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蟻地獄と天音

 声のした方へと俺たちは向かっていった。

 無重力地帯や隆起した地面の合間を縫って行く間にも、


「くっ……なんとか外に……きゃっ……すべっ……!」


 同じ声が聞こえてきた。

 どういう状況かはわからないが、切羽詰まっていることは声からわかる。

 俺たちはさらに足を早め、隆起した地面の角を曲がると、


「なにこれ!? 蟻地獄!?」

「ずいぶん大きいな」


 そこには巨大な流砂が口を開けていた。

 地面が直径10メートルほどもすり鉢状になっていて、足を踏み入れたものを中に引き摺り込む形をしている。

 もちろん元の公園には流砂なんてない。あってたまるかという話だが。


 そして、その流砂の中央まで半分ほど吸い込まれたところに……


「あっ、誰か来たっ! お願い助け……えっ、あんた達!?」

「やっぱり、さっきの女の人!」


 天音が、焦げ茶色のゆるいウェーブの髪を必死に振り乱しながら、蟻地獄に呑み込まれかけていた。


 すり鉢状のさらさらした地面の中腹につま先と手を突き刺して踏ん張っているが、じりじりと少しずつ下がっていっている。


「あの声はやっぱり天音か。どうしてここに?」

「いかにも魔石がたくさんありそうな場所があったから入ってみたのよ、あなた達は気付いてないかもしれないけど、魔石は私達の力を高めるから!」


 天音は地力で気付いていたのか。

 ということは、強いマホウの力を持っている可能性が高い。

 だがそれなのに蟻地獄に捕まっているということは、ここから脱出するようなことには使えない力ということになる。


「へー、すごーい。自分で魔石の秘密に気付いたんだ」


 雪代も感心した様子で流砂の中の天音を見ている。


「ああ。俺たちはなかなか気付けなかったのにな。洞察力あるな、天音って」

「褒めてる場合!? いや嬉しいけど褒めるより助けて欲しいんだけど!?」


 それはそう。


「雪代いけそう?」

「持ち上げるにはちょっと重すぎかなあ。それに念動力って、人間相手だとうまく力込められないんだよね」

「そうか。じゃあ他に何か手を考えないとな。……俺たちが近付いたら一緒に飲み込まれるだけだし……悪いけど天音、方法を思いつくまで気合いで耐えてくれ!」

「気合いって!」

「あと、無理に出ようとはしない方がいいかもしれない、こういうのって逆に沈み込むらしいから」

「知ってる! そのせいでここまで吸い込まれてきたんだから」


 しかし止まってても少しずつ吸い込まれているように見えるのは、ここに魔力の影響があるからか。

 重力の異常もあったし、魔力は引力を働かせることもあるんだろうな。


 無策で近付くわけにもいかないが、しかし少しずつ吸われるならのんびりしているわけにもいかない。蟻地獄の中央は青い穴のようになっていて飲み込まれたものがどうなるかは人智の及ぶところではなさそうだが、天音はいずれあの中に消えてしまう。


 ………………いや待てよ、もしかしてあれを使えるか?


「天音、これから出すものに掴まれるか試してみてほしい」


 俺はギリギリ蟻地獄の淵まで行き、うつ伏せになって身を乗り出して杖を斜め下へと突き出した。


「ちょっと届かないわ!」

「杖にじゃない、杖から出るものに……せいっ!」


 杖の力を発揮し、先端からシールドを出現させる。

 地面に平行に出したシールドは半径1mほどの大きさまで展開でき、杖の長さと合わせて天音のいるところまで届いた。

 高さ的には天音の肩くらいの位置に魔力のシールドが来ている。


「それの上に乗るんだ」

「わ、わかったわ!」


 天音はシールドに腕を乗せると、必死の形相で体を持ち上げ胸を乗せ、体のバネを使って上半身を乗せ、引き摺るようにして足を乗せ、なんとかシールドの上に全身を乗せることに成功した。


