トンネルの先に
トンネルの奥の壁を崩した先にあったのは、地下室のような場所だった。地面のタイルはところどころ割れて土が露出している。
部屋自体はかなり広いが、土砂が流れ込んできていて、大部分が埋まっているため狭苦しいし危険そうに見える。
そこに数人の男女がいた、のだが。
「山根! …………じゃ、ない?」
田茂が困惑したように眉根を寄せた。
俺達の予想は外れていた。
そこにいたのは、山根ではなかったのだ。
以前見たことのある、小太りで丸顔の男の姿はなく、ボロをまとった痩せた男女数人が身を寄せ合っている。
「誰でしょうね。山根さんじゃないけど、自警団の他の方ですか?」
「違う、他の者でもない。俺も全然知らない人たちだ」
自警団でもないだって?
じゃあ、本当に誰だ?
俺達はどこにやってきてしまったんだ?
あらためて男女を見る。
男二人、女三人がいて、俺達二人を見上げて座っている。
年齢は皆俺より若そうだ。着ているものはボロボロに擦り切れて土で汚れた服で、髪もホコリまみれだ。土砂が多いこの場所に長い間いたように見える。
本当に何者なんだ。
「あなた達はいったい? ここはどこなんですか?」
俺は彼らに尋ねた。
すると5人の中のショートカットの女性が、
「私たちのこと、知らない、んですか?」
「もちろん、今来たばかりだし。正直、戸惑っています。トンネルを抜けてきたら、こんな場所があって」
俺が言うと、五人は小声で何か相談をしはじめた。
「知らないみたい」
「僕らにバツを与えに来たわけじゃない?」
「仕事させてに来たわけじゃないみたいね」
「前に来た人と同じかもよ」
「山根、って言ってたぞ」
小声でボソボソしているが、そんな声が聞こえてくる。
なにか怯えているようだが……。
「山根!? 山根を知ってるのか君たちは!」
俺が考えていると田茂が大きな声を出した。
身をかがめ、床に座っている五人に顔を近づける。
「ひっ!?」
「知っているなら教えてくれ! 俺達は山根っていう男とその仲間を探しにここに来たんだ!」
ものすごい剣幕でまくしたてているために、最初から怯えていた五人は余計怯えて口が聞けなくなっている。
俺は田茂の肩を叩いて抑えさせようとした――。
その時だった。
「あーっ! やっぱりリーダーじゃないですか! 声が聞こえたと思ったんだ。それに、美容室の人も!? どうしてここに!?」
積もっている土砂の裏から、山根が体を揺らしながら姿を表したのだ。それに続いて、3人、山根と同行していたらしい自警団も出てくる。
すぐに田茂が駆け寄っていくと、山根は。
「あ、もしかして僕達が帰ってこないから探しに来てくれたんすか!?」
「そうだ、山根。それに皆も無事だったか!!」
「へへ、すんません。でもなんとか命は助かってます」
頭をかく山根は、ところどころ怪我をしているが、深刻な重傷ではないようだ、他の仲間たちも同様で、ひとまず最悪の事態は避けられたな。
となると、聞きたいことが色々ある。
「山根さん、俺達より先にここに来たなら、色々知ってますよね。正直、何がなんだかという感じなので、教えてもらえますか?」
「ああ、もちろん。リーダーも知りたいだろうし全部教えるよ。僕らも驚いたんだ。まず、僕らが魔石がたくさん集めようとしてたのは知ってる?」
「ええ。それで地下駐車場に行き、魔獣が多くて身動きが取れなくなったんだと思っています」
「うんうん、でも駅前の魔獣が多かったからじゃないんだ。もちろんそれはそれで多かったんだけど……リーダー、ここに続くトンネルで魔獣に襲われせんでした?」
山根は田茂に視線を向ける。
田茂は腕組みをしながら頷いた。
「ああ。モグラに野犬にムカデ、なかなか厄介な魔獣が大勢いた。だが、この九重君とともに協力して撃退できた」
「うお、マジっすか!? あのモグラどうやって戦えばいいかわかんなかったのに、すげえ! 九重さん、ええと、美容室の人っすよね、美容以外にも強いんすね!」
俺はむしろ美容には疎いくらいなのだが。
何か間違った評判が広まっている気がする。
「いやー、僕達はあの魔獣に歯が立たなくて。実はですね、地下駐車場で魔石を見つけてはしゃいでたら、さらにそこから天然のトンネルみたいなものを見つけて、ここ進んだらもっと魔石があるかもしれない!って探検したんすよねー」と他の三人の方を山根は向く。三人もやらかしたという顔で頷いている。
「それが間違いで、地面を潜って背後から襲ってきたモグラ魔獣を倒せず追い立てられて、そうこうしてたら音が響いて地上から地下駐車場経由でトンネルまで来たのか、後ろから色々魔獣がやってきて、モグラとその他魔獣で収集つかなくなってどんどんトンネルを先へ先へと逃げてたらここにたどり着いたんす。そんで魔獣に見つからないように、ここにあったガレキや土を穴にバリケードみたいに積み上げて、壁みたいにしてなんとかしのいだんすよ~」
これで山根の方の事情はおおよそわかった。
予想通り魔石を取りに来たが魔獣に囲まれて身動きがとれなかったが、それは駐車場ではなくここだったのだ。
そして、あの隙間だらけの壁は山根たちが魔獣から逃れるために作ったものだったと。
「あれ、俺達が壊しちゃったけど、大丈夫ですか?」
「倒してきたって言ったじゃないですか。それなら全然問題なしっすよ」
「そうか、それならよかった。山根さんの事情はわかりました。魔獣ももういないし、帰れますよ」
「やったー! みんな、奇跡の生還っす!」
山根と一緒に来ていた三人の自警団も山根とともに、手を掲げて歓喜の表情だ。
これで一件落着、ではあるが。
「まだ気になることはあるんだよな。むしろ、もっと気になることが」
俺は、元々ここにいた五人の男女に目を向けた。
座って小さくなっていた彼らはいつの間にか、自警団+俺たちと向き合うように立っている。
ショートカットの眉がキリッとした女が口を開いた。
「皆さんが奴らと無関係みたいでよかったです。さっきは取り乱しちゃってごめんね」
「奴ら?」
「聞きたいことがあるって言ってたよね。教えて上げます、知ってることは全部。だから、私たちを奴らから助けてください!」




