行方不明
いつの間にか美容室には看板が作られ、門だけでなくマンション空間内まで華やかになっていた。予想外の変化に戸惑っていると、美容室の中から客が出てくる。
それは、田茂だった。
「おお、九重か。美容室はとても評判がいい、自警団の皆も大喜びだ」
「それはよかった、作ったかいがあります。それについて訊きたいことがあるんですけど」
「なんだ?」
「この花とか看板とか、俺がやったんじゃないんです。田茂さん何か知ってますか?」
「ああ、そのことか。それは自警団のものがやったんだ」
自警団のものが?
「ああ、美容室なんてこの世界じゃ初めてのことだろう?」
「それはそうでしょうね」
「美容室に限らず、まともな店、まともな建物がない。そこにこんなものを見つけたせいでテンションがどうにも上がってしまったんだ。どうせなら、きれいにしようと皆張り切ってしまったようでね」
それで、小学校の花壇に残っていた花を持ってきて飾り付けたり、周囲の探索で見つけたペンキを使って看板を作ったりして、美容室をより豪華にしたということらしい。
「勝手なことをしてしまってすまない。だが、いい眺めだろう?」
「ええ、知らないうちにきれいになっていて嬉しいです。ところで、看板の美容室の名前も考えたのですか?」
「いや、それはそちらの人が名前を知ってるんじゃないかと思って聞いたんだ。たしか……雪代さん、という人だったかな」
雪代、そんなことをいつの間にかしていたのか。しれっと美容室の名前を決めている。
まあ、名前なんて元々つけてなかったからなんでもいいのだが。
マジック――マホウで作った美容室だからってことだろうな。なかなかに安易だ。
ともあれ事情はわかった。
「そんなことをしてくれる程に気に入ってもらえたらよかった。開店したかいがありますよ」
「ああ、本当に皆喜んでいる。ありがとう、君と君のマホウに感謝だ」
田茂が俺に手を差し出してくる。
俺はその手を取り、田茂とガッチリと握手をした。
自警団の人達との絆ができたことを感じる。
これまで俺たちだけでは知らなかったことを情報収集などできるかもしれない。何かしらのコラボをして世界を広げられることも今ならできそうだ。
「あっ! ここにいたのですか!」
その時、門から第二マンション空間に一人の女が駆け込んできた。
「どうしたというんだ坂上」
肩で息をしながら、坂上と呼ばれた大柄な女は田茂に訴える。
「山根さん達がかえってこないんです!」
山根? 聞き覚えがあるような……。
ああ、そうだ。
前に南の奴らと自警団の戦いの時に、毒で苦しんでた男だ。
日出が彼の毒を治してそれで自警団から俺たちが警戒されなくなったので、ある意味では架け橋でもある。
田茂が眉間に皺を寄せた。
「山根達が? どういうことだ?」
「何人かで魔石を取りに行ったじゃないですか。少し遠いから遅くなるとは言ってたけど、さすがに遅すぎて何かあったんじゃないかって」
「出発してから何時間経つ?」
「もう24時間以上過ぎました」
田茂は眉間の皺をさらに深くし、指でぎゅぎゅ、と揉んでいる。
「まずいなそれは……」
「山根さんって、俺も会ったことありますよね。彼がどうしたんですか」
「探索に出たまま帰ってこないらしい。昨日出て、夜を明かした……夜に無理矢理廃墟を進み帰ろうとするよりは安全な所で朝を待つ方が良いから、それ自体は場合によってはしかたないということで許容している。だが、明るくなったら速やかに戻ることになっている」
「だけど今日になっても戻って来ない。何かあったかもしれない」
田茂は渋い顔で頷き、やってきた女に視線を向けた。
「どこにいったかはわかるか?」
「はい、魔石がたくさんある場所を見つけたと言っていたんです。最近、この近くの魔石が少なくなっているじゃないですか。美容室に使う人も増えたし、それに……」
「美容室で魔石を使うことで、魔石の価値が我々の中で高まった。今後も何かに使えるかもしれない、と考えるものが増えて、またマホウの可能性を見てさらに力を磨こうと考えるものも出てきたのだ」
その台詞は、俺に向けて言っているようだった。
自警団の人達は魔石での強化を今ではもうあまりやっていなくて、それより生活物資を探すことを重視している。と以前俺に話したのに、なぜ今魔石を探してるのか疑問に思っていることを先読みしたようだ。
……俺達の責任なのか?
いやそこまで責任を取るのは無理だ。が、しかし……。
「ということは、山根さんが消息を絶った場所……つまり向かう予定だった場所は、魔石が豊富にある場所ということですか?」
駆けてきた女が答える。
「はい。深い色の魔石が多くある場所を見つけたけれど、魔獣の姿もあり、その時は一人だったこともありあらためて複数人で行ったんです」
魔石の豊かな場所……大勢であらためて行くほどたくさんある、か。
「探しに行くなら、俺も協力します」
二人の自警団は驚いた顔でこちらを見た。
「困った時はお互い様です」
「だが、危険な場所なのに君を巻き込むわけには――」
「巻き込む、というか俺もそこに行ってみたいんですよ。危険を冒してまで行くほど質のいい魔石がたくさんある場所に」
単純に魔石がたくさん手に入るのは嬉しいし、場合によっては美容室に引き続き新たな店舗を作れるかもしれない。
もしかしたら……第二マンションに使ってなくなった星魔石が再び手に入る可能性も。
そういう期待をしていた。
だが、田茂は……
「そうか……ならばありがたく申し出を受けよう、仲間の危機だ。わざわざ我々に気を使わせないようにしてくれたこと感謝する」
俺は本心で魔石が欲しい、むしろそっちが真の目的なくらいなのだが、田茂はいいように解釈してくれたようだ。
それならそれで、欲深いと思われずに済むのであえて誤解をとかなくてもいいだろう。
「では行きましょう。消息不明から時間が経っているなら早くした方がいい」
「ああ、そうだな。山根はどこにいるんだ?」
女自警団は、手書きの地図を背負っていた袋から取り出して俺たちにむかって開き、その中の一点を指差した。
「ここです、この【地下駐車場】に行くと山根さんは言っていました」




