橋上にて
橋の入り口までいった俺達を最初に出迎えたのはご存じオオネズミだった。
前回より二回りほど大きいオオネズミはもう原付くらいの大きさがあって、尖った前歯は青紫の魔石のような色に輝いている。
魔獣が魔力を体に蓄えている特別な生物であることの証左だろう。
もはやネズミというより邪悪なカピバラみたいなやつを倒すため、俺たちは戦闘体制に入る。
俺は初級魔道師の杖に力をチャージし、雪代はガレキをサイコキネシスで浮かせて狙いを澄ませる。
すぐさまオオネズミが前歯を光らせながら突撃してきた。
カピバラサイズだと相当迫力があるが、落ち着いてまずは魔法の矢を一発放つ。
キッ! と短く鳴いて横に跳ぶオオネズミ。
サイドステップも使える機敏さに感心するけど、でもすでに頭上には雪代がスタンバイしている。
オオネズミの頭上高くから人間の頭くらいのサイズのガレキが勢いよく落下してきた。
真上という視界外からのことに反応できずガレキは脳天に直撃、魔獣といえどさすがに意識が飛びかけたようで動きが止まる。
そこに楓が鉱石パンチを繰り出し魔石の前歯を粉砕すると,オオネズミは倒れ、そのまま青光の粒子となって消え、後には濃い青紫色の割れた魔石が残った。
「まずは問題なしだな――ぬ」
オオネズミの遺した魔石を回収しようとしたところに、橋の上に見てたいたもう一種の魔獣、二足歩行するオオトカゲが俺たちに向かって来た。
三匹のトカゲビトはハシリトカゲのように手足をバタバタさせながら猛烈に迫ってくる。
「えー走り方かわいいー!」
「そんな場合じゃないですよ雪代さん!」
と女子がやりとりしている間にもトカゲビトは近付いてくるが、それを止めたのは、意外にも日出だった。
「いったん来ないでいただけませんか!」
日出が自分を奮い立たせるような声をあげながら突いているのは、槍だった。
槍を突き出すとトカゲビトの足も勢いがいったん止まる。
「こんな感じで槍の使い方っていいんでしょうか!?」
日出が武器に選んだのは、槍だった。
理由は「長い方が相手と距離が離れて安心じゃないですか。それにほとんど訓練受けていない足軽でも槍を持てば戦力になれたらしいですし。それなら僕でも使えると思いませんか?」ということだった。
それは実際正しかったみたいだ、トカゲビトも怯んでいる。
リーチは強さ、よく言う通り。
「とはいえそのうち対応されるだろうし、今のうちに援護して決めよう」
「うん!」「はい!」
日出が足止めしている間に、俺たちはさっきのオオネズミにしたのと同じように各々の武器を使って、トカゲビトに攻撃をしかけた。
トカゲビトは二足歩行で爪で引っ掻こうとしてきたり、手に尖った石を持って武器に使ったりしてくるが、動き自体はオオネズミの方が俊敏だったのでむしろ楽に相手でき、三体ともサックリと撃破することができた。
後には切れたとかげの尻尾の先端の魔石が残り、今度こそ回収に成功。
「問題なさそうだな、これくらいの魔獣相手なら危なげなくいける」
「うんうん! ガンガン稼いで涼しくなろうね! ……日出さん? どうしたの?」
雪代が首を傾げて見たのは、槍をもってぷるぷると震えている日出の姿。
「や、やりました! お役に立てたかはわかりませんが、魔獣と戦ってしまいました! しかも怪我もしていませんし、なんとかなってしまうものなんですねえ!」
だいぶ興奮している。
意外に血が騒ぐタイプなんだな日出は。
「そうです、結構なんとかなるんですよ、僕らも色々な武器がありますから。この調子でもっと倒しましょう、日出さん」
「はい! 今度はもっとお役に立てるよう努力いたします」
無事に勝利をおさめた俺たちは、戦利品の魔石を手にして橋を渡った。
これまでの魔獣の魔石の経験からすると、現段階でもう1000、いや2000MPくらいは稼げたと思う。
