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西へ4km

 西へ西へと俺と天音は歩いて行く。

 マンションの西方面は住宅街となっているが、フロントガラスがホコリまみれになった車の脇を通り抜け、崩れた色とりどりの屋根瓦を踏み越え、進んで行く。


 途中、魔石も目に入ったら回収していく。

 拾っても魔法の鞄にいれれば邪魔にはならないから、目的が他にあってもついでに取れるのはいい。こういうチリツモが半年後に差をつけるのだ。


 ずっと西へと進んでいくと、住宅街は戸建てからアパートやマンションが多い景色になってきた。一部には形を保ってるアパートなどもあるが、中に入っての調査まではしなくていいだろう。


 形を保っているとはいえ、窓枠が歪みガラスが全て割れているアパートを通り過ぎる時、チューチューと鳴き声が聞こえてきた。

 と思うやいなや、割れた窓からネズミが走って出てきて、俺たちの前を横切って去って行った。


 なんとなく目で追うと、ネズミが走り去った方向に地面に穴が開いているのを発見した。しばらく穴を見ていると、モグラが鼻をヒクヒクさせてすぐ引っ込めたのが見えた。


「結構動物いるみたい?」

「かもな。蜂の巣もあったし」

「崩壊直後よりもよく見るようになってきた気がするわね」


 言われてみると、最初の頃よりは多く姿を見る気がする。

 世界崩壊からもう何ヶ月も経ってきて生態系が蘇ってきているのかもしれないな。


 しかし生き残った人間はマホウが使えるようになったけど、動物はどうなんだろう。

 ネズミもモグラも特に何もマホウを使ってそうな様子はなかったけれど、ぜひ使えないままでいて欲しいな。


 魔獣や人間が特殊な力で暴れてるのに、この上ネズミや蜂までマホウで暴れたら困るなんてもんじゃない。蜂なんて巣でも魔獣並に厄介だというのに。

 そのままの君でいて、というやつだ。


 さらに進んで行くと、田んぼが見えてきた。

 なるほど動物が多く感じたのはこのせいかもしれない。


 もうマンションから3~4kmほど歩いただろうか。

 田んぼが何枚も広がっていて、もちろん今は稲穂はないが、最近は崩れた建物ばかり見ていたことからしたら、ずいぶん平和な風景を目にした気がした。


「すっごい開放感ね」

「ああ。ガレキや割れたガラスやら壊れた自動車やら、そんなものでいっぱいになったところばかり歩いてたからな。田んぼは田んぼだ。そのままの地面だ」


 俺たちは両手を上げて伸びを一つしてから、水の入っていない田んぼの上を歩いて進んで行った。


 前後左右が開けてるところを歩くと、本当に気分がいい。

 空も広く高く見える。

 これだけでも遠征してきてよかったと思えるくらいに。


 広々した田んぼを歩いて行くと、その脇を流れる用水路があった。

 用水路には今でも水が流れていて、田んぼにそうようにしてコンクリートで舗装された水路を水が流れている。


 さらさらという穏やかな音に耳を撫でられていると、その中に妙な音が混ざっていることに気付いた。

 時折鉄琴を鳴らすようなポーンという高音がせせらぎに混じって聞こえてくる。


「天音、聞こえるか?」

「ええ、何か鳴ってるわね」


 音を辿って用水路を下っていくと、正体はすぐにわかった。


 用水路の中に魔石の塊があり、それに水がぶつかるときに、楽器のような音を奏でていたのだ。


「魔石ってこんな音するの?」

「ガラスに水がうまく当たるといい音がするみたいな感じかな。これからは“音”も魔石の手がかりにしていったほうがいいのかもな」


 ともあれ、結構な塊を発見したので、ありがたく魔石を回収することにした。


 こんなこともあろうかと、雨合羽と長靴も持ってきていたのだ。

 正直言うといらないだろうと思っていたけれど、でも魔法の鞄なら持っていったところでどうせ負担にはならないので入れてきた。


 これが普通のバックパックなら、荷物になるから持ってこなかったので、やはり魔法の鞄は正義ということがわかる。


 防水をして用水路の中に入り、魔石の塊を砕いて用水路から剥がす。

 水量は少ないが、念のためロープを腰に巻いて天音に持ってもらいながら、しばらくやると、結構な量の魔石がとれた。


