二倍の活用
「この辺地図が埋まってないわね」
「ああ、東と北をメインに攻めてたからな」
「なるほどね。じゃあ、この西の住宅街のあたりを探索してもっと書き込めるようにしたらちょうどいいわね」
探索に持ってきている俺が元々書いていた持ち運びサイズの地図を、天音とともに見てどこに行くかを相談中。
目指す場所はマンションから西の方面にある住宅街のあたりだ。
あまり探索していなかったことには特に理由があるわけではない、単純に魔獣の東や公園の北に向かっていたので、西には行っていなかったというだけである。
危険を恐れて行ってなかったというような理由があったわけではないので、問題なく探索はできる場所だろう。
そしてしばらく歩き、住宅街にたどり着きしばらく探索し魔石もいくらか見つけた。
住宅街ということで、色々な屋根の色で少しだけ他のところよりカラフルだ。もちろん、屋根は崩れているのだけれど。
また戸建てだけでなくアパートやマンションも多く、そういった大きな建物があるところに隣接した道路は大量のガレキで道が埋まり塞がれている。
住宅街というのが、元々細い道が入り組んでいて行き止まりなども間々あるため、うねうねと蛇行しながら俺たちは進んで行った。
もちろん、崩れ去ったかつて建物だったガレキの上を歩けば道なんて関係なく直線最短距離で歩けるが、さすがにいつ崩れるかわからず、転倒の危険もあって危険だからな。急ぎの用事があるわけじゃないのだから、よほど遠回りにならない限りは安全に歩けることを優先してルートを選択していく。
ただ魔石の青紫の輝きを見つけた時は話は別。
ガレキの中にあろうと採りにいく。よほど危険ではない場合は。魔石でリスクをおかす分、歩くときはリスクを下げようということだ。
「この辺は案外魔石見つかるわね」
「魔石のよくとれる条件はいまだに謎だな。建物とセットになってることが多いけど、自然公園にすごい魔石もあったし」
「なんかあれよきっと。風水で地脈とかそういうのあるじゃない? あの自然公園はそういう系の場所だったのよ」
「そんなオカルトみたいな……ってマホウのある世界じゃ否定できないか」
実際そういう何かしらの魔石や魔力の流れとか、魔力がマグマみたいになってるとか、そういうのでもなきゃ説明つかない気がするし、今の世の中にはそういった要素が本当にあるんだろう、多分きっと。
「魔石は結構見つかるけど、物資は少ないわね」
「まあ、一般の住宅街だからな。もちろん普通の家にあるものはあっただろうけど、ガレキに埋もれて家が崩れて道具もぶっ壊れてる状態じゃ、無事に使えるものはほとんどない」
スーパーマーケットが懐かしい。
ああいうところがまた見つかれば、大量に物資を得られるだろう、できれば魔獣に荒らされてなければなお良い。
物資があればあるほど、MPも節約出来ることだし、またいずれ探しに行きたいところだ、ああいう場所を。
雑談しつつしばらく探索しているとお昼時になってきたので、休憩を取ることにした。
俺は持ってきた海苔弁を取り出し、天音はパンをリュックから取り出した。
「そんなちょっとでいいのか? 結構ガッツリ運動してるのに」
天音は頷き、タマゴパンを一口サイズに千切って口に放り込んだ。
燃費いいんだな、と思っていると天音の喉が動きパンを飲み込んだ。
「……え?」
と思った直後、天音の口元にパンが出現した。
再び手で千切ったわけでなく、突然一口サイズに千切られた状態のタマゴパンが出現し、口の中に勝手に入っていったのだ。
そして天音は驚くこともなく、そのパンを普通に食べた。
「…………天音ってミノタウロス?」
「反芻じゃないわよ!」
「いや冗談。じゃあ今のは……まさか、それも」
「そう、再現よ」
驚くべきことに、天音は食べることすらも再現できるのだ。
こんな少しでランチが足りる理由もわかった。
一個パンを食べれば再現を使って二個食べられるんだ、天音は。
「そんなことまで再現できるのか」
「ええ、便利でしょう? しかも見せかけだけじゃなくちゃんとお腹いっぱいになるし」
「さすがに驚いた。使い勝手良すぎるな」
「実際このマホウには助けられたわ」
「……そうか! 食料が実質二倍になるなら、マンションに来るまでのサバイバル中に食糧不足でも……」
「そういうことね。なかなか飲み物や食べ物は見つからないけど、天音なら見つけたものを実質二倍にできる。つまり半分の量で生きていけるから、それで生き延びれたってこと」
「なんでもありだな」
タマゴパンを頬張りながらピースをする天音。
さすが、だてにこの長期間一人で生き抜いてきてない。
「そういえば、天音はどの辺でサバイバルしてたんだ?」
「位置的に言うとマンションの南の方にいたわね」
「南か」
南――となり町へとずっと伸びる国道があるな。
国道沿いには飲食店やその他店舗も多い。
うまく物資が残っていればサバイバルには都合がいい場所だ。
「九重くんもこの辺に住んでた人? だったら、国道沿いに色々あるからって南にはいかない方がいいわよ」
「なんでだ?」
「……やばい奴らがいるのよ」
「ヤバい奴って?」
天音はペットボトルのミルクティーを二口飲んで、天を仰いだ。
「生き残った人間を奴隷にしてる奴らを見たの、国道を歩いてる時にね」
「奴隷だって……?」
「ええ。暴力を振るいながら、危険なガレキの下へ潜り込ませてたりこき使ってた。魔石が見つからなかったらって、ぶん殴ってたわね」
生き残った人間の中にそんな凶暴な奴らがいるのか。
俺たちもチンピラにはあったけど、それよりもだいぶ”ガチ”だな。
「大丈夫だったのか、天音は?」
「天音は結構離れたところでそれ見つけたからね。向こうが気付くより天音の方が先に気付いて、物陰に隠れて様子を見てたのよ。今思うと相当危なかった」
「……それで北へと向かってたんだな、俺たちと出会った時」
「そういうことね。他の場所で魔石探してれば不自由なく生活できるんだから、触らぬ神に祟り無しよ……あっ、帰ったら地図に書き込んでおきましょ」
あの異変を生きのびた仲間を奴隷にしてる奴らか……。
魔獣や魔力や蜂以外にも、この崩壊した世界には危険の種は尽きないらしいな。