やはり魔獣を倒すのは効率がいい。倒せるなら、という冠はつくが。
さて次は……。
「あの河川敷の魔獣を狙わないか?」
指差す方向に雪代達3人が目を向ける――と、雪代が目をいやそーに細めた。
「ええっ……だいぶキショいんだけど、本気で?」
「一体だけで孤立してるし、他の魔獣に乱入されずに戦えるからベストだと思う。あの巨大ムカデは」
河川敷を這う巨大なムカデ、体節の一つ一つに大きな青紫の眼球が一つずつあり、周囲を伺いながら地面を這い回っている。あれだけ体に魔石があるなら、倒せれば美味しいはずだ。
「強そうですよ? 僕らでやれますでしょうか?」
「まず遠距離から俺が魔道師の杖でスナイプして、それへの対応で河川敷を滑り降りるか、橋を全力で引き返すか決めよう」
「なるほど! それならいきなりなだれ込むよりはリスクを減らせますね!」
橋の上から俺は力を貯めて河川敷を這う巨大ムカデの頭に狙いを定める。
これでやられてくれれば、一番話は早いが――力が溜まった。
「討つ!」
杖の先端に溜まったエネルギーを一気に解放した。
青い魔法の矢がオオムカデに真っ直ぐ向かって行き、一番前の体節に命中した。
ーシィッ! ーシィッ!
巨大ムカデが身をよじり、硬質な外皮が擦れる奇怪な音が周囲に響く。
すると、一番前の体節が千切れた。
「やったね! 倒し……てない!?」
雪代のガッツポーズが途中で止まる。
その通り、巨大ムカデは数十個ある体節の一つが取れても、何事もなかったかのように這い回り、むしろ俺たちの存在に気づきこちらに百本の足を動かしながら向かってくる。
橋の支柱を昇って来た巨大ムカデを俺たちは迎え撃つ。
ガレキをぶつけ、魔法の矢をうち、槍で牽制し……だが攻撃が当たっても巨大ムカデはその部分を切断してから、残った部分で問題なく動きまわるため、ダメージが入ってる手応えがない。
「うわああっ!?」「日出さん、危ないっ」
ムカデが体を鞭のようにぶんまわして攻撃してきた。
槍で応戦してた日出が逃げ遅れたところを、足を強化した楓がぎりぎり救って勢いのまま橋の上を転がる。
「いたた……ありがとうございます、楓さん。助かりました」
なんとか直撃はしなかったか。
しかしこの魔獣、しぶといから攻撃される機会が増えて危ない場面が出てきてしまうな。
直撃する前に早く処理してしまわないと。
「……ふっふっふ」
ん? この笑い声は。
「ついに私の練習の成果を見せる時が来たようだね。ふっふっふ」
じゃらり、じゃらり。
雪代が鳴らしたのはいつかの鎖鎌。
「雪代、やはりそれを」
「こんなへんてこな武器普通に使うのはむずい。しかし! 私のサイコキネシスがあればどうかしら?」
雪代の手から鎖鎌が浮かび上がり、空中でぶんぶんと回転を始める。
「ちょ、あぶっ。もう少し上空で回転させてくれ!」
「あははごめん、九重さんに早く見せたくて。私、サイコキネシスでなら鎖鎌でも自由自在に動かせるって気付いたんだよね。それからこっそり練習してたの。切りまくっちゃうぞ、おらおらおらー!」
鎖鎌が高速で回転しながら巨大ムカデに向かって飛んでいく。
そして一番上の体節の繋ぎ目を勢いよく刈り取った。
シィッーと音を立てて体節が地面に落ちるが、鎌の勢いは止まらない。回転しながら少し位置を下げ、今度は二つ目の体節を切り落とす。
「つなぎ目がやらかいことに気付いちゃった。ここならいくらでもざく切りにしていけるよ。おらおらおらー」
雪代の勢いはとまらず、空飛ぶ鎖鎌は遠心力を利用して次々と巨大ムカデを細かく切っていく。そして元の半分くらいの長さまで切断された時、オオムカデがぶるぶると震え始め、全ての体節がバラバラに崩れ去った。
「やったっ!私の勝ち!」
「鎖鎌とサイコキネシスの組み合わせ、すごいな。とんでもない殺人兵器みたいな動きしてたぞ」
