表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/57

揃いつつある

 翌日、せっかく全員がMPをたくさん持っているのだからということで、住民達で集まってマンションの植物関連のアップデートを行った。


 集まった皆良い顔している、爽やかを絵に書いたような表情だ。

 エアコンが人の肉体と精神に与える影響はプライスレスだな。


「まず肥料は今植えてる全部に行き渡らせたいですね」

「果物もっと植えない?」

「いいんじゃないでしょうか! MPに余裕があるうちにやっておかなければ、なかなか増やせないのが世の常ですよ」


 と会議はサクサク進み、結果として現在植えている木とマンション菜園に魔法の肥料を全部行き渡らせ、さらに新たにスイカ、ジャガイモ、タマネギ、キャベツを追加で植えることにした。もちろんそれにも肥料を完備する。


 前に植えた野菜と同じく、今回肥料を追加した野菜の周囲も、あたかも耕した畑のような土の状態になった。さすが魔法の肥料、素晴らしい効果だ。


 植えた野菜も結構増えて、肥料のお陰で土も耕したようになっているので、今回のことでマンションの前の一角が本物の結構広めの家庭菜園のようになった。

 すでに最初に植えたトマトはかなり背が高くなっていて葉も茂り、花のつぼみまでもうできて花弁の黄色が微かに見えている。実を収穫できるまでもう少しだろう。


 種か肥料のおかげか、成長は本当に早い。トマト以外にもキュウリも同じくツボミをつけているし、他の野菜も青々と成長中。食べるのは当然楽しみだし、景観ものどかな感じがしていい。外の灰色の景色と違ってメンタルにも癒やしの効果がありそうだ。


 さらにマンションの裏手に植えた木も順調に成長中で、もう俺の肩くらいまで伸びている。芝生の木陰で優雅に過ごすこともそう遠くないだろう。


 こうしてマンションの環境は着々と整ってきた。

 このマンションで過ごす時間もなかなか快適になってきたんじゃないかと思う。


「猛暑対策とマンション全体のことをしたから、残りは俺の部屋をどうするかだな」


 何が欲しいかを考えなければ。

 あと残りは、元からあったMPを加えて14000くらいある。

 さて何を通販するべきか……。


 とりあえず部屋の中を見ながら、足りないもの欲しいものを考える。

 部屋にあるのは、エアコン、洗濯機、筆記用具に水、あとは石鹸とかティッシュとか衛生的に生活するのに必要な細々したものなど。


 それと、この前のスーパーでの戦利品か。

 結構色々増えてきたけれど、それでもまだまだ足りないものは多いな。

 全然生きていけてるつもりだったけど、あらためて考えるとまだ完璧にはほど遠いようだ。

 

 それでは完璧な生活に近付くために今一番必要なものは何か……。

 なかなか悩ましい、通販端末のページを色々切替えるが、これだとなかなか決断しきれない。


 ちょっと気分転換に外に出るか。

 エアコンに気を良くして部屋を寒くしすぎてしまってるし、逆に体を温めるのもありだ。


 外に出て、裏の成長中の若木のところへ向かうと、雪代が小さく体育座りしていた。


「何やってるの」

「木陰で優雅に過ごす予行演習」

「そう……」

「もうちょい私の行動に対してなんらかの感想を持とう? 九重さん?」


 尻についた芝生を払いながら、雪代は立ち上がる。


「早く大きくなったらいいね」

「ああ、楽しみだ」

「ほんとにね! 私が来た頃より、ここ全然レベルアップしてるよねえ」


 まったくその通りだ。

 こつこつと、しかし着実にマンションはレベルアップしている。いったいどこまで行けるのか見てみたいもんだ。……ん?


