒと笑う。

先ほどの二つよりも魔力の回復が段違いに早い。まだ彼女の魔力が欲しい、まるで麻薬だ。


『もう一回』

「ん、いいよ」


素直に受け入れてくれたので、再度口を寄せる。彼女にしてみれば、動物とじゃれあってるだけの認識なのだろう。


気付けば、胸に置いてた前足を彼女の指に絡め、身体は組み敷く形をとり、ざらつかない舌を彼女の口内へと侵入させていた。

何回か啄みを繰り返し、これ以上は不味いと必死で理性を呼び戻し、身体を離す。


魔力を奪われトロンとした目つきになっていた彼女だったが、目の前にいる自分を見て、彼女の目が驚愕に見開かれる。


「ちょ、ええ、うっそ、ヨルじゃん!!」


慌てて自分の下から退こうとするが、俺が体重を預けているせいで身動きが取れずあたふたする。


「あんた髪の毛真っ黒の癖に、なんで獣化したら雪豹なの?!ええっ、何してんの!重いから退いてよ!」


ザカリアスの指摘で気付いたが、いつの間にか人型に戻っていたようだ。

俺の髪の毛は人型では真っ黒な髪をしている。だから体毛が真っ白な雪豹と俺とが結びつかなかったのだろう。実は頭髪以外の体毛は全て白髪なので、獣化の際、雪豹になっても特段おかしくは無いのだが。


人型に戻れたので、とりあえず助けてもらったお礼をする。


「手当と、魔力をありがとう、助かった。死ぬかと思った。」

「それはどうも。てか退いてってば。」


彼女の抗議を無視して話を続ける。


「おまえの魔力、めちゃくちゃ馴染みがいいんだけど、どこかの種族の混血か?」

「え、ああ、うちのおじいちゃんがハクトウワシの獣人。私も一部獣化できるし。」


最初に見た彼女の背中にあった黒い羽根は魔法で出したものではなく獣化した体の一部だったらしい。

獣人族の血が流れているから、魔力の相性が良かったのかもしれない。


「というか、うわーもう、え、何?私いまクラスメートと何してた?あんなのキスじゃん・・・ええ、うわー恥ずかし・・・」


ザカリアスが先程の行為を思い出し、顔を赤らめ身悶えしている。雪豹のざらざらの舌の感触を面白がってたときとは違い、至って普通の女の子らしい反応にこちらも身体が熱くなる。


「なあ、もう一回していい?」

「死ね。」


速攻で断られてしまった。


「さっきのは、人助け!動物救護活動!だから、アンタも勘違いしないで。あ~!もう!」


口を押えながら必死で言い訳している。そんな様子がひどく可愛く見える。これ以上身体を密着させたままだと本気で嫌われそうな気がしたので、一旦退いてやることにする。


だが、俺が立ち上がったものの、ザカリアスはその場から動かない。


「ほら、手貸してやるから立てよ。」

「…動けない。」


彼女が少し泣きそうな顔をしながら、こちらを見上げる。


「魔力切れくさい…」

「もしかして、吸い取り過ぎたか…?」

「もう、何してくれてんのー!私魔力量には自信あるのに、アンタの貯蔵量どうなってるの!?」


今は全身がザカリアスから貰った魔力で溢れている。寧ろ少し足りない位だ。


「ごめん。俺の母親、悪魔族だから、俺は獣人族にしては魔力量が多いんだ。」

「何その規格外!?先に言ってよー!わかってたら途中で止めたのに!私、魔力切れで動けないんだけど、ちょっと返して貰えるかなあ!?」


魔力切れのわりに、口は元気だな。

返してと言われたので、その通りにしてやる。


動けない彼女の前にしゃがみ込む。


そして文句を言われる前に、噛みつくように口づけをして、魔力を流し込んでやった。


「っ…!」


流し込む行為すら心地よい。が、途中で強制的にストップされてしまう。


「待って、お願い、雪豹の姿でお願いします…あと、額同士の接触でいいから。」


ザカリアスは見事に顔を真っ赤にし、羞恥で涙目になっている。

…しょうがない。リクエストに応え獣化する。


けれども、額同士の供給は効率が悪いので、豹の姿で彼女の顔を舐めてやる。

何か言いたげな顔をしていたが、黙って俺の行為を受け入れていた。


しばらくすると、「もう十分。ありがと。」と言って、よいしょと立ち上がった。

なんとなく名残惜しくなり、その足元に、すりすりと身体を擦り付ける。


ザカリアスがそんな俺の頭を撫でて「魔力で餌付けしたから懐かれたみたいな感じ…?」とつぶやく。そのつぶやきはあながち間違いではない。


『今日は本当に助かった。恩に着る。家まで送ろうか?』

「あー大丈夫。というか、アンタほんと気をつけなね。喧嘩やるのはいいけど、相手の力量や数も考慮してから受けて立つようにしないと。いつか本当に死ぬよ?」

『善処する。またやられたら、おまえに助けてもらう。』

「やだよ、私は自分が面白いことにしか興味がないの!毎度の手当なんて退屈。それから、今日のことはみんなには内緒にしてね!?恩に着なくていいし、アンタも忘れていいから!じゃあねっ!」


矢継ぎ早に言いたいことを告げると、黒い羽根を背から出して逃げるようにして飛び去って行ってしまった。


「いや、忘れるとかできないだろ。」


悪戯好きの、どちらかというと関わりたくない奴だと思っていたのに、関わってみると至って普通で、寧ろ優しくて――しかも人を溺れさせるように魔力を注いで。


忘れるどころか、強烈に脳に刻み込まれてしまった。





俺はそれからというもの、表向きはあの時の「お礼」で遊んでやってる体で、暇があれば獣化してザカリアスに構って貰いに行った。

雪豹の姿であれば、舐めようが何しようが怒られない。限度はあるけど。


グエンが虎の姿になってクーガーに撫でて貰ってるのを見て、馬鹿じゃねぇのアイツなんて思ってたけど、訂正しようと思う。彼女と触れ合いができるのなら、獣姿であろうと幸せなのだ。


それから、自分が怪我をしたときは、必ずザカリアスに手当をしてもらうようになった。

「いつも隣のクラスの小人族の子に手当して貰ってたじゃない。なんでわざわざこっち来るかなー?」


毎度ブツブツ言いながらも、優しい手つきで傷薬を塗りこんでくれる。それが終わるたび、俺は雪豹の姿ですりすりと彼女の足に身体を擦りつける。

実はこれ、求愛行動の一種だったりもする。



彼女がこの行為の意味に気付き、段々とほだされ、俺と付き合うことになるのは、そう遠くない話。




(おわり)



最後までお読み頂きありがとうございました。よろしければ評価お願いします。今後の参考にします。

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