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接触

 俺――九重ここのえ玲司れいじ――は、自宅のマンションに帰ると、仕事帰りにスーパーで買ってきた弁当をレンジに入れてスマホを操作した。


『接触とはいったい!? 誰でも魔法が使えるようになる!?』


 ネットを見るとそんなニュースの見出しが一番に目に入り、弁当を温めている間に内容を見る。


 なんでも南米の密林の奥にある村で、建物が突然紫になって崩れたり、住人が消えたり、見たことない動物が現われたり、住人が魔法が使えるようになったというのだ。

 

 その村が別世界と接触して魔法の力の影響を受けたとかなんとか専門家が語っている記事だけど、肩書きは『魔法異世界研究家』……うさんくさすぎるだろ。


『接触はこれだけで終わることはありえません。より広範囲で起きたときに備えるべきです。私のオンラインサロンではそういった事態に向けての対処方法を皆さんに教えて――』


 これオンラインサロンで稼ぎたいだけだろ。

 やっぱり胡散臭い自称専門家だが、とはいえこの現象自体は本当に起きたことらしい。


 真面目なメディアでも怪奇現象が起きたことは報じられているし。

 SNSではこの自称専門家みたいな胡散臭い意見が飛び交っているけど、まあアテにはならないな。それにどうせ地球の裏のことだ、俺たちには関係ない。

 いつも通りこのマンションで平穏に暮らすだけだ。


 と、スマホを見ているうちに弁当の温めが終わろうとしている。

 あと5、4、3、2、1、


 ガくんッ!


 揺れた!? 大きいぞ、地震か!?


「……いや、何かが違う。地面が揺れたっていうより、空気まで全てが揺れたみたいな」


 電子レンジはピーピーと温め完了を知らせ続けている。

 黙らせようとドアの取っ手に手をかける。


 ぼきりと音を立てて取っ手が折れた。


 え?


 こんな壊れ方するほど老朽化してたわけがない。

 どうしたんだ……紫色の石みたいなのがこびりついてる、だと。


「いや違う、取っ手の一部が紫色の石みたいに変質してるんだ。…………まずい!」


 俺は玄関を飛び出た。

 非常階段を駆け降りマンションの外へ出て行く。


 思った通りマンションの廊下や外壁も一部が紫色の石に変質していた。それは何を意味するかというと――。


 ミシッ……。

 ビキッ……。


 時間がない、全力で走る!


 階段を全力疾走で降りてマンションから離れたと同時に、ところどころざらざらした紫になったマンションは倒壊していった。


 強度の劣る部分が大量にあらわれれば、当然崩壊する。


 それは、俺のマンションだけではなかった。

 他の建物も次々に崩壊していく。

 断末魔のコーラスのような大音響を建てて、五分前までは建ち並んでいたマンションやアパートや家々が崩壊していく。


「ここにいたら危ないな……開けた場所に……」


 外に出ても、崩れたときに飛び散った瓦礫や中にあったものが飛んで来て危ない。公園のような場所を目指して走っていく。

 が、俺は足を止めた。


 進行方向に、ありえないモンスターがいたから。

 それは大きな恐竜のようで角と翼が生えていて……ドラゴンだ。


 そこで俺は思い出した、地球の裏側で起きたという異変について。

 建物が崩壊し異形の生物が現われる――同じだ。

 あの現象が俺の住んでる彩草市あやくさしでも起きたのか?


 ドラゴン以外にも、色々なところから化け物の吠え声が聞こえる。そして隠れられるような建物は崩壊していく。

 まるで世界の終わりがきたのかっていう光景だ、どうすりゃこんなところで生き延びられるんだ。


「そうだ、『接触』で起きたことの中には、魔法が使えるようになるってのがあった。それが起きたなら俺も」


 何か新たな力が自分の中に生まれてないかと意識を内部に集中していく。

 すると、頭の奥深くでチカチカと点灯する光が見えた。それに意識を伸ばした瞬間、目の前でバチっと音がした。


 目を開くと、空間に裂け目が出来ていた。

 人一人が楽々入れるサイズの裂け目が出来ていてその奥には……なんだ? 青空と箱が見えてる?


 もしかしてこれが魔法なのか?

 この裂け目の向こうは安全そうだけど、でも入って大丈夫なのかこんな謎の裂け目に。

 

 当然逡巡するけれど、だがこちらに歩いてきている化け物と目があってしまった。

 目があった六本足のサーベルタイガーのような化け物はこちらに走って向かってくる。


 躊躇してる暇はない。

 このままじゃ100%死ぬんだから、入った方がましだ。


 俺は俺の「魔法」で作り出された空間に飛び込んだ。


 俺の足元には石畳の小径があった。

 石畳の周囲には平穏な芝生が広がり、穏やかな青い空が頭上にはある。

 そして背後で空間が閉じる気配を感じながら前を見ると、箱のような建物があった。


 小さなその建物に近付くと、入り口にプレートがあり。


『パックス・レイジ』


 と書いてある。

 ガラス戸を開けるとまるでマンションのエントランスのようになっていて、そこから伸びる廊下を進むと、一つだけ部屋があり『101』のプレートがある。


「まるで……っていうか、マンションそのものじゃないか」


 それは、101号室の一室しかないマンションだった。

 マンションと言っていいのだろうか、こんな小さいのを。

 ただ小さい以外の作りはマンションそのものだ。


「じゃあマンションか」


 ドアには鍵はかかってなかった。

 中はよくあるマンションそのものだった。玄関があり、廊下があり、部屋がいくつか廊下から繋がっている。


 靴を脱いで廊下に上がり様子を見ようとしたその時、急に体から力が抜けた。


「なんだ、これ。この感覚」


 体の力が抜け、頭の奥に霞がかかり、壁に体重を預けないと立っていられない。いや、預けても立っていられず、廊下にしゃがみ込んでしまう。


 感じたことないぞ、この感覚。

 体力の限界まで泳いだ後みたいな、怠くて眠気がするあれを、さらに何倍にしたみたいな。しかも体だけじゃなくて、頭も同じように体力が尽きてるような感覚。


 だめだ……ねむ、い……意識が……。


 俺は謎のマンションの中で目を閉じた。

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