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腕の女

 翌朝、体の疲れが驚くほど取れていた。

 布団の力ってすごい。

 小さなせんべい布団ですらこれなんだ、もしキングサイズのふかふかベッドなんて手に入れた日にはどうなってしまうのか。もはや元気すぎて怖いくらいになりそうだ。


 いつかそんなものも手に入れたい、そのためには今日も魔石集めだ。

 それにしても、いつも魔石を集めている気がするな。

 まあ他にやることもないからな。


 室の外に出ると、雪代もちょうど出てきたところだった。


「何か買った?」

「布団とか着替えとか」

「やっぱり布団だよね! ね!」


 どうやら雪代も布団にMPを使ったらしい。


「快眠だった。かつてないくらい」

「うんうん、人生で一番気持ちいい夜だったよ。おかげで体力満タン、今日はなんでもできるよ」


 その言葉通り軽快な足取りで本日の魔石集めが始まった。

 道を塞ぐ魔獣を倒したおかげで行動範囲が広がったので魔石もたくさんとれる。

 ひとまずは【マンション】から見て西方面を攻めることにしている。魔獣が一番少なく、奥まで探索できそうな方角だ。

 方角的に言えば、西の方には彩草市の住宅街がある。またそれにあわせてスーパーマーケットやちょっとした飲食店も。逆に東に行くと彩草駅がある町の中心部だが、こちらは露骨に魔獣の数が多かった。中には巨大な魔獣もいたし、危険地帯のようだ。


 この前は倒せたしMPも手に入るとはいえ、戦わなくていいならその方が安全なのは言うまでもない。魔獣を倒さなきゃ行動範囲を広げられない時でいいだろう。


 というわけで西側へ行動範囲を広げていくことにした。魔獣の分布に差があることは意味があるのかたまたまなのか、気にはなるが現状では崩壊した世界の情報が少なすぎて判断つかないので、現状に対処していこう。


 手動と念動力で魔石をとりながら、町の西側を開拓していく。

 住宅街に建ち並ぶ一戸建ても倒壊していて、真っ昼間なのに物音すらせず全てが崩れている光景はひどく虚無だ。


 俺と雪代の足音と、バックパックの中で魔石がガチャガチャ触れあう音だけがしばらく響いていた。


 だが、その静寂は不意に破られた。


「この……しつこいんですよ!」


 女の声。


 ガンッ、バキッ。


 それに続いて何かが砕けるような音。


「これ……」俺達は顔を見合わせた。「俺たち以外に誰かいる」


 声は数十メートル前方のガレキが積もった奥から聞こえてきた。

 ガレキの山を回り込むようにして、音の発生源へと足早に向かう。


 すると、


「邪魔です!」


 声とともに、紫色の尻尾を持つオオネズミの魔獣が吹っ飛ぶところを目にした。

 魔獣の体は停車している自動車にぶつかり、フロントガラスが砕けフレームが歪む。


「すっごい勢い……」


 雪代も唖然のそれをしたのは制服姿の女の子だった。手と腕を黒いものに覆われている。


「しつこい魔獣達です。ん? 人間?」

「まだ他にもいるぞ!」


 女の子はこちらに気付いたけれど、俺も魔獣がまだ他にもいることに気付いた。吹っ飛ばされたのと同じ魔核の尻尾をもったオオネズミの魔獣が何匹かいる。

 集団で襲われてたのか、群れなす魔獣までいるなんて厄介だな。


「わかってます! 話は後で!」


 制服少女は跳びかかってきたオオネズミを黒くコーティングされた右手で払いのける。魔獣を殴り飛ばすってどんなパワーしてるんだ。


 あの腕の色からして、何かしらのマホウの力なのか。


 さらにもう一匹が来て腕に噛みついてきたが、少女はなんともない様子で、黒くコーティングされた腕は無傷のままだ。 

 腕を硬く強くする特殊能力を持ってるようだな。こういう思い切り戦闘向けの力もあるわけか。マホウのバリエーションは豊富そうだな。


 ……と、あの角度はまずいか。


 その時、左後からオオネズミが少女に襲いかかろうとしていた。

 コーティングされているのは右腕、このままじゃ手痛い一撃を食らってしまうな。だったら、俺の出番だ。


 観察しつつ魔道師の杖に貯めていた魔力を放出して光の矢を放つ。

 矢は跳びかかったオオネズミの額を撃ち抜き一発で撃退した。


「っ! ありがとうございます」

「まだ二匹いる、終わらせよう」

「はい!」


 生き残っている二匹のオオネズミを俺たちは一匹ずつ倒し、その場にいたオオネズミの群れは殲滅された。


 制服の少女は俺に会釈する。


 彼女の制服は深いグレーのブレザー制服に、きっちり締められたリボンタイをしている。スカートはチェック柄になっていて、これには見覚えがある。

 たしかこれは彩草高校の制服だ。道を歩いている生徒の集団を何度も見かけた。


 長めの黒髪が顔の横にかかり、目元を少し隠している。瞳は漆黒で大きく、よく見れば睫毛が長く整っていて美しいが、視線はしばしば伏せられ、会釈したままその前髪の影から上目遣いで様子をうかがうようにこちらを見ている。


 高校生だというのに、魔獣と戦ったことによる興奮状態はうかがえない。

 それより冷静にこっちを見ている感じだ。


 とりあえず俺も会釈を返しておくか。


「とりあえず、お互い無事でよかった」

「はい。手助けありがとうございます。あれだけ数がいると一人では厳しいですね。この力にも慣れてきたんですけど」


 女子高生の右腕の黒いコーティングがほどけていく。太い篭手のようだったそれは消え去り、白い肌が露わになった。


「腕を硬くするマホウ?」

「金属や鉱物を取り込んで、体を覆って強化できるんです。強度もそれなみになるし、パワードスーツのように腕力を補助して向上させてもくれます。幸いといっていいのかはわかりませんが、鉄筋がいくらでもあるので、強化には困りません」

「攻防一体か。魔獣と戦うには便利な力だな」

「はい。このおかげであの災害から今まで生きてこられました」


 たしかに一人で、安全圏もなく生き抜いてきたのは強さの証明か。……でも、よく見ると体にいくつも傷がある。かさぶたになってるのもあるし、まだ新しい傷も。


「何か目的地でも?」

「いえ、特にはありません。毎日食料や水を求めて彷徨っているだけです」


「それならさ!」と魔獣とのバトルをかなり遠巻きに見てた雪代が走って来た。

「マンションに来たらどう? 快適に暮らせるよ!」

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