「はぁ……はぁ……なんとか上にのれた……世界崩壊してからのサバイバル生活で体力ついてなかったら無理だったわ、懸垂も苦手だったし」


 その間も杖を持つ俺の手には天音の体重はかからない。

 魔力の雨を受けた時に、反動をほとんど受けなかったのと同じく、シールドの受ける負荷は俺にはかからないようだ。


 これはいい杖だ。

 盾で攻撃を防ぐだけじゃなく、足場にもできるとは。

 切羽詰まった状況になったからこそ思いついた方法だけど、色々と使えるシチュエーションはありそうだな。思いつかせてくれた天音には感謝。


「ふう……助かった……」

「安心するのはまだ早い。とりあえず吸い込まれはしないけど、まだシールドの上を端までいっても蟻地獄から出るまで届いてないし」

「あとは幅跳びでいけるわよこれくらい」

「結構ギリギリなラインだと思うけど……おっ」


 喋り終える前に天音はジャンプしていた。

 せっかちすぎる、がなんとか距離は届いて蟻地獄の淵に着地する。


「わっ、とっ、ちょっ……!」


 しかしバランスを崩してまた蟻地獄に落ちそうになってしまう、言わんこっちゃない。

 だが天音の前後に揺れる体を雪代がぎゅっと引き寄せた。


「ほらー、危ないってば」

「あ……はぁ、助かった。……二人とも、ありがとう。来てくれなきゃ死んでたわ」


 雪代に支えられてなんとか姿勢を保った天音は、小さく会釈して蟻地獄から離れていき、俺も這いつくばったままの姿勢からようやく立ち上がった。




「なるほど、狙いは俺たちと同じか」

「ええ。魔石でパワーアップすれば、今後のサバイバル生活が有利になるしね。あの特別感のある魔石を取りに来たのよ」


 天音を救出した俺たちは、少し離れたところで少し休憩がてら天音と話していた。

 なぜ自然公園にいるのか、その目的は俺たちとどうやら同じらしい。


「だったら一緒に行けばいいじゃん、ねえ? 三人寄ればって言うし」

「まあ、あえて別々にいく必要もないな。さすがにもう疑わないだろうし?」

「う……地味に刺してくるわね」


 天音は苦い顔になる。


「それはまあ……そうね。さすがにもう詐欺師扱いはしないわよ。だから一緒に行きましょう、天音もまたあんなことがあったら困るし。色々疑って悪かったわね」


 すっ……と手を差し出してきた天音と俺たちは握手をし、ここからは三人組で行くことにした。


 その後は案外すんなり先に進むことが出来た。

 ここまで来る途中で色々と異常を目にしてきて、もう慣れてきたからというのが大きい。

 もちろん、平坦な道よりは時間はかかるが、それでも順調に自然公園の奥へと進み、遠くから見えていた巨大な樹木のようなものをすぐそばに見えるところまでやって来た。


「近くで見るとよりすごい……けど、核みたいなのがあるのかしら? これ?」


 遠くから巨大な青い木のように見えていたのは、近くで見ると透明な木の抜け殻に見えた。公園に元あった木々が集まって一本になったような太い木が透明な抜け殻になった、そんな印象を受ける。


 じゃあなんでそんな透明なものが青く見えていたのかというと、天音が言っていた通り核のようなものが光を放ってそれが全体を照らしていたのだ。LEDにカバーを被せて全体を光らせてる電灯みたいなみたいな状態だ。


「あの核みたいなのも魔石なのかな。魔石っぽい青紫色……が濃すぎてもう黒っぽくなってるけど」

「見たことないな、あんな魔石。色もだし、形もきれいな球体になってる。……特別製の予感がする」

「ってことは、MPガッツリもらえる系なのでは!?」


 弾む雪代の声に俺も同意だ。

 あれだけ濃くて強い光を放ち、形も特別。

 一個で1万、いや2万、ひょっとしたら3万くらいのMPになるかもしれない。


「ああ、とりに行こう」

「……でも、めちゃくちゃ高いよねここ」


 美味しいものが見えるところまで近付いた。

 だが、その俺たちの前に最後の壁が立ちはだかっていた。


 それは文字通りの壁。

 これまでで最も地面が隆起していて、巨大樹の周囲は地面が3~4mほどもせり上がっている。どこかいけそうなとこはないかと周囲をぐるっと回って見るが、巨大樹は、コアの魔石は、完全に高い地面にあり、垂直に隆起した岩盤には手をかけられる場所もなく登れそうにない。


「脚立でもあればいけそうだけど今は道具も持ってないし、これは詰みか……?」


 魔道師の杖でさっきのように足場を作ることも考えたけれど、さすがに高すぎて足場を作ってもまだ高さが足りない。


「ふふふ、天音の出番が来たようね」


 頭を抱える俺たちの中、しかし天音は勝ち誇ったような声色でそう言った。


「天音? まさか何かいいもの持ってるるのか?」

「さっき天音を助けた杖を使ってよ、九重くん。そしたらあとは天音の力でなんとかしてあげる」


 天音は不敵な笑みを浮かべて、俺の杖を指差した。

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― 新着の感想 ―
「天音もまたあんなことがあったら…」 天音は自分の事を「天音」呼びするのか? 後、3人の距離感がブレている気がするけど、そんなものなのかな?
主人公は何も無繰り返し不審者扱いや犯罪者扱いされてよく許せるね まるで主人公に人格や感情なんて無く、作者の喋りたい事だけを言わせてるみたいです
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