三人目の住民
雪代がマンションに来ることを提案すると、女子高生は不思議そうに返事をした。
「マンション? もう全部崩れてると思いますが……」雪代のテンションと反対に怪訝な顔の女子高生。うん、そりゃそうだよね。
「普通のマンションじゃないんだ、実は……」
俺たちは【マンション】のことを説明し、空き部屋があるから来たらどうかと誘った。
女子高生は少しだけ瞬きが減り、
「そんなものがあるとは信じられません。でも、本当なんですよね?」
「もちろん。ただ一つ注意することがある」
「そう! 家賃払わなきゃいけないから気をつけてね!」
「家賃?」
「そうそう、私も住んでから言われて焦ったよー。家賃は魔石で払うから、ほらその魔獣の尻尾回収した方がいいよ!」
雪代は紫色の鼠の尻尾に目を向けながら頷いた。
「あなたのマンションでは魔石が通貨代わりになっているのですね。魔石を集めれば、安全な拠点や食料が得られるというなら、明らかに得な取引です。いいんですか? そんなもので」
「いいも何も、本当はただでもいいんだ。部屋が余ってるからさ。ただ能力が自動的に住民に魔石を要求してるだけで」
「本当に変わったマホウですね。私は白鷺楓といいます、今後ともお願いします……」
「俺は九重玲司」
「私は雪代琴! よろしく楓ちゃん!」
「じゃあ案内しよう。俺のマンションへ」
俺は楓を【マンション】へ道案内をした。
「痛っ……」
楓の声?
振り返ると俺たちから出遅れている。何かあったのか……そういうことか。
体にはいくつも傷があるが、傷とは別にソックスの上から左足首の腫れが見て取れた。ソックスをまくってもらうと赤く大きく腫れていた。
「これはさっきの戦闘で?」
「腕ならいくら攻撃されても大丈夫なんですけどね、別の場所だとそうはいかないので。避けた時に捻ってしまって、戦闘中は無理矢理戦ってたんですけど、そのせいでもっと痛くなってしまって。でも、歩けないことはありません」
そうは言うものの、明らかに足を引きずって歩いていて、カタツムリ並の歩みの遅さだ。
クールに振る舞ってはいるが一歩ごとに顔も歪んでいるし、この調子じゃマンションに着く頃にはもっと悪化するな。
足を怪我してるのか、こんな凸凹のところじゃキツいだろう。
俺は雪代にバックパックを渡して「見た目よりは軽いから、頼んだ」、楓の前に背中を差し出した。
「な、なに……。なんですか?」
「おんぶしていくよ。その足じゃキツいだろう。足元も悪いしな」
雪代がバックパックを背負いながら言う。
「やっさしぃ~。あ、本当に見た目より軽い」
「人として当然」
楓の戦闘力は頼りになる。
より強力な魔獣や集団戦で必要な人財だ。
足が悪化して長期療養になったら俺にとってもマイナス、おんぶするくらいは安い経費だ。
「いいんですか?」
「遠慮せず、どーんと来て」
「ええと……あの……お風呂にも入ってないんで臭いとかちょっと」
「ふふっ……」
「な、何がおかしいんですか」
「いや、こんな世界でいちいちそんなこと気にする奴はいないよ」
「私は結構気になりますけど……でも、すいません、失礼します……」
楓はためらいがちに俺の背中に体重を預けてきた。
激しく戦っていたとは思えないほど軽い。
「じゃ、今度こそ案内しよう。俺のマンションへ」
「し…………んじられません」
門をくぐり【マンション】に到着した時、楓は俺の背中でそう呟いた。
ここはもう足場がいいから大丈夫といって背中からおりた楓は、芝生の庭や、エントランスに続く石畳を、幻覚を見てるわけじゃないと確かめるように、一歩一歩、ゆっくりと歩き、手で触って確かめている。
「本当にこんなことがあるんですね」
「なんでもありの世の中になったってことだな。101と201は使ってるから他の二部屋から好きなの使えばいいよ」
そしてお決まりのマンションの説明を済ませると、足が痛くて階段上りたくないからという理由でとりあえず102号室に入居した。
通販モニターの使い方をチュートリアルすると、早速オオネズミから奪った魔核で得たMPで麦茶とお弁当を買って食べ言葉は少ないが、無心で食べていた。やっぱり皆飲食物には一番苦労してるんだな。
あとはシャワーがあるというと、感慨深く流れる水を見ていた。多分ご飯食べたら浴びるだろう。結局ご飯とシャワーが一番でかいんだよ、俺も雪代もそうだったからわかる。
「そうだ、あの様子だと楓にはまだ必要なものがあるな。体洗ったあとを見計らっていくとするか」
俺はモニターを操作し、狙いの物があるかを確認した。
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