入居者たち
「なんだこりゃ!? すっげ……」
五人の中の一人がマンションとその周りの木花や菜園を目にして口をぽかんと開いた。声を出さなかった者も、目をこすったり、頬を叩いたり、信じられないという様子だ。
「どういうことなのこれって?」
ショートカットの女が俺の方を向いた。
「一言で言うと、俺のマホウ。マンションを作るマホウなんだ。最初はもっと質素だったけど、色々アップデートしていって、ここまでできた」
「そんなマホウありなの?」
「聞いたことねえぞ!? あのクソ野郎どもの中にも」
そうなのか、南のならず者たちもマンションのマホウや似たものはなし。ってことは、俺たちの住処や手の内がバレるおそれはなさそうだな、これは朗報といえるだろう。
驚いてばかりだと話は進まないので、俺は彼らにマンションについての大雑把な説明をしていった。
マンションそのものの部屋があること。魔石を集めてMPを手に入れ、それでマンション通販で色々購入できること。菜園や花壇などは、そのMPでマンションの皆で共同購入して整備したこと。エントランスの地図を参考にしたり、知ってる情報を書き込んで欲しいということ。
最後に、家賃はきっちり払うこと。
説明がすむと、それぞれに部屋を割り当てていく。
50X号室とX05号室の部屋は最近拡張されたばかりの場所で、天音が入っている501号室以外は全て空き部屋になっているので、そこに新入居者は各々入っていった。
こうして説明していったのは随分久しぶりな気がするな。
最近、新しい住人いなかったからな。
だからっていきなり五人も入ってくるとは思わなかったが、本当に。
さて、新住民の部屋は――。
【105号室 久我悠斗】
「俺はこの部屋にする! いいだろ?」
短髪で俺と握手をしたあの男が、部屋を下から順に案内している時に、真っ先に1階の部屋を選んだ。
久我が聞いたことに対して、異論を唱えるものはいなかった。
「よっし、じゃあ俺がこの部屋な!」
「意外だな、マンションって上の部屋のほうが人気なものだけど」
「俺は地に足つけた生き方するタイプだからよ。……っていうのは冗談で、高いところは好きじゃねえんだよ、マンション見た時はやべって思ったけど、一階が空いてて助かったぜ」
なるほどそれは幸運だったな。
こっちとしても不人気かと思ってた部屋に入ってくれるならありがたいし、ぜひ入ってもらおう。
「最初だから他の人にも説明したい、全員で部屋に入ってもいいか?」
「そんなん気にしねえよ、まだ俺のものもなんもないんだし。しばらくたったら、散らかって他人を入れられなくなるかもしれないけどな」
「よし、決まりだ。じゃあ説明するからこっちに来てくれ」
そこで俺は端末を実際に触って操作方法を教えた。また、間取りや部屋の広さはどこも変わらないから、それに関してはどこを選んでも変わらない、単に位置だけの問題だということも。
そして、説明を終えると久我はそのまま部屋に残り、残りの四人の部屋選びを続行する。
【305号室 相馬 恒一】
「私はこの部屋にしようと思いますがよろしいでしょうか」
そういったのは、おそらく五人で最年長、俺と同年代の相馬だった。
前髪を真ん中で分けた長身の相馬が低い声でそう言うと、異を唱えるものはいなかった。
「では、ここで暮らさせてもらいます。しかし本当にきれいな部屋ですね。こんなところにいられるなんて、まさに夢のようです。ありがとうございます、大家さん」
「そんなかしこまらなくても。俺も一住民だしな。ところで、なぜこの部屋を?」
「高すぎず、低すぎず。バランスが良いからです、大家さん。バランスがやはり大事ですから」
俺はショートカットの女にちらりと目を向けた。
「こういう人だね、あそこにいたときから」
なるほど。
【502号室 七瀬律】
【503号室 月岡乃愛】
「僕はこの部屋で」「えっと、私ここの部屋がいい、かな」
502号室の前を通った時だった。
七瀬律と月岡乃愛が同時に言った。
「「あ」」
気まずそうに目を合わせる二人は、どちらも20歳弱くらいだ。
五人の中では年少組の二人だが息もあってるな。
「だったら僕がそっちの部屋でいい」
「え、いや、私こそ違う部屋で平気だから」
「いや、僕も別にできればここ、ってくらいだし」
「私も絶対ここじゃなきゃ嫌ってことじゃないから」
美しい譲り合い精神をどうなることかと眺めていると、ショートカットの女がやれやれと頭を掻いていた。
「じゃあうちが決めるからね! じゃんけんして勝った方が502、負けた方が503、それでいい!? はい、じゃーんけーん!」
強引に話を進めていく女のペースに乗ってじゃんけんをした結果、502号室が七瀬、503号室が月岡となった。
二人は遠慮がちに部屋に入っていく。
ということは、残る人と残る部屋は。
【505号室 綾瀬采香】
「うちはここで! いいんでしょ、九重」
「ああ、もちろん」
綾瀬采香は年齢は俺より少し年下くらいだろうか、長い髪のいかにも明朗快活な女で、五人の中でも前に出て意見を言うタイプだから特に俺の印象に残っている。音で周囲の状況を探るソナーの能力を持っているのも綾瀬だ。
「やっぱり、一番上の一番端が一番いいよね」
五階からの景色を眺めて満足気だが、また上に部屋が積み上がるかもしれないってことは言わないでおこう。
「それにしてもすっごいねー、なにこのきれいな部屋! そんでもってお風呂! あの泥々でジメジメした地下と天と地だよガチで。ありがたや九重様」
そう言って綾瀬は俺を拝み倒してきた。
若干だるいかもしれない。
だがまあ、あの半地下で長い間過ごしてたんだから、これでも遠慮した感情表現くらいかもしれないな。実際の感慨は言葉では表現しきれないだろう。
「ありがたや~ありがたや~」
「いやいつまでやってるんだ」
「あっはっは! でも本当に感動してるよこんなところにいられるなんて。呼んでくれてありがとね、ガチに」
俺が部屋を出る前にそう告げた綾瀬の目は真剣だった。
……ああ、勧誘して良かったな。
こうして五人の新たな住民がうちのマンションの仲間に加わった。
各々広くてきれいなところで過ごせて喜んでくれたようで良し、そして彼らがやる気を出して魔石を集めてMPを稼いでくれれば……個人のことではなく、マンション単位のことでもどんどんやっていけるし、マンションの成長も期待できるだろう。
そのために俺は五人を受け入れると言い出したんだ。
美容室を始めたりして外のことは進化したけど、マンション自体は最近はあまり変わってなかったからな。
停滞気味だったそこにテコ入れできれば狙い通り。
「それに期待しつつ、マンションの新章を始めていこうか」
101号室、自室の扉を俺は開いた。




