決戦はサクサクと
自警団と無法者達の戦闘が始まった。
お互いにマホウを使いド派手にやりあっていて、ソナーなしでもこっちまで音も聞こえてくるし、炎のマホウや光のマホウで照らされて離れた俺達の身を隠しているところからでも戦闘の様子が見える。
先程のやり取りからして無法者のリーダーと思わしき金髪の女が、
「ふんっ、頭数が同じくらいいるからって、調子づいてるんじゃないよ。こっちは奴隷どもに魔石を集めさせて力を鍛えてんだから。思い知らせてやれ!」
と気合を入れていた。
たしかに、無法者たちは魔石を集めていた。力で相手から奪うって目的のために力をつける必要があるから。
そうなると無法者が一気に勝負をつけてしまうだろうか。
だが観戦していると意外や意外、自警団は善戦していた。
炎を出したり、体を強化したり、つららを何も無い空中から落としたり、体を保護色にして不意打ちしたりと色々やって無法者と戦えている。
ここから見えるマホウの強さは無法者と遜色ない力だ。
「思った以上にやるようだな自警団は」
「きっと天音達のおかげよ」
「俺達のおかげ? どういうことだ?」
「あの美容室のせいよ」
天音が美容室の方角を指さした。
美容室、美容室……まさか。
「ほら、行ってたでしょ美容室に来てた自警団の人たちが。美容室で魔石が必要になったことがきっかけで、皆が魔石集めに熱を入れるようになったって」
「……なるほど、そういうことか」
「わかったみたいね。美容室の利用料はそこまで高いわけじゃないから、一生懸命魔石集めたら魔石は余るでしょ? その余った魔石は自分たちのマホウを成長させるために使えるじゃない」
たしかに、魔石ブームだと田茂も言っていた。
行方不明の山根を助けにいったのも、魔石を集めるために遠出したことが原因だった。それほど魔石を集めていたなら、マホウも強くなるだろう。
「まっさか美容室のせいで強くなってるなんて、あの無法者たちも思ってないわよ。ビビってると思うとウケるわね」
天音がケタケタと笑ったと同時に。
「おいお前達、何をいい勝負してるんだ! こんな奴らさっさとぶっつぶしな!」
無法者のリーダーが苛ついた怒鳴り声をあげた。
どうやら天音の見立て通り思った通りの楽勝とはいかないようだ。
一方の自警団では田茂が檄を飛ばしている。
「いいぞ! 俺達は負けてない! このまま押し切れ!」
「はい!」
自警団のメンバーはさらに勢いづき、無法者たちとの戦いは激しさを増していく。
俺達は隠れていた場所からコソコソ身を乗り出して戦況を見ていたが、もう警戒しなくても気づかれる心配はないだろう、こっちに注意している者など皆無だ。
「んで、この場合俺達はどうすんだ?」
久我が尋ねる。
「しばし静観、だな。でも、少しずつ近づいていこう。戦局がどう動いてもいいように」
自警団たちは激しく戦い、俺達はコソコソと近づいていく。
「くっ……! 皆、しっかりしろ! 諦めるな!」
「ふんっ……粘りやがって、でもそろそろ終わりなんじゃないか?」
戦闘開始から20分くらいが経過した時、戦況は動いていた。
残念ながら、自警団が不利な方へと。
「最初は良かったのにね、どうしちゃったのかしら」
「経験の差ってやつかもな。無法者の方は、世界が崩壊してからケンカだの抗争だの頻繁にやってきたんじゃないかと思う。一方で自警団の方は必要最低限の戦闘しかしてないはずだ。となると、力が同じでも実戦経験の差が結構ある」
実際、最初はたがいに30人近くが乱闘していたが、バタバタと戦闘不能になり倒れたりうずくまったりしている者が多数で、今は無法者たちが10人、自警団は7人といったところだ。
善戦はしているが、1.5倍の数の差は結構重いだろう。
いったん一箇所に集まり防御を固めている自警団の人たちは厳しい表情をしているが、それにジリジリと迫る無法者たちの方には余裕の笑みが浮かんでいる。
久我が俺の肩を叩いた。
「へっへっへ、これは俺達の出番なんじゃねえの?」
「負けそうなのに楽しそうだな」
「そりゃあね、出番がなかったらつまんねえし。さっさとやろうぜ九重!」
久我以外もやる気の表情をしているし、頃合いだな。
「そうだな、始めよう。計画通りに。まずは久我、頼んだ」
「よーっし、それじゃあお前ら俺に続け! フォグメーカー!」
久我がマホウで霧を薄く出していく。
その霧は自警団と無法者が戦っているところへと伸びていき、だが薄く戦いに霧中になっている当人たちは気付かない。
そこから徐々に霧を濃くしていくと、気付いた時には――。
「なっ、なんだ!? 霧が急にでてきやがった!?」
「みな、落ち着け! 取り乱すな、気を取られるな!」
無法者も自警団も、どちらも突然のことにパニック状態になっている。
そして俺達は、霧に紛れて戦場に接近し、そして一斉に、ネットランチャーを取り出した。
「こんなの使ったことないから楽しみね」
ネットランチャーを構えて嬉しそうな天音の声。
俺たちは5人全員でそれを構えていた。
マンション通販で新たに加わったこれなら複数の人間をまとめて拘束できる。大人数の対人戦でこんなに頼もしいものもなかなかないだろう。
しかも、ネットランチャーの通販は何種類かあり、大型のやつを買って用意しておいた。熊やサイも捉えられるという説明の逸品だ。
「綾瀬、方向は?」
「無法者どもの位置は……あそことあそこだね。前方5メートルくらいのところに固まってるよ。突然霧が出たから、互いに固まって防御態勢になってるみたいだよ」
濃い霧の中でも、ソナーのおかげで位置がわかる。
俺達5人はネットランチャーをその二箇所に向けて――発射した。
ポン、という音とともに網の塊が一斉に発射され、霧の中で広がる、その直後。
「なっ!? なんだこれ!? 動けなっ……!」
「うわああああ! なんか変なのが絡んで!!!!???」
「ひいいいいい! 助けてくれええええええ!」
困惑や悲鳴の声が霧の中から上がってきた。
さらに「なんだ? 何が起きた?」という自警団側も困惑している声も。
「よし、無事捕まえられたみたいだ。網から抜け出る前に一気に決める! 霧も晴らしてくれ!」
俺達は一気に戦場になだれ込んでいき、霧が薄れた中で網に捉えられてもがいている無法者たちを発見する。
するやいなや、そこに向かってこれまた最新の通販で売り出されたカプサイシンの催涙スプレーを噴霧していく。
「ごほっ! うぐあああっ!?!?! なんだこっ!? なんだてめぇら!? ゴホッ、あああ目があああ!」
動けないところにダメ押しのスプレーで、もう無法者たちは目を開けることすらできない。同時に霧がすっかり晴れ、自警団の姿も見えてきた。
驚いた表情の自警団の人たちの姿が。
「な……君たちなぜここに!? それにこれは…………?」
「説明は後で! それより今のうちにこいつらをやっつけちゃってください!」
「……あ……ああ! わかった!」
あとは簡単な仕事だった。
俺達マンション住民と自警団で、目を閉じて手を振り回しもがいているだけとなった無法者たちを完封するのは容易い話。
こうして予定通りに決戦はサクサクと終わらせることができた。




