地底へ……
地下駐車場。
この美容室があるところは地上の駐車場だが、山根達は地下の駐車場にいるという。
それは、ここから北にしばらく進んだところの彩草駅前にある。
「距離としては、一日で帰ってこられない距離ではないな」
地図のポイントを見て、田茂は難しい顔をする。
その理由は明白だ。
「だけど、このあたりは魔獣が多いですよね」
以前、北の方の駅前の雑居ビルにドラゴンがとまっていたことを思い出した。あのドラゴンがいるところに近づくのはなかなかに命知らずだ。
だが、だからこそ魔石も豊富で、山根チームは向かったんだろう。
「ああ。周囲に魔獣が多く、身動きが取れないままどこかに隠れている、ということが予想されるな」
最悪のケースはすでに魔獣にやられて全滅していることだが、それを口にする者はいない。
「だとしたら、一刻も早く助けに行く必要がありますね。遅くなると一か八かで魔獣の群れの中に飛び出すかもしれない」
「そうだな。……見ての通り危険な場所だが……」
「一度行くと言ったのに二言はありませんよ」
それに、この位置ならば魔石がザクザクあることに信憑性も高まった。
であれば危険を冒してでも行く価値はある。
田茂と山根には悪いが、いざというときは自分の身の安全第一では行かせてもらうつもりだが。
「さあ、行きましょう。時間が惜しい」
そして、俺は自警団のリーダー田茂とともに、救出作戦を開始し北へ出発した。
『シューッシューッ』
『アオーーーーー』
『ブゥゥゥゥゥゥン』
北へと進み、地下駐車場が近づいて来た。
だがそこは、予想通り、否、予想以上に魔獣が多かった。
蛇の魔獣に狼の魔獣、蜂の魔獣が瓦礫の上を闊歩している。
元の建物が多いこともあり、まだ生き残っている建物もある。意味があるのか無いのか、そこに出入りを繰り返す魔獣もいる。
「さすがに数が多いな、少し待ってから進もう」
「賛成です」
今のところドラゴンのようなとんでもない魔獣には会っていない。
あの雑居ビルは駅の北口にあるし、まだ南口はマシといったところか。
とはいえ、数が数なだけにこれを全部相手していくのはしんどいだろう。
どれかの魔獣と戦っている間に、騒ぎを聞きつけた他の魔獣もやってきて、それを倒したらまた別の魔獣が……と連鎖してしまいそうだ。
となると、一匹一匹は凶悪じゃないとはいえ戦うのは得策じゃない。
俺たちは大きな瓦礫が積み重なった影に潜んで、機をうかがった。
「………………」
「………………今だ!」
うろつく魔獣が、タイミング良く同時に近場を離れた。
その瞬間、俺と田茂は全力でそこを走り抜ける。そしてかろうじて残っている百貨店の入り口に入り、その中に隠れたまま別の出口まで走り抜け――。
『ブウウウウウンン』
巨大な蜂の魔獣が百貨店の中にいた。
俺たちを見つけると毒針で倒そうと飛んでくる。
「鉄喰!」
だがそれは田茂によって阻まれた。
右腕を巨大な黒い岩塊にして、毒針をぶち折りながら巨大蜂を殴り落とす。
瓦礫に隠れて様子をうかがっている間にそこの瓦礫を喰っていたようだ。
さすが自警団リーダー、頼りがいがある。
しかし鉄喰ってあらためて見るとなかなかに高性能な能力だな。
防御と攻撃同時にできるなんて、パンチ一つで俺の盾と攻撃の魔法の杖を二本いっぺんに使ってるようなものじゃないか。ずるい気がしてきた。
ずるいから戦闘はできるだけ田茂に任せよう。
……この後に何が待ってるかわからないからな、二人とも調子乗ってマホウを使ってガス欠になると困る。
蜂魔獣を倒して百貨店を駆け抜けると、『彩草駅南口地下駐車場』という看板が見えた。
倒れた信号をジャンプして飛び越え、ひび割れた横断歩道の上を駆け抜け、他の魔獣に勘づかれる前に地下へと進む階段を一気に駆け下りる。
カンカンカンカンと大きな足音を響かせながら階段をおりると、そこにはがらんとした空間が広がっていた。
「駐車場、ですね」
「ああ。こんなにきれいに残ってるとはな。地下は地上よりあの【接触】による崩壊が軽かったのかもしれない」
コンクリートで固められた、広々とした地下の駐車場が土の下には無事な姿で残っていた。
いくつもの自動車が今でも規則正しく整列していて、十数台が並ぶごとにコンクリートの太い柱が地下空間を支えている。
その規則正しい繰り返しが漆黒の闇の中にある――と思いきや。
「これはすごいな、魔石がこんなにもあるとは」
青紫に瞬く数多くの魔石で、地下駐車場の闇はほの明るく照らされていた。
ライトを持ってきていたが、その光無しでも周囲の様子がある程度見えるくらいに。
主に自動車のボンネットから魔石は映えていて、カバーを貫通して大きな魔石を生やしている自動車が幾台もある。
ここにある量はかなりのものだ、これは来たかいがあるといっていいだろう。
しかし……。
「山根さんの姿は見えませんね」
「…………」
肝心の山根と山根と一緒にいる自警団達は見つからない。
自動車と柱の間を歩きながらじっくりと見ていくが、あるのは魔石の輝きだけだ。
「どういうことだ?」
田茂が困惑した様子で言う。
「もしかしたら、入れ違いになったんでしょうか。俺たちが来る前に、ここを出ていって小学校に戻ったとか」
「それならいいが、しかしそんな都合のいい話があるか?」
「ですがここであってるはず……他に地下駐車場はないし……」
予想外のことに困惑しつつ、とにかく隅々まで見るしかないということで俺たちは地下駐車場をさらに観察していく。
車の間を歩きながら全体を見るだけじゃなく、壁際を舐めるように歩きながら、床や天井まで見落としがないように。
――俺と田茂は同時に足を止めた。
「これって……」
「ああ、中に入ってみなければいけないようだ」
地下駐車場の最奥で、壁が崩れていた。
そしてその奥には、まるで洞窟のように、先が見えないほど遠くまで続いている天然のトンネルが口を開いていた。




