洞窟探検隊
「これは……なんだ?」
「洞窟、ですね」
地下駐車場の崩れた壁の奥にあった地面の裂け目。
先がどこまで続いているかわからない天然のトンネルを俺と田茂はのぞき込んでいる。
「彩草市の地下に洞窟なんてあったのか?」
「いや、なかったでしょう。どう考えても。あの大異変によってできたと考えるのが妥当です」
「洞窟までできるのか……」
田茂と同様、俺も驚いていた。
まさかこんなものまでできているとは。
だが、俺はすでに自然公園が不思議な世界となったことをこの目で見て、この体で体感している。
自然環境が異変のせいで変化することはあり得ることだ。
それが地下に起きたとしたら、謎のトンネルが出来てるとしてもおかしくない。
そして、ここにトンネルがあるということは……。
「もしかしたら山根さん達は……」
「うむ。俺も同じことを考えていた。表の魔獣が多くて安全に脱出できそうにないので、このトンネルが安全な場所に繋がっていないか、と俺があいつの立場なら考えるだろう」
その可能性は高そうだ。
おそらく山根はこのトンネルの奥にいる。
暗いトンネルは未知だが、しかし先にあるのはおそらく山根だけじゃない。
自然環境に異常を与えるようなことがあれば、それはあの【接触】の影響を強く受けているということ。
星魔石のような特別なものがあるとしたら、きっとここだ。
「行くしかありませんね、田茂さん」
「うむ……そうだな」
虎穴に入らずんば虎児を得ず、俺たちはトンネルに進入した。
トンネルの中も地下駐車場と同様に、暗いながらも完全な闇ではなかった。やはり魔石はかなり多くあり、そのため月明かりの下くらいには物が見える。
とはいえ見づらいことには違いないので、ライトも利用し前方を照らしながらゆっくりと進んでいく。
俺も田茂も口をきかなかった。未知の暗闇を進むために、音に集中するために。
ピチョン……。
俺たちは同時に振り返った。
「……なんだ、水滴が落ちた音か。脅かしやがって」
「しかし結構歩いてきましたね。もう……20分ですよ」
「ああ、1キロ以上は歩いてるな、そんなに長いのか?」
「どこに繋がってるのや――」
ズムムムム……。
「次はなんだ? 水じゃあないぞこの音は」
「上から来ます!」
俺は中級魔道士の杖を上にかざしシールドを展開した。
直後、トンネルの上から土をかき分け魔獣が頭と腕を出し、田茂のクビに爪を伸ばしてくる!
が、展開してあったシールドに阻まれ弾かれ、勢い余って地面に転げ落ちる。
大きな土をかく手、とんがった鼻、ずんぐりした体。
それは……。
「どう見てもモグラだ」
ただし、体長は1m以上あり、モグラは退化しているはずの眼が、赤く大きなトンボの目のような複眼になっている。
「モグラだと!? こんな気味の悪い目のモグラがいるか! ああくそ、でもモグラだな眼以外はどう見ても! くそ、喰らえ!」
鉄喰で腕を硬化させ攻撃しようとする田茂だが、硬化している間にモグラ魔獣は地面に潜って逃れ、鉄の腕はモグラの短い尻尾をかすめて宙を切った。
「ちっ! 逃げたか、面倒なやつめ。まったく、モグラまで魔獣になってるとはな、初めて見たぞ!」
「世の中の生きとし生けるものが魔獣になるってことですね。さてあいつは逃げていったのかそれとも……」
ズモモモ……。
「この音は!」
「まだやる気みたいですね」
「どこから来るか……厄介だなこんなトンネルの中じゃ」
「田茂さん、左右の壁とは距離があります。多分そこからは来ないし、来ても対応する時間はある。一番ヤバいのは地面、次は天井。だから上を田茂さん、下を俺が守れば不意打ちは防げる。そして、次は仕留めます」
俺は盾を下向きに使い、その上に乗った。
田茂にも乗るように促し、これで下の攻撃は防げる。
そして田茂は鉄喰いを発動し、右腕を巨大な黒い塊にして天井にかざす。
よし、来い。
次は迎え撃つ準備万端だ。
ズモモモモ……。
再び土の中からくぐもった音が聞こえてきた。
どんどん近づいてくる。
来るのは――。
「下だ!」
地面の下からトビウオのように勢いよく飛び出してくるモグラ魔獣、その爪は杖のシールドで防がれるが、助走をたっぷりつけた勢いでシールドがひっくり返され俺たちは落とされる。
「田茂さん!」
「ああ、わかってる! 鉄喰!」
勢いよく飛び上がったモグラ魔獣は空中で姿勢を変えて着地と同時に潜ろうとしている。が、二度も同じことを許す気は無い。
さっきと違ってすでにこちらの準備は万端、田茂は体勢を立て直しながら、モグラ魔獣が着地すると同時に地を這うようなアッパーをぶち込んだ。
『ギュ!!』
モグラ魔獣は吹っ飛んでトンネルの壁に激突する。
ダメージを負いつつも壁を掘ろうとしているが、そこに俺が攻撃の杖で魔力の矢を放ち、モグラ魔獣にとどめを刺した。
「ナイスコンビネーションだったな、九重くん」
田茂がハイタッチしてきたのにあわせつつ、倒れたモグラの爪が魔石化したものを回収。
かなりいい色をした魔石だ。
これならいい収入になる……これもある意味美容院を開業したおかげの稼ぎか?
「俺たちは相性が良かったからいいけど、不意打ちを防ぐ手段がないと結構危険な魔獣でしたね。山根さん達がこのトンネルを進んだものの引き返せなくなったのはこいつのせいもあるかもしれません」
「ああ、先に進もう」
俺と田茂はトンネルをさらに進んでいく。
しばらく進んだ先にはムカデの魔獣が洞窟内を這っていた。
厄介な敵だが協力して倒すと、次は大ネズミの魔獣が複数、さらにそこをこえると狼の魔獣がいて、さらにその次にはまたモグラの魔獣が襲撃してきた。
「はあ、はあ……どんだけいるんだこのトンネル」
俺にもこれまでの経験があり、田茂も自警団リーダーだけあり戦闘にも手練れていることもあり、襲いかかる脅威は全てはねのけて進むことができたが、しかしそれでも田茂も息が切れてきている。
マホウを何度も使うと体力気力が消耗するからな、長いトンネルを進んで魔獣と連戦するのは結構堪える。
そろそろ出口が見つかって欲しいが……。
「おい冗談だろ? ……行き止まりだと?」
ようやく、最奥までたどり着いたと思うと、そこは壁だった。
何もないし、山根の姿もない。
横道もなく、行き止まりに見える。
「じゃあ山根はどこに行ったっていうんだ!?」
「待ってください田茂さん、よく見るんだ! これはただの行き止まりじゃない」
行き止まりの壁は、トンネルの他のところとは様子が違っていた。
ただの土の壁ではない、薄暗い中で目を凝らして見ると、隙間がところどころあり、それは石やブロック、瓦礫を積み重ねたバリケードのようなものに土をかぶせた壁だ。
誰かが人為的に作ったもので、この先には、間違いない、その人がいる。
「田茂さん」
「ああ!」
田茂が鉄喰の腕で殴りつけると、ガラガラと音を立てて壁は崩れ去った。
そして俺たちの前には、みすぼらしい衣服を身に纏い、身を寄せ合っている数人の男女が姿を表した。




