南へ進出
「うわあああ九重さんたち! ありがとうっす!」
無法者たちの戦いが勝利で終わると、山根が俺達に飛びついてきた。
さっとかわした俺を田茂が力強い視線で見ている。
「助かった、君たちの支援がなければ我々は勝てなかっただろう」
「困った時はお互い様です。俺達としても、この無法者たちがいない方がこの彩草市で活動しやすいし、ここで一気に潰せるならそれが一番いい」
「だとしても、狙われていたのは我々だったのだ。それを助けてくれたことは変わらない。ありがとう」
出会ったときと同じように田茂が手を差し出してくる。
その手を握ると、力強く握りかえしてきた。
「にしても本当にうまくいったわね。ギリギリまで隠れてたのが良かったってとこかしら」
「ああ。自警団にも伝えてなかったからこそ完全に奇襲できた。あらかじめ伝えてたら、不自然なところが出て気づかれたかもしれない」
「敵を騙すにはまず味方からってことね、うんうん。にしてもなかなかなんとも言えない眺めねこれは」
天音が感心したようすで見ているのは、網に捕まりさらに手足を拘束されて並んだ約30人くらいの無法者たち。刑務所に連行される囚人たちのようだ。
だがそれを見て大笑いしてる者もいた。
「あーっはっはっは! おい見ろよあれ! 俺達閉じ込めてたやつがしょげかえってるぜ、気持ちいいー!」
「うちらにやられたことを逆の立場になった気分はどう? って聞いてやりたいね。聞かなくても最高に楽しく愉快な気分ってやつだけど。作戦に参加しなかった子達もったいないねえ、こんないいもの見られたのに」
久我と綾瀬は自分たちを虐げていた者たちの惨めな姿にウキウキだった。
まあ溜まったものもあるだろうし、しばしウキウキさせておこう。
とにかくマンションの住民に怪我がなくてよかった。それに無法者たちも懲らしめることができて、まさに完全勝利だ。
完全勝利の後、俺達は勝利を噛み締めながらマンションに戻った。
そして翌日。
俺は聞きたいことがあり、小学校にやってきていた。
確認しておきたいことがあったのだ。
そこでまた突進してきた山根をかわしつつ、田茂に色々と質問を重ねていった。
まず一つ、無法者たちはあそこに集まっていたのが全員なのかということ。
かなりの人数だったから多分総力戦だったとは思うが、一応確認しておきたかった。それについて田茂は、自分たちが認識してる分も、無法者たちから聞き出した話から判断しても全員捕まえられたといっていたので、これは一安心。
もう残党はいないってことだ。
そして今後のあいつらの処遇について。
なかなかそれには困っているようだった。なぜなら、崩壊前の世界のように刑務所があるわけでもないし、じゃあ自分たちで囚えておくかというと、それはずっとただ飯食らいさせることになって、自警団の人たち自身の食料が厳しくなる。
かといって処刑は過激すぎる。
ということで、追放という形で落ち着いたようだ。
田茂が言うには、目隠しをして遠く離れたところに一人ずつ連れて行ってそこで解放するつもりらしい。そうすれば、無法者たちが互いに合流することはできないし、ここの近くに戻って来ることも難しい。
頭数が集まると厄介だが、一人ずつなら暴れまわることもできない、ということでそういう形で始末をつけることになったようだ。「しばらくの間は遠くまでやつらを連れて行く毎日だよ。うんざりするだろ?」と田茂は言っていた。
本当にうんざりだと思う。
そして最後に、無法者たちから聞いた奴隷にしていた人たちの場所に行き彼らを解放することもしないといけない。まさにこれから山根チームが出発するらしい。
それを全部やったら、完全に仕事は終わりで一息つける。そしたら美容室に行かせてもらうよ、と田茂は笑って言った。
「どうやら、無法者のことは問題なく後始末も終わらせてくれそうだな。体育館では俺達の奇襲で勝利できたことで感謝の言葉をシャワーのように浴びたけど、こっちこそ厄介なことを片付けてくれて自警団に感謝だ」
そういった話を聞き、俺はマンションに戻ってきた。
ああいった事後処理が世の中で一番面倒でやる気が起きないんだ。
ともあれ、これで無法者たちは完全に壊滅した。
これからは余計な邪魔が入らずにこの彩草市を歩くことができる。
となれば、やることは一つだ。
「明日からは、これまで探索できなかった南に行ってみよう。きっとこれまでになかったものが見つけられるはずだ」
翌日の朝。
俺はいつもより30分早く玄関を出た。
これまでずっと抑圧されてきたところへついに行けるとなると、柄にもなく張り切ってしまっている。
張り切りすぎて空回りしないよう、冷静にいかないとな、とまずはエントランスの地図を見て今日行く場所をチェックする。
当然のようにいまだに空白。
危険だからと誰もいってないから。
この国道沿いに歩いていくつもりだが、国道があるならその両サイドには色々な店舗があるはず。まだ見ぬ何かが見つかるはず。
いざ進出の時、まだ見ぬ土地へ。
「ここは案外きれいなんだな。場所によって差は思った以上に大きいか」
マンションを出てから南に進み、国道に到達した俺はそのまま国道を歩いていった。
まずここで驚いたのは、道がかなりきれいに残っていることだった。俺が今まで探索してたところはどこもかしこも、アスファルトがひび割れ隆起や陥没し歩きにくかったのに、この国道は広々とした道がほぼそのままの形で残っている。
しかもこんな状況だと車など一台も走っていないから、広い国道のど真ん中を歩けて少しばかりいい気分だ。
……ん? 同じように真ん中を歩いてる人がいるけどあれは……。
「雪代か?」と呟いたと同時に雪代がちょうど振り返り、「あっ! 九重さん!」とこちらに小走りで向かってきた――と思うと、視線が俺を素通りし、「あっ! アンドラスさんも!」
振り返るとそこには、優雅な佇まいの悪魔の執事の姿があった。
考えることは皆同じということらしい。