 雪代はこの前スーパーで手に入れたチョコレート菓子を手に持っていた。

 木陰で休みつつお菓子も食べるという優雅な午後を過ごしていたようだ。でも。


「暑くないか」

「暑いに決まってるよ。でも逆にそれが涼しい部屋に入ったときの快感を増すってわけ。っと、溶ける溶けてる!」


 手に持っていたチョコレート菓子が熱波で溶けかけていた。

 まあそうなるよな、室内でもぐんにゃりするくらいだし。

 スーパーで取ってきた俺の分のお菓子もビスケット生地の中のチョコがどろっとしていた。


 ………………これか。


「冷蔵庫、だ」


 買うべきもの、それは冷蔵庫。

 部屋は冷やした、さらに食べ物や飲み物も冷やしたらなお良い。

 今だとチョコレートは溶けるし、飲み物はぬるいし。


 食べ物は食べる時に都度買えば腐りはしない。

 しかし冷やして食べたいものだってあるし、少し保存しておきたいときだってある。冷蔵庫があれば利便性は段違いだ。


 飲み物だって水のペットボトルを開けてすぐ飲むならぬるくても衛生的な問題はないけど、でも冷たい飲み物は飲みたい、当然に。


 冷たさを得られるなら、それは間違いなくQOLに大きな影響がある。

 よし、次に買うのはこれだ。




 部屋に戻ると通販端末から冷蔵庫を選択した。

 値段は5000MPでカラーはホワイト、グレー、ブラック、ベージュ、インディゴ、ワインレッドと多数用意されている。しかし機種はマンション通販オリジナルの一種だ。逆では?


 まあ、冷蔵庫と冷凍庫が使えればこだわりはないので、カラーは無難にホワイトかグレー……いやでも外に出た時はガレキの灰色ばっかり見てるし、違う色にするか。

 というわけでブラックの冷蔵庫を選択した。


 雪代も「冷蔵庫? ああーっ、それいいね、私も買う!」と言っていたけど何色にしたんだろうな。なんとなくインディゴとかワインレッドとか色のついてるのを選びそうだな、という偏見。


 これまでと同じく自動設置の恩恵を受け、我が家のキッチンに冷蔵庫がついに来た。

 電源をいれてからしばらく待ってから中に手を入れてみると。


「いいね、しっかり冷たくなってる」


 動作確認はよし。

 まずはチョコレートみたいな溶けるお菓子と、あとは水を入れよう。冷たい水が久しぶりに飲みたい。

 あと製氷機に水を入れて氷も作っておこう。さらにキンキンに冷やす


「そうだ、せっかくだから冷凍庫も活用しておこう。通販で――」


 冷蔵庫には色々注文したくなる魔力があるな。

 昔は当たり前にあったようなものでテンション上げられるんだから、こういう世界も悪いことばかりじゃないな。


 冷蔵庫を買ってもまだMPはある。

 こうなると電子レンジも欲しくなってくるけど、ちょっと待て。

 それよりも先に必要なものがある。


 そう考えながら俺は窓を見た。

 まずはカーテンだ。結構厚手のやつ。


 エアコンをつけても外から日光が来たら効果半減。エアコンのポテンシャルを引き出すためにカーテンが必要だ。

 そして……この前のスーパーで色々獲得して、物も段々増えてきたから、収納も欲しい。中身の見える収納ケースやいくつかカゴも買おう。

 それに食器もいるな、今は通販で買った食べ物をその容器で直接食べてるけど、野菜や果物を収穫したら必要になる。


 あと、そろそろテーブル買うかな。

 今まで節約のために床であらゆることをしてきたけど、そろそろ使わせて欲しい。


 でも脚の長い大きいテーブル買うと、それも高い上に椅子も必要になって出費がかさむから、小さいちゃぶ台にしておこう。これなら安上がりだ。


 家電に比べればMPは安いので、このあたりのものをそろえることは十分可能。

 早速通販をして、購入したものを部屋に配置した。もちろん、収納を利用し元からあったものもすっきりと片付け完了。


 そして整った部屋でしばらく過ごしてみたが……。


「いい。これは、いい」


 細かいところでの不便がなくなると、何をやるにしてもサクサクと動けて快適だ。

 ないならないでなんとかなるものでも、あると格段に負荷が減るということがよくわかった。


「それじゃあ、あれ、キメるかな」


 一仕事終えて整った部屋を見て満足した俺は、冷凍庫からアイスクリームを取り出した。


 そう、アイスクリーム。

 冷蔵庫を買ったあとに、せっかくだからと買っておいたのだ。


 カップを手に持っただけでひんやりと気持ちいい。

 バニラアイスをスプーンですくって口に運ぶと。


「これは……うまい……」


 もう一口。

 もう一口。


 整った部屋を眺めながら、冷蔵庫の成果である甘く滑らかな冷たいアイスクリームを味わう。もちろんエアコンの効いた部屋で。


 今ここが、崩壊世界でもっとも満たされた場所だ。

本作を読んでいただきありがとうございます。

『ブックマーク』や画面下の『☆☆☆☆☆』から評価をして応援していただけると嬉しいです。

この小説を面白いと思ったら、どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あれ?10話でちゃぶ台買ってますよね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