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青の影

 群青色の人型のシルエットが俺の家の玄関先にいる。

 整体を頼んですぐ来たってことは……これが、整体してくれるのか……?


「どうぞ……」


 試しにそう言ってみると、家の中に上がってきた。

 リビングに行く俺のあとをおとなしく着いてくる。暴れたりはしないので、正体不明だがとりあえずは安全そうだ。


 そしてリビングに来ると。


「……文字?」


 群青色の頭を、文字が右から左へが回転するようにスライドしながら表示された。


『整体のために使用するベッドを指定してください』


 音声はないけれど、会話はできるようだ。

 しかしベッドはないんだよな、うち。

 ベッドは高いから最初に布団を買って、それをずっと使ってるから。


「布団でもいいですか?」

『可能です。布団を指定してください』


 可能らしい。

 寝室に行って布団を広げると、『うつ伏せになって寝てください』と指示が来た。


 指示に従ってうつ伏せになろうとすると、『特にこっているところはありますか』と表示が出る。


「ふくらはぎとか、あとは足はだいたい疲れてます」

『承知いたしました。よろしくお願いします』


 そしてマッサージが始まった。

 

 だが、これは。


 気持ちいいな……。


 見た目が謎すぎるから警戒していたが、普通にもみほぐしはうまい。

 パンパンに張っていたふくらはぎが柔らかくなっていくのが実感できる。


「うぐぐぐぐ……!」


 さらに足つぼマッサージまで完備だった。

 痛いけど、多分効いてる気がする。


 そして規定の時間がすぎるころには、体の凝りはすっかりほぐれていた。


 思ったよりずっとちゃんとしていた。

 これなら全然遠慮せず使って良さそうだ。


 仕事を終えると、群青色のシルエットマンは玄関へと移動していく。

『ご利用ありがとうございました』と表示しながら。


「今日はありがとうございました」と言いつつドアを開けると、出て行った。

 ……少し気になってそのまま見ていると、廊下の途中ですうっと色が薄れていき半透明になり消えていった。


 どこから来るのかと思ったけれど、そういう仕組みなのか。

 マンションの妖精みたいな、そんな感じの存在なのかな。

 仕事の時だけ生成されて、仕事が終わるとマンションに還っていく。

 こんなことまでできるなんて、マンションのことはだいたいわかってきたつもりだったけど、まだまだ俺の理解は浅かったようだ。


 マンション、底知れない。


 そして整体、すごく効いた。




 マンションの新たな可能性を体験し、体も元気になったので、ますます魔石集めに精を出そうという気持ちになった。

 とりあえず、明日からも遠征していこう。

 これで軽々と魔石がたくさん稼げるのだから、今はこれを擦り続ける。いける限りやる、これが勝利の鉄則。


 そして翌日、天音が待ち合わせの時間に来ると。

 あれ? これは?


「髪切った?」

「絶妙に古い反応ね」


 天音が髪を切っていた。これはまさか。


「誰が切ったと思う?」

「群青色のシルエットマン」


 天音は驚いた様子で。


「もしかして九重くんも使ったの? その割には……あんまり切ってる感じしないけど、毛先だけ1mm切ったとか? 意外に細かいおしゃれに気を使うのね」

「どう考えてもそういうタイプじゃないだろう俺は。整体頼んだんだよ、疲れをとって探索に困らないようにするために。そしたら来たんだよ、青い奴が」

「そう、ブルーマンが来るのよ。なーんだ、天音が一番最初に気付いたのかとだけかと思って教えてあげようと思ってたのに。それにしても変な奴よね。腕は悪くなかったけど」

「ああ、それは同意。マンションにあんな機能があるというのも驚いた」

「本当に。というか、九重くん自分の能力のわりに本当に全然知らないことだらけなのね」


 それは本当にそうだ。

 住民と視点はほぼ同じ。

 これから何が起きるかもまったく予想がつかない。

 しかし散髪や整体までできるとなると、もうマンションにできないことがあると思わない方がよさそうだ。なんでもあり得る。


「もっと魔石を集めたら、とてつもないことができるようになるかもしれないな。さあ、それじゃあ行こうか」


 俺たちは今日も遠征に出かけた。




 数日経つと、マンション住民達は新たな通販機能に気付き、それを利用し始めた。

 住民達の髪型が決まっているので、それで使ったのだなということはよくわかった。


 聞いた話によるとベランダで髪を切って、切った髪は箒で掃いて掃除したらしい。美容室ほどじゃなくとも、それでも自分でやるよりは全然よくできるだろうな。


 そして新たな通販が出て、そして部屋の改造という要素も出てきた。

 となると、一度みんなで話し合いをした方がいいのかもしれない。部屋の改造とか、外壁の塗装とか、あるいは以前作った家庭菜園の拡張や木々や花壇のパワーアップなど、色々やりたい人もいるかもしれない。


 そこで、掲示板に会議の日程を書いておいた。


 明後日の午前10時から。場所は外の芝生の上。

 会議室みたいなものがあれば便利なんだが、マンションに備え付けられてはいないからしかたない。

 ちょうどいい気候だし、たまには芝生の感触を楽しむのもいいだろう。


 そしてやってきた明後日午前10時。

 マンションの裏の芝生には住民全員が集合していた。


「全員集まってくれるとはやる気満々で嬉しいな」

「ものすごく久しぶりの会議だからねー。色々積もる話もある……ような、ないような。まあ、どっちにしろ予定なんてあってないようなものだしね」


 雪代の言うとおり。

 昔と違って何月何日に何をするなんて用事はない世の中だ。


「それで、マンション全体で何かやるってことなんだよね? なんか色々できるんだろう?」


 橘が早口で言った。

 この前はいなかったんだな、そういえば。

 橘以外も前回の会議の時にいなかった人はいるので、まず同じように説明をする。


 とりあえず前回にも言ったように、マンション全体に関わるようなことで何をやるかを話して、それで決まったらみんなでMPを均等に出し合う。

 ということと、前の会議でこの芝生にある木々や、家庭菜園などが作られたということを説明。


 今回もみんなでMPかあるいは人手を出し合ってやるようなことを話し合いたい。

 特に前の会議の時にはなかった、『マンション管理メニュー』『サービス通販』『サービス通販用部屋割り当て』などについて、色々意見のある人もいるだろう。


「というわけで、まず何か意見のある人はいますか?」


 俺が声をかけると、真っ先に手を挙げたのは、雪代だった。

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― 新着の感想 ―
その内自我に目覚めそうなマンションだな、汚部屋とかにすると追い出されそう。
大人とはとても思えない、まるで小学校のホームルームみたい。 崩壊世界と云うより、町内会の茶飲み話みたいな平和が続くんだね? 令和の時代だな…。
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