 濡れた魔石と雨具を魔法の鞄に入れるが、これは濡れていても一緒に入れているものは濡れないことは実験済みだ。そこもまたありがたい。


「思わぬところで魔石が結構とれたな。こんな大きくて色も深いのが残ってるなんて、遠征したかいがある」

「うん。でも九重くん、まだありそうかも」

「え?」

「水じゃなくて、あっち。ほら、地面がうっすら光ってるように見えない?」


 天音が指差したのは、いくつも広がる田んぼの一枚。

 その中央当たりを目を細めて見ると、たしかに地面の茶色を貫通して青っぽく見えるような気がしなくもない。


 その場に近寄って、腰を折って顔を地面に近づけて見つめてみたら、やはり青い。

 太陽の光を体で遮るとわからなくなる程度の光りかただけど、たしかに青く見える。


「これって、つまり地面に埋まってるってことよね」

「そういうことになるな……やるしかない」


 俺たちは持ってきたショベルを地面に突き立てた。




 ショベルのブレード部分に足をかけて体重をかけ、硬い土を掘り起こしていく。

 二人がかりでひたすら掘って掘って掘り抜いていくと、


「見て! 見えた!」


 茶色い土の中から濃い青紫色の結晶の先端が頭をのぞかせた。


「結構……かかったな」


 積み上げられた土の山を見ながら俺は呟く。

 これがすなわち掘った土の深さ。

 2m近く掘ったんじゃないか。天音のリプレイで二倍速で穴を掘れるとは言え、結構大変だった。


「ええ、疲れた。あとはこれを掘り出せば終わりね。それもまあまあ大変そうだけど」


 実際魔石の塊もかなりの大きさだったので、そこからさらに掘る必要があり大変だった。だがしかし、モノが見えていると気分的には楽になる。

 これまでよりハイペースで作業を進め、魔石を掘り出した。


「だいぶ大きいなこれ」

「しかも色も濃い。こんな美味しいのが丸々残ってるなんて、やっぱりこの辺って誰も足を踏み入れてなさそうね」

「ああ。遠くまで来てみて正解だった」


 気付くと結構長いこと作業をしていたようで、朝早めに出たのにもう昼過ぎになっている。とりあえず、いったん休憩して、続きは昼ご飯を食べてからということに。


「ところでさあ、九重くん」

「ん? 何?」


 唐揚げを箸で掴みつつ返事をすると、天音は。


「通販で色々買えるけど、整体とかってないの?」

「……はあ?」

「整体よ、整体。私肩こりやすいから結構いってたんだけど、こうなってから行けてないから体がバキバキなの。どうにかしてくれない」

「どうにもならないだろ、さすがに。通販で買えるもんじゃないんだから」

「じゃあ整体師の住民をスカウトするしかないわね。いるはずでしょどこかには」

「そりゃどこかにはいるだろうけど。どこにいるかわからない人を探すより、マッサージチェアでも買えばいいんじゃないか? それなら通販でもあると思うけど」

「え~……チェアじゃあ人間の技術には及ばないのよね。それにマッサージチェア高いし」

「ちょうど魔石を遠征でたくさんとれたからいいタイミングだと思わないか?」

「くっ……これを即使えと? うーん……」


 天音の表情にはもったいないなあという気持ちがありありと出ている。

 それにしてもマッサージチェアか。たしかにそれもアリだな。肩は俺はそんなでもないが、毎日歩き回るから足は結構張っている。

 だが絶対高いよなマッサージチェアなんて。


「今日の遠征で大量に稼げれば、迷わず買えるかもな。そのためにもそろそろ行こう、午後はもう少し遠くまで見てみないか」

「そうね。魔石の山を期待するわ」


 そして俺たちは、さらに西へと歩を進めた。

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― 新着の感想 ―
用水路の魔石に関する情報、魔石が水にぶつかって鉄琴のような音がするを共有するなら、スマホで写真なり動画なり撮っていればいいのにと思ふ。危ない場所とか生き物とかもそうですが。
魔石、魔法の鞄は「魔法」なのに、何故「マホウ」に拘るの? 「その中央当たりを…」→「その中央辺りに…」では? マッサージチェアなんだから、電気の量販店に行けば有るのでは? 高性能な「魔ッサージチェア」…
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