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悪魔(特技:掃除)


 ガチャの大当たりを引いたら出てきた悪魔の執事、アンドラスは共用部の掃除をしていた。二階廊下を掃除した後は、階段も掃き掃除をしてゴミを取り除き、さらにきちんと絞った濡れモップでごしごし擦って汚れも落とすという丁寧な仕事ぶり。


 俺たちは掃き掃除しかしてなかったので、それよりずっと良い仕事だ。

 みるみるうちに綺麗な色、最初の頃のマンションに戻っていく。


 それが全部の階層で終わると、次は雑草をむしってもらう。

 燕尾服でやるのはどう考えてもやりづらいと思うのだが、しかし動きづらそうな様子も無くテキパキと草をむしっていき、マンションの庭も綺麗になった。


 さらにこちらが頼まずとも、石畳の掃除もしはじめた。

 見た目が悪魔なだけで実は道具ってこともなさそうだなやっぱり。自分で考えて動けるんだから。


「あらー! きれいに掃除してくれてるわねー、ありがとうねえ。新しい住民さん? 入ったばかりで掃除なんてしてもらっちゃって悪いわねえ」


 ちょうどそこに橘が門から入ってきてアンドラスの掃除する様子に感嘆の声をあげた。俺が事情を説明すると。


「あらあらまあまあ、おばちゃんにはよくわからないけど、すごいことがあるのねえ。とにかく、アンドラスくん掃除してくれてありがとうね、助かるわあ」


 と非常に嬉しそうに言っていた。


 アンドラスはというと、


「住民の方からも歓迎されたようでよかったです。ところで、自分は普段どこにいればよいでしょうか?」


 そういえばその問題があったか。

 住民扱いでいいのだろうか? と考えている俺の心を読んだように、


「自分は部屋に住む必要はありませんよ、新しい住民のために残しておいてください。……そうですね。エントランスに管理人室が受付を兼用してありましたね、そこが誰もいなかったようですので、使わせていただければちょうどよいかと」


 ああ、たしかにあの部屋は空いていた。

 別に来訪者もないし、管理人が必要ってこともないから開けていたけど、住民にならない人が居る場所ならおあつらえ向きかもしれないな。


「アンドラスがそれでいいなら、そこにいてくれれば。色々マンションの手入れをするなら管理人室はまさにぴったりだ」

「ありがとうございます。それでは、私にご用命の際には、エントランスから呼び鈴を鳴らしていただけたらと」


 掃除用具を持って管理人室へと入っていくアンドラス。

 こうして、俺たちのマンションに悪魔の管理人が新たに加わった。




 アンドラス管理人の話はその日のうちにはマンション中に広まり、皆がアンドラスの働きぶりに感銘を受けていた。


 これで厄介なこともなくなったし、探索に集中できる。

 そう思って部屋で晩ご飯を食べていた時に、だが、妙なことに気がついた。


【管理費 -100MP】


 ふと見た端末にそんな表示が出ていたのだ。


「管理費? そんなもの今までなかったはずだが……」


 家賃とはまた別のもののようだ、俺が引かれてるわけだし。

 急にそんなものが出てくるなんていったいどういことだ……あ。


 急に変わったことと言ったら、思いつくのは一つしかない。俺は残りのご飯をかっこんで、管理人室へと走った。


「アンドラス、一つ聞きたいことがあるんだ」

「おや九重様ではありませんか、いかがいたしました」

「単刀直入に聞く。管理費を引かれるようになった原因って、もしかしてアンドラスか?」


 アンドラスは相変わらずの微笑を浮かべて、鷹揚に礼をした。


「ありがとうございます。おかげさまで潤っております」

「やっぱりそうなのか、タイミング的に他にないと思ったが」

「魔石から抽出されたエネルギーは自分のようなものにとっては何より価値があるものなのです。マンションの力によって現われた自分にとっての報酬が、管理費という名のMPということです」


 なるほどな。

 まさかアンドラスに仕事をしてもらうにはMPがかかると思わなかった。


 だが、清掃業者に外部委託してる料金だと思えば損ではないか。

 元の世界での相場は知らないが、マンションと周りをきれいにしてもらえてこれくらいの出費ならむしろリーズナブルだろう。


「理解した。まあ報酬は魂だと言われるよりはずっといいかな、大金をとられるわけではないし」

「ご安心を、MP分はきっちり働きますので。それが契約ですから」

「契約?」

「マンションとの契約でございます。どうかお気になさらずに」


 それについてはこれ以上は黙秘するようだったが、ともあれMPが減った事情はわかったので、俺は管理人室を後にして、他の住民にも説明した。


 他にもこのMPマイナスに気づき不思議に思ってた人はいたが、説明すると全員納得してくれた。

 皆で掃除や草抜きしたのがよかったのかもしれない。あれ結構大変だったからな、100MPでやってもらえるなら安いものだと俺以外も思ったようだ。


 しかしMPが報酬になる存在ってなんなのだろうか。

 魔獣は魔石の近くによくいるけれど、もしやアンドラスも似たような存在なのか。


「そういえば……異変が別の世界との接触によって生じていると昔、怪しい専門家が言っていたような記憶がある」


 もしかしたらアンドラスはその世界の住人なのかもしれない。そしてマンションのマホウの力でMPと引き換えに召喚契約を結んだ、みたいな。


 ……まあ、全部俺の妄想なわけだが。

 いずれにせよアンドラスが来て助かるのは間違いない。この管理人と末永く付き合っていこう。




 マンションの仕事から解放されMPの謎も解け、懸案がなくなったことだし、これで次にすべき探索のことを気兼ねなく考えられる。

 そのために俺はマンションのエントランスに来た。


「いい地図に仕上がってきたな」


 皆で書き込んだ地図を早速活用するチャンスだ。

 これを見て、どこを探索するのが一番いいかを考えよう。


「色々書き込まれたおかげで、次にどこに行くかマンション内で色々計画を建てられるようになったのはいいな。さてどこに行くか……」


 俺は地図に書き込まれた情報を見ていく。


・マンション。大量の魔石がありそうですが、倒壊の恐れがあります。


・ココアが反応。倉庫? でも魔獣がたくさん。


・川の中に魔石があったよ。でも流れが変だし水面エグい色に光っててヤバそう!


・この辺に無事な家電屋あり!


・災害時指定避難所。その時のためのものがあるかも。


・夕方に人影を見つけました。何か不気味だったので会わずに去って行きました。武器を

持っていました。


・ブルーホール! 謎!


・山? こんなとこにはなかったと思うんだけど?


 などなど、地図の各地に色々なことが書き込まれていた。


 これはどこから行くか悩むぞ。

 どれも興味深い情報で、何があるか確かめてみたくなる。

 しかし同時にはいけないからな、安全性と報酬とを秤にかけて決めなければならない。


 ………………。

 …………。

 ……。


「よし、決めた。俺が行くべきなのは、これだ」

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― 新着の感想 ―
主人公の思考が理解出来ない、アンドラスは悪魔なんだよね? なら、そのアンドラスには何が出来るのかを何故尋ねない? 話すかどうかは判らないけど、アンドラスの世界を知る事も崩壊世界の原因を知る為にも必要で…
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