「ふっふふ、でしょう? 私って忍者の才能あると思う……あっ、見て見て! 魔石たくさん落としてくれたよあのキモキモムカデ」
巨大ムカデの切断された体節一つ一つが魔石を遺し、体が消滅したあとには多数の魔石が輝いていた。一つ一つは小さいが数が多いのでこれは相当な量になるぞ。
「すごいです、雪代さん」
「まるでニンジャじゃないですか!」
楓と日出からも讃えられ「余裕でござる」とノリながら、雪代と俺たちは散らばる魔石を拾い回収した。
「すごい量だね、こっちの方に来てよかった」
「ああ、これならエアコンも近い。しかもまだまだ……」
河川敷にも、橋を越えた先の道にも魔獣の姿はまだまだある。
つまり魔石もまだまだ増やせるということだ。
「時間も力もまだまだある。いけるとこまでいこう」
狩りは終わらない。
狩りは終わらない。(二日目)
巨大ムカデを狩った後も、魔獣退治を続けつつ東へのルートを確保していった。
魔石のために魔獣を狩っていたというのはもちろんだが、それだけではなく、いまだ大部分が手つかずの東方面を安全に探索できるようにしたい、というのも今回の遠征の裏の目的だ。
そのために、橋を渡ってから周囲の魔獣を倒すと東へと進撃した。
しばらく魔獣を倒しつつ東に進むと、やがてバックパックもいっぱいになり、マホウを使いすぎて疲労もピークに達したので、いったん終了。
その日手に入れた魔石が何MPになったかというと――まだリサイクルボックスに入れてないのでそれはわからない。
どうせなら、今回の遠征終わってから一気にやって一気に大量のMPをゲットしたいと全会一致で決まったのだ。だって一気に大量に手に入れる方が快感だからね。
というわけで初日が終わり、今日は昨日の続きから、さらに崩壊した町を東へと、魔獣を狩りながら進んでいる。
二日目も今のところ順調だ。日出も含め、場数を踏んで慣れてきたっていうのもあり、どんどん進んで行けている。
そして正午を回った頃、だいぶ東へ進んできたなと思っていたとき、それが廃墟の風景の中にあらわれた。
「ここまで結構モンスターを倒してきましたね。これなら全員の家にエアコンを取り付けることも夢じゃなさそうです」
「汗かいてマンションに帰ったら、部屋いっぱいの冷たい空気が迎えてくれる……神すぎる。もう涼しくなってきた気がするよね」
「さすがにそこまでは同意できない……あれは? まさか、皆、あそこに!」
「ん、何かあったの? ……え、マジで!? スーパーが!?」
それは、『スーパー・エブリデイ』。
ここ彩草市でよく利用されるスーパーマーケットの一つだった。
二階部分は大部分崩れて赤い大看板も外れかけているが、しかし一階はほとんどが往時の姿を保っている。
これだけ大きい建物がこれだけ残っているのは珍しい。魔獣狩りをしていたら、思わぬ見つけ物だ。
俺たちはもっとよく見ようとガレキをのぼる。
「ひょっとして、中に何か残ってたりするかな?」
「可能性はあるな。でも、こんな場所にあるなら、魔獣も中にいる可能性が高い」
「危険もあるということですか。……でも、むしろ今の私達の目的には一致しますよね」
「待ってください、これはつまりひょっとして、スーパーの中に入ってみる方がいいということでしょうか?」
日出の発言から数秒後、俺たちは顔を見合わせて頷きあった。
行くしかないだろう、こんないい状態の建物を見つけたら。
スーパーの中には物資と魔獣がいる。
俺たちは急いでスーパーまで向かった。
そして開きっぱなしの自動ドアから中に入り、俺たちのはじめてのぼうけんを開始した。
本作を読んでいただきありがとうございます。
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