ゲーミング・ゲーミング
エスカレーターのところに積もっているガレキを駆け下り、崩落する二階から全速力で俺たちは駆け下りた。
それはスレスレだった。
四人が一階に降りきったと同時に二階は天井が崩れ去ったガレキに埋もれ、いまやスーパーは一階建てになっている。
「でも、俺たちはなんとか間に合ったか」
「あっぶなー! ワンチャン死んでたね! あのムカデやってくれたよ」
二階にはもう行けなくなってしまったけれど、幸い俺たちは無事に一階に脱出できた。しかしかなり危なかったな。
「なんとか無事でしたけど、一階も脆くなってるかもしれません。早く出たほうがいいかと」
「そうだな、もう一通りここは見たし外に出よう」
俺たちは相談もそこそこにスーパーを後にした。
幸い、一階部分は崩れることはなく無事にスーパーから生還成功。
「いやあ、なんだかんだで、色々手に入ったし、皆さん無事でしたし、いいスーパー探索だったじゃないでしょうか」
「そうですね日出さん。……時間はまだあるか。このあとどうします? まだいけますか? もっと東に行きつつ魔獣をもっと狩るのもありかなと思ってますけど」
「お気遣い痛み入ります、ですが僕ならまだまだ戦えます、24時間いけますよ!」
「よし、じゃあもう少し狩ってから帰りましょう」
こうしてスーパーでのはじめてのぼうけんを終えた俺たちは、充実した物資と気分を持って、魔獣狩りの東方探索を再開した。
……のだが、スーパーマーケットを回り込んでさらに東へ向かおうとした時、俺たちはそれを目にした。
「あれって駅前のじゃない?」
雪代が立ち止まり、前を指差した。
指し示す方向を見ると、そこにあったのは、ビルの影。
「たしかにあの辺だったな、駅前の雑居ビルがあったのは」
元雑居ビルと思しき建物の輪郭がはっきり見えていた。
方角と距離的に駅のあたりだから、駅前にいくつかあったビルのうちのどれかが無事だったんだろう、スーパーのように。
「あそこも探険できそう!」
雪代の台詞に他の三人も頷いた。
あそこを目指すのは良さそうだ。駅前のビルなら居酒屋、歯医者、カラオケなどがあったから役に立つ……かは微妙なラインだけど、きっと何かしらあるはず。
もしかしたらスーパーよりも実入りがいい可能性もある。行くのはアリだな。
「あ、でも見てください。ビルに何か乗ってませんか?」
楓の台詞に他の三人がビルの屋上を見る。
すると、屋上で何かが動き……起き上がった?
いや、飛び立った!?
『グオオオオオオオ!!!!』
かなり離れているにも拘わらず鼓膜を震わす凄まじい咆吼がとどろき渡り、飛び立ったものの頭から炎が吐き出された。
翼を広げてビルの上から飛び立ち空を焦がすシルエットは間違いなく。
「ドラゴン――」
誰もが言葉を失って天を見上げるしかなかった。
「やめましょう」
「無理です」
「100パー死ぬ」
漏れ出た呟きに異論はない。
勝てるわけないだろあんなの。
彩草駅前は魔境だ。
これ以上東には行かない。
俺たちの中に暗黙の鉄の掟ができた瞬間だった。
東に行きすぎると危険だと全会一致で判断したため、それからはスーパーマーケットより西側の魔獣を狩って過ごした。
マンションからスーパーまでの最短経路の道路だけじゃなくその周囲もあるので、この条件でも倒せる魔獣はまだいる。
ある程度の範囲の魔獣を掃討するまで、さらに二日俺たちは戦い続け、そしてついにその時が訪れた。
「ついに魔石を投入する時が来たね、リサイクルボックスに!」
マンションの裏手にある魔石をMPに変換するリサイクルボックス。
狩りを終えた俺たちは、この数日の東方遠征で手に入れた魔石全てをリサイクルボックスの前に置いてある。
「全部一箇所にまとめると壮観です」
楓の瞳まで青紫色に染まるほど、大量の魔石が一箇所に集まっている。まるで魔石の岩がマンションにあるかのようだ。
「それだけ頑張ったってことだよね。どれだけになるか……エアコン行けるかな?」
「さすがにこれだけあればいけると思う。……じゃあ、そろそろ」
俺たちは集めた魔石を一気にリサイクルボックスに入れていく。
結晶を抱えて箱に入れる。
さらに結晶を抱えて箱に入れる。
もっと結晶を抱えて箱に入れる。
四人がかりで岩のような結晶の集まりを次々に投入していく。
1分や2分では終わらず、5分ほどかけてようやく全部投入し終えた俺たちは、固唾を呑んでリサイクルボックスのディスプレイを見つめる。
とその時、ディスプレイが七色に輝きだした。
赤青緑紫と色が次々移り変わっていく。
え、何この演出。
「ゲーミングリサイクルボックスってことでしょうか!? あ、数字が出ますよ皆さん!」
嬉しそうに日出が言うと同時に、画面に数字が出てきた。
7
27
327
これひょっとして1の位から順番に出てくる感じ?
そんな演出これまでなかっただろ。
2327
02327
*102327*
『テレレテッレッレッレー!』
ファンファーレまで!?
…………いやなにこの演出。
これはあれか? 獲得MPが多いからか?
こんなことに俺のマホウの一部が使われてるのか。
「おお、ゲーミングきれいじゃないですか!」
「すごっ! こんなに祝ってもらえるなんて、たくさん集めてよかったあ」
「10万MP以上も獲得できたのは驚きです。これで色々整いそうですね」
ありがとう楓。
ともあれ、10万MPは派手な演出もやむなしの高額だ。四人で分けても一人25000MPも得られるのだから。
本当にすごいよな25000MPって。
これだけあれば一気に生活を豊かにできる。
これで何を購入するべきか……なんでも買えるとなると逆に何を買うか迷ってしまう。
迷っているのは俺以外も同じで、四人とも黙って考え込み始めた。
リサイクルボックスのディスプレイがゲーミングに光るのを受けて、黙ったまま七色に照らされてる顔がシュールだ。
「ここで突っ立って考えなくても部屋でじっくり考えた方がいいんじゃないか? 実は」
「あはは、それはそう。おかねもちになったからフリーズしちゃったよ。あ、ちょっと待って! 部屋に戻るっていえばさ、まずエアコンを先に買ってそれか涼しい部屋で残りのMPで何を通販するか考えた方が良くない?」
雪代の一言で俺たちははっとした。
そうだ、もう俺たちはいつでも涼しくなれるのだ。
動くのは速かった。
四人共が即座に自室に戻り、10000MPのエアコンを購入し、即宅配ボックスに来たため全員がかち合い、無言で視線を交わして各々の部屋へ散っていった。
素早くエアコンを設置する、俺たちの意思はそれだけだ。
エアコンをリビングで開封すると壁に自動で固定され、裏のベランダに室外機が生えてきてそれらはホースで繋がった。
洗濯機と同じパターンで助かった。エアコンの設置を自力でやれと言われたら正直無理だからな。
それでは早速冷房を……なんだと!?
俺はエアコンのリモコンを操作して驚愕した。
「このエアコン、0.5℃刻みで微調整できるだって!? 世界崩壊前に俺が使っていたエアコンより高性能とはな……」
まさか崩壊前より崩壊後が快適に暮らせるとは。
驚きつつ25.5℃のマイ最適温度に設定し電源オン。
…………………………。
風が、来た。
「これは、ああ……涼しい……。エアコンがある人生ってこんなに過ごしやすかったんだな、崩壊世界ですっかり忘れていた。これまで俺が住んでた環境は炎熱地獄だった」
ああ……涼しい……。
ああ……涼しい……。
ああ……涼しい……。
・
・
・
………………はっ!
俺はいったい何分間エアコンの前に突っ立ってたんだ?
窓の外を見ると夕焼け空が紺色の夜に飲まれようとしている、相当長い時間ただただ涼んでいたようだ。
エアコンの魔力、恐るべし。
ゆえに10000MP払った甲斐はあった。
そしてまだまだMPは残っている。
残りは何にどう使うか……エアコン並の革命を生活にもたらせてくれるものは何か、よく考えねばな。
俺はエアコンの風が直接あたる位置で、通販予定のものを一晩中考え続けた。




