特別任務:マンションの魔石をGETせよ!
アンドラスはエントランスに出て地図を指差した。
・マンション。大量の魔石がありそうですが、倒壊の恐れがあります。
地図の書き込みの中の、そう書かれた部分。
見れば俺も思い出した、そういえばこんなことも地図に書いてあったと。
「あー、マンションってそういうこと! うちに埋蔵金でもあるのかと思ったよ」
「ふふ、それなら良かったのですが、残念ながら別のマンションでございます。お話を聞いたり、少し周囲を下見したりして、判明している中ではここが一番魔石が多そうかと」
「へー、アンドラスさんやるねえ。さすがガチャSSRの男」
雪代は俺の方に顔を向けて続ける。
「だったら行こうよ、九重さんも行くでしょ? もちろん?」
「ああ、アンドラスの言うことなら信用できる。しかし、倒壊の恐れって書いてあるが」
「自分が考慮しているのは、魔石の量だけですので」
微笑みを崩さないアンドラス。
どうやって魔石をそこから回収するかは、行ってから考えるしかないようだ。
「何はともあれ行ってみよう。それじゃあ明日の朝、このマンションへ出発だ」
翌朝、俺と雪代とアンドラスの三人で、マンションを発った。
向かうのはここから南西にある倒壊しかけのマンション。
南と聞くと少し気になることもあるが、とはいえ国道沿いにあるマンションではないし、問題はないだろう。
俺たちは南西に向けてしばらく歩いて行く。
1時間弱で例のマンションにたどり着いた。ほとんどの建物がなくなっているおかげで、背の高いマンションは目立つので、道には迷わない。こんな世の中にいもある、良いことのうちの一つだな。
「これが魔石マンションなんだね。んー、たしかに魔石! って感じ」
マンションを見上げて雪代が言うのもわかる姿をマンションはしていた。
このマンションは全体的に青く発光している。
壁には魔石がへばりついているし、むしろ壁の一部が青紫の魔石になっている。窓の中からは青い光が見えるし、むしろ普通の壁や通路まで青っぽく光っている。
これだけマンション全体が青いなら、そこにある魔石の量も相当ということだ。
たしかに、アンドラスがここに目を付けたのもわかる。
「魔石は本当にたっぷりとありそうだな。あとはこれをどう回収するかだが――」
「お二人とも、お下がりください」
アンドラスが突然言い、俺たちは後に飛び退いた。
直後、魔石マンションの一角が崩れ、ガレキが上から降り注いできた。
「あっぶなっ!」
「崩落寸前ってのは本当らしい」
雪代と俺は砕けた外壁の欠片に視線を落とし、それあg落ちてきた場所に視線を上げる。
「迂闊に近付いたら危ないよね、絶対」
「ああ、中に入って色々とってこれたら一番だけど、その間に崩れたらと思うとな」
「そうだよねえ。でも、世界の異変が起きてから何ヶ月もたって崩れてないんだから案外大丈夫かもよ?」
「それも一理ある。でも、誰も入ってないからかもしれない。刺激を加えた瞬間、ドカンと行くこともありうる」
「でも、じゃあどうするの?」
そう、どうするかを考えなければならない。
俺の中級魔道師の杖を使うか?
前みたいに傘にしていれば上からガレキが落ちてきても……って、下が崩れたらそれもダメだな。
「そうだなー」雪代が手を打つ。「それなら、私がサイコキネシスで取っていくのが一番かな? 前みたいに」
「中に入らないで済むしそれが安パイか。頼んだ雪代」
「おまかせあれ!」
雪代がマンションに向かって両手を伸ばして、ぐうっと力を入れる。
下の方にある壁に張り付いている魔石がゆっくりと剥がれ、こちらまで宙を飛んできて、俺の腕におさまった。
「ナイスキャッチ!」
「この作戦で魔石とれるみたいだな」
「うん、どんどん取っていっちゃうよー」
雪代はさらに魔石をサイコキネシスで取っていく。
「ぬうううううう……!」
次に狙った魔石がぐらぐらしている。……が、なかなかとれない。
「どうかした?」
「はぁーはぁー、しっかりくっついてると大変なんだよ。ほらあれ、超かったい瓶の蓋開けようとしてる時みたいな感じ……ぬうううん! っっっとれた!」
勢いよくすっぽぬけるように、スイカ大の魔石が壁から剥がれて飛んで来た。
「って、勢いよすぎだ! 盾!」
剥がれたはいいが、飛んでくる勢いが強すぎる。
この勢いはキャッチするのは無理、すかさず魔道師の杖で盾を作って跳ね返した。
魔石はどさりと地面に落ちて砂煙を上げる。
「ふぅぅ……危ないって」
「あはは、ごめんごめん。でもしかたないんだよ、みっちりくっついてるんだもん。結構しんどいしさぁ。じゃ、次行こうかな、油断しないでね、九重さん」
にぃっと笑い、再び力を使う雪代。
ああ、杖は常に構えておくよ。
「っはぁー……っはぁー……もう、無理!」
十数分後、雪代は地べたに足を伸ばして息を切らしていた。
その周りには魔石があるが、しかしまだまだマンションには魔石がたくさん残っている。
「まだたくさん残ってるけど」
「残ってるけど? じゃーないでしょうが! あのね、マホウ使うのも疲れるんですが。もうマラソン大会並にゼーゼー言ってるの私は。たまに杖ぽーんってやるだけの九重さんとは違うんだからね」
「悪かったって、冗談だよ。……しかし、これだと一生とりきれないな」
ここの魔石はマンションにしっかりと結合していて剥がすのに力を使いすぎるらしい。雪代は消耗し、魔石を取るには時間がかかり、まだまだマンションに大量に残っている。
とはいえこれ以上作業を続けるのはヘトヘトで無理そうだし、休んで回復するのを待って、またとってまた休んで……の繰り返しではいつまでかかることやらだな。他のところ探索した方がマシという可能性もありうる。
こうなると別の手段を考えた方がよさそうだが、何かいい手は……。
「………………ぁっ!! アンドラス、この魔石に火の玉投げてみてくれないか?」
回収した魔石のうちの一つを、離れたところに運んでいき指差した。
「魔石に火の玉を? もちろんかまいませんが――」
「アンドラスさんって、そんなことできるの?」
「ああ、前に見せてもらった。アンドラスはパイロマンサー……炎を出すマホウを使えるんだ。それをこの魔石に撃ってみて欲しい」
巻き込まれないように魔石から距離をとって、合図をする。
「いいのですか? 魔石が燃えて使い物にならなくなるのでは?」
「それを確かめたいんだ。魔石が火に強いか弱いか。もし強かったら、一気にここの魔石を取れるかもしれない」
「え!? なんかいい作戦思いついたの!?」
「そういうことでしたら、やらせていただくしかありませんね。いきます」
アンドラスの左手に火の玉が出現し、それを魔石に向かって投げつけた。
魔石にあたった火の玉はしばしの間魔石を炎上させ、そして炎が消えたあと魔石はどうなったかというと……。
「無事、っぽい?」
雪代の言う通り、魔石は赤く変色しているが、壊れてはいない。その赤味も時間と共に薄れていき、元の青紫色の輝きを取り戻した。
「どうやら、熱には強いようですね」
「ほっとした。これで壊れたりしたら、思いついたことが台無しだったからな」
「それで、それで? どうするの? このマンションの魔石を一気に取る作戦って」
俺は冷えた魔石を手に取りながら、マンションを指差して言った。
「このマンションを……焼く!」