表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/57

鞄の効能100選

 音楽を生活に取り入れたのが予想以上によかったので、俺は次に本を通販で購入した。

 これも音楽と同じく、聞いたことのないタイトルの本ばかりで、著者名もないものだった。ということはマンションが執筆したんだろう。

 マンションも本を書く時代、すごい時代になったものだ。


 これもまあそれなりには楽しめた、音楽と同じように。

 とはいえ音楽と同じように、自分の好きな作家が書いた本の方がやっぱり面白かったな。

 人間はマンションに負けてない。


 音楽や本に手を出してあらためて思った。

 やはり娯楽は生活に必要だと。

 町が廃墟になるような状況だからすっかり忘れていたが、あるとなしとでは人生の潤いが変わってくる。


 基本的な生活には苦労しなくなってきた今、いよいよ娯楽についてもかつてと同じように楽しめる生活を手にしたい。


 かつての娯楽といえば動画、SNS、スポーツ、ゲーム、カラオケ、映画、テーマパーク、体験型の施設……。


 さすがにマンションの外でやるものは難しそうだが、部屋の中でできるものは徐々に復活させていきたいな。


「そのためには、この魔法の鞄で魔石集めが近道だ」


 全ての道は魔石に通ず。

 これまでと同じように魔石を集めていくが、魔法の鞄の効果は単にこれまでと同じことが軽々できる以上のものがあった。


「おっ、やっぱりこれは残ってたか」


 それは、マンションから比較的近い場所に残っている、うまみの少ない魔石も回収できることだ。

 俺の前にある折れた電柱から伸びている魔石は、青紫色が薄く、白っぽい。魔石は同じサイズでも色が濃いほどMPがたくさん手に入り、つまり逆に薄いと少ししか手に入らない。


 大きくて色の薄い魔石は、重くてかさばるだけで実入りが少ないので皆敬遠してる。

 しかし、そんなものでも魔法の鞄があれば重くもかさばりもしなくなるため、MP源として合格の水準になるのだ。


 マンションの住民が魔石を見つけ次第とって生活の糧にしていったため、もうおおよそマンションの半径1kmには良質な魔石はほとんど残っていないのだが、こういった薄い魔石はマンションの近くに結構残っているので、おいしくいただくことができる。


「あら? 九重くん、ずいぶん効率悪い魔石を集めてるのね」


 とその時、白く大きな魔石を電柱から採取している俺に声がかけられた。


 振り返るとそこには、腕組みしながらこちらを見ている天音の姿が。


「効率が悪かったのは昔の話。今では貴重なMP源です」

「へえー。それは残念ね」

「残念? どういうことだ?」


 返事をしつつ、俺は天音がバックパックを背負っていないことに気付いた。

 今では外に出る時は全員がマストになっているのに、それがないということはつまり。


「天音も魔法の鞄を買ったのか」

「ええ、九重くんもみたいね。こういう魔石を独り占めできると思ってたのに、思わぬライバル登場ね」

「こっちが言いたいなその台詞」


 うまみに気付いたのは俺だけではなかったか。

 まあしかたがない、魔法の鞄は魅力的だからな、生活に余裕ができれば他の住民も手を出してくるのは必然だ。


「ただ持ち運びが便利なだけじゃなくて、今まで活用出来なかった魔石が活用出来るようになるっていうのは意外だったわ」

「同感だ。荷物を多く運べるっていうのは、単にそれ以上の意味があると知ったよ」

「だったら、他にも何かあると思わない?」

「他に?」


 この大量にものを持ち運べるってことを利用してか?

 魔石を多く持ち帰ることができるが、それはもうやっている。

 これまで手をつけてなかった魔石の活用。こっちか?


 これまで手をつけてなかった、つけられなかった部分の活用。


「………………遠征か!」

「大正解! 魔石を満載して遠くから帰ってくるのがしんどいからあんまり遠くには行きたくなかったでしょ? これまでは」

「魔石以外の物資を見つけた場合もだな。家電を何キロも徒歩で持ち帰るのは辛いものがある」

「そうよ、しかし今の天音達にはもうそんな心配は無用。どれだけ遠くに行っても手ぶらで帰ってこれる。一気に何キロも遠くに行くのも手ってわけ」


 たしかに、遠くに行けば手つかずの魔石、それに魔石だけではなく物資もあるだろう。そこを攻めればかなり美味しそうだ。


「たしかに、それはいい案だな」

「でしょう? でも一つ不安要素があって、マンションから離れたところがどうなってるかは天音達は知らない」

「予想外の危険があるかもしれないと」

「そうそう、だからちょうどよかった、九重くんも魔法の鞄もってて。一人で行くより二人でいく方が何かあった時安全でしょ? 一緒に遠征、行かない?」




 翌日朝、魔法の鞄に俺は道具を詰めていた。

 軍手、ロープ、紐、養生テープ、ショベル、ヘルメット、消防斧、その他色々と。


 日出に聞いた話だが、消防斧というものがあると障害物を破壊するのに役立つらしい。なんでも非常時に扉や壁をぶち破るための道具だとか。

 それだけ破壊力があるなら、ガレキを破壊するとか、まだ無事な建物に侵入した時とか、そういう場合に役立ちそうだと思い持っていくことにした。


 大きくて重いが、今なら苦もなく持って行ける。

 戦利品を持ち帰りやすいだけではなく、道具をマンションから持って行きやすいというのも可能性が広がるところだ。


 マンションの門の前で天音と待ち合わせて、二人で初の遠くへの遠征へと俺たちは出発した。

 向かうのは西。はるか西だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
崩壊世界だからなのか、他に登場する人や魔物が殆ど出て来ない。 崩壊以前の人口や人口密度はどのくらいだったんだろう? 偽装用のリュックサックを持たずに遠征したら、他の人に出会った時に不審がられて狙われや…